第2話 拳銃を密売する男

 ある日の昼下がり。スミス ガンストアでは白人の30歳ぐらいの男が銃を物色していた。他に客は誰もいない。

 一人の金髪の女性がドアを押し破るようにして店に入ってきた。女性は黒いコートに青いジーパンをはいている。


 女性は拳銃を手に入れるため鉄砲店に駆け込んだようだ。「離婚した夫につけ回されている」と言っている。

「今すぐ拳銃が欲しいんだけど」

「拳銃の購入には72時間の待機時間が必要です。FOIDカードは持っていますか? 」

「いや、持ってないわ」

「では、FOIDカードの申請を。申請料は10ドル、30日間以内には申請が通ります」


 ジョディはスミス店長に拳銃を売ってくれと懇願した。望みが叶わないと知るジョディ。彼女は悲痛な表情をした。

「そんなに待てない。元旦那に殺されるわ」

「悪いけど売れないわ。イリノイ州の法律に従わないといけないから」


 ジョディは店を飛び出した。事情を察した白人の男も店を出る。白人はジョディの肩を触り、拳銃を売ってやると話を持ちかけた。

「拳銃が欲しいのか。俺が売ってやる」

「お願いするわ。ぜひ」


 白人は連絡先を書いた紙をジョディに手渡した。ジョディは白人の顔をじっと見つめる。

「3時にホテルの12号室に来い。現金を忘れるなよ」

「わかった。3時までに行くわ」


 午後2時55分、ジョディは指定された部屋を2回ノックした。中から緑色のジャケットを着た白人バイヤーが顔を見せた。金髪・碧眼の男はジョディを部屋に招き入れる。

「ようこそ」


 白人はベッドに置いた2個のスーツケースを開けた。黒いケースには自動拳銃が6点納められている。

「さっそく商談を始めよう。拳銃が欲しいと言っていたね」

「ええ、そうよ」


 男は上着のポケットに携行可能なコンパクトピストルを勧めた。軽くて持ち運びやすいポリマーフレームの拳銃を熱心に進める。

「SIG P365はグリップが握りやすくて撃ちやすいぞ。アメリカで大人気」

「S&W M&Pシールド、これはコントロールしやすい」

「グロック26は世界的に有名な拳銃だ。スライドを後ろに引いてトリガーを絞ればいい」


 男はジョディに拳銃を渡しながらセールストークを続けた。ジョディはグロック26を両手で握り、窓から外を眺めた。

「グロックは信頼性が高い。オススメだよ」


 ジョディはスーツケースにグロック26を戻した。

「ワルサー PPKは有名だけど骨董品だからおすすめはしない」

「007の奴ね」

「お次はワルサー P99、16発入る。これを持てば君もジェームズ・ポンドだ」

「最後はカーアームズ K9、グロック26やワルサー PPKよりサイズコンパクト」


 金髪の男はジョディに「ところでどれにする?」と聞いた。男は一人で話を続けている事を気にかけ、ジョディに話を降った。

 ジョディは「グロック26。弾も買うわ」と答える。男は「そうこなくっちゃ」と言って笑う。


 男は「グロック26は400ドルでいい。9ミリ弾50発もつけてくよ。大サービス」と言う。

 ジョディは男に400ドルを手渡した。バックに50発入りの箱とグロック26を詰めこんだ。


 ジョディが部屋を出ようとした時、白人はスマートドラッグを勧めた。

「良かったら薬はどう? 集中力が高まって仕事がはかどるよ。アデロール、コンサータ、ストラテラ、モダフィニル、ピラセラム、何でもそろってるよ」


 ジョディは毅然とした態度で「いらないわ」と告げた。男は続けて「テスラ モデル3はどうだい? 程度の良い車が3万ドルだぞ」とセールを続ける。


 ジョディは欲しいものを手に入れた。他に何もいらない。彼女に必要なのは平和な日々だけだ。



(タクシードライバーのオマージュです)

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