第3話 銃をメンテナンスする女

 私は翌日の10時に店のシャッターを開けた。マイク刑事から預かったガバメント ギャリソンの状態をチェックする。リングハンマーが欠けているので交換作業に取りかかった。

 1911の7連マガジンにも細かいクラック(ひび割れ)がある。メーカーから新品のマガジンを取り寄せる必要がある。


 ガンシューティングレンジの従業員がベレッタとグロックを店に持ち込んできた。シカゴ郊外にある店の名だ。破損した拳銃の修理を依頼するのだろうか。

「ミス・スミス。ベレッタ92とグロック17とグロック26の修理を依頼したい。グロックはファイアリング・ピンの交換が必要だ。2日以内にできるか? 」


 私は手元のメモ帳に2日後と記入した。

「大丈夫。部品のストックはあるわ。ベレッタは状態を見ないとわからないけど」

「サンキューな」


 私はお客が帰った後に、ベレッタ92FSの分解を始めた。ベレッタは工具無しで分解できるメンテナンス性の良さが売りだ。

 私はベレッタのリコイル・スプリングのヘタレ具合、ロッキング・ラグの状態を入念に調べてゆく。

 アメリカ製のベレッタはイタリア製よりも命中精度が劣るという噂話があるが本当だろうか? 事実は私にもわからない。


 グロックもベレッタと同様に分解する。

 グロックはリコイル・スプリングとファイアリング・ピンの定期的な交換が必要になる。もちろん、耐久性はSIGやHKに劣る。


 背が高い白人が店を訪ねてきた。テンガロンハットに青いジーパンを履いた男。テキサスの砂漠が似合いそうな人だ。

「45口径の拳銃はあるか? 」

「おすすめは3種類ありますよ。スプリングフィールドXD、HK45、FNX-45の3点です」

「装弾数が多いのは? 」

「一番多いのはFNX-45の15発。XDは13発、HK45は10発ですね」

「15発を見せてくれ」


 お客は45口径の拳銃を手にとって構えた。

「FNは豊富なアクセサリーが魅力です。タクティカルライトを始め、サイレンサーやドッドサイトを装着できますよ」

「キープしてくれ。また、来る」

「ありがとうございます」



 勢いよくドアを開ける音が聞こえた。客は小太りの中年男性。男は単刀直入にライフルが欲しいと言ってきた。

「AR-15をくれ。FMJ弾とHP弾も買うぞ。実は近所の家が強盗に入られてね。ホームディフェンスのためにライフルを買いたい」


 私は、お客に同じ言葉を何度も繰り返している。

「引き渡しは3日後になりますがよろしいですか? 」

「金はある。無いのはAR-15だけだ」


 私は背後の壁を指差して、AR-15の売り込みを始めた。

「一番人気があるのはブッシュマスターのXM-15。その次がスミス&ウエッソンのM&P15。スタームルガーのSR-556は安さが売りです」


 お客はセミオートライフルをじっと見つめていた。まるで品定めをするように観察している。お客は欲しい商品名を告げた。

「S&WのAR-15を手に取らせてくれ」


 私は壁に架けたミリタリー&ポリス15を取り外し、客に手渡した。マグプル製パーツが装着されたセミオートライフル。うちではイチオシの品だ。

「M&P15 スポーツⅡは680ドルとお買得ですよ。M-LOKハンドガード、ポリマー製のPMAG、MBUSの折り畳み式リアサイトが付いてます」


 お客はセミオートライフルを肩につけて構えてみせた。

「お似合いですよ。決まってますね」

「どうかな。似合うか?」


 中年男性は150発入りのホーナディ製 FMJと20発入りのホーナディ製HP を2個カウンターに置いた。

「今日は弾だけを買う。2日後に来るわ」

「フルメタルジャケット弾は71ドル、ホローポイント弾は21ドル。合計92ドルです」


 ベンと名乗るお客は実弾だけを購入した。ベンさんはライフルを買ってくれるだろうか。販売店で実物だけを見てネットで購入するお客も多い。私は小さな不安に襲われた。

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