夜風
背中越しから僅かに感じ取れる貴方の温もりを少しでも近く、強く、感じ取りたかった。
体勢を変えると静寂の部屋にベッドの軋む音が響き渡きわたった。
長いまつ毛に艶のある黒い髪、そして少しあいた薄い唇に思わず私は息を飲んだ。
するりと窓の隙間から入り込んだ
夜風に乗せられた彼女の匂いに気付いたのは、薄く閉じていた目を開けてからだ。
驚いた彼女の瞳に自分が映る。
彼女の唇を奪っていた。
少し湿り気のある柔らかい何かが口元に当たる。
違和感に思わず目を開けた。
その違和感を唇なのだと認識した時
思考がやっと追いついた。
刹那、自身の心の奥にある何かが私を歪めた。
バンッ
と大きな音をたてて彼女の上にまたがる
よじれる彼女の両腕を押さえつけ彼女の顔を見る
紅潮した頬と斜め下に目を背ける彼女の目は恥じらいと怯えが入り交じっていた
『 見て』
耳元で囁いた。小さな声を漏らした彼女は私と目を合わせた
瞳に映る私は口角が上がっていた。
私の恥ずかしさをよそに彼女は笑った
首に舌の感触を感じた。そしてそれはじょじょに、
じょじょに、ゆっくりと私の首筋を這う。
思わず漏れる小さな吐息が彼女にかかる
『 貴方の望みはこれかしら』
再び耳元で囁かれた言葉に答えは出なかった
目頭が熱くなり涙が溢れる。溺れる視界に映る彼女の目は寂しそうだった
彼女は私の唇を奪った
夜風 ピッピ @pippi2003
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