シカゴの一角で銃を売る人々【完結】

阿野ミナト

第1話 鉄砲店の女店主

 私、マッケンジー・スミスはシカゴ郊外にあるスミスガンストアで店主をしている。

 私は両親から受け継いだ鉄砲店を大切に守ってきた。今日も様々な事情を持つお客さんが銃を買いに店を訪れる。


 シカゴ警察のマイク刑事が仕事中にも関わらず、店にやってきた。先日、愛用するガバメント ギャリソンの調子が悪いからメンテナンスの依頼をしたいと予約があった。


 マイクは.45ACP弾とガバメントを購入してくれるお得意さんの一人だ。

「いらっしゃい。メンテの依頼でしょう 」

「そうなんだよ。1911をメンテナンスに出そうと思って」

「あなた刑事でしょう。バックアップ用の拳銃はあるの? 」


 40歳を越えた中年刑事はホルスターからステンレス仕様のキンバーⅡをサッと取り出した。

「俺にはキンバーウォーリアがある」

「じゃあ、メンテが終わったら電話するから」

 マイク刑事は1人で店番をする私を心配している。気持ちはありがたいと感じていた。でも、鉄砲店で強盗するバカはいない。私は警察のお世話になることはないと考えていた。

「俺の部下にもこの店を紹介しとくよ」

「ありがとう。よろしく」



 木製のドアが開いた。白髪頭の老人が鉄砲店に来店した。初めて見る白人の男。老人はレジのそばにいる店員に話しかけてきた。

「いらっしゃい。ご用件は? 」

「小さい拳銃を一つくれ」


 私は運転免許書、もしくはIDカードとFOIDカードの提示を要求する。老人は財布から運転免許書とFOIDカードを取り出した。

 私はパソコンでFBIのデータベースにアクセスし、彼に犯罪歴や飲酒運転、不名誉除隊の経歴がないかどうかを調べた。問題なし。

「自分の身を守るには拳銃が一番ですよ」

「ジャングルで拳銃を使ったことがある。あれは1911だったかな」


 70歳の老人は、ショーケースに展示してある拳銃を見つめて「22口径はあるのか」と尋ねた。

 私は臆せずに自分の意見を主張する。

「これは私の意見ですが、22口径の拳銃は威力に欠けます。もっと威力がある拳銃をおすすめしますよ」


 ショーケースからグロック26の4世代型を取り出してカウンターにそっと置いた。

「例えば、軽くて安いグロックシリーズはいかがでしょうか。持ち運びに便利なグロック26がおすすめです」

「デザインが気に入らん。見た目がおもちゃみたいじゃないか」


 私は気を取り直してグロックをケースに直し、老人にカーアームズのP380を手渡した。

「私のおすすめはKHAR・P380。小さい上に軽く、トリガーを引くだけで発射できます」


 老人はP380を右手で構えた。トリガーを引いて感覚を確かめている。

「これをもらおうか」


 私は老人に「弾はいりますか? 」と聞いた。老人は「君に任せる」と言っただけで何も語らない。

 私はカウンターから1箱50箱入りのフェデラル製アメリカンイーグルを取りだした。フルメタルジャケット弾の価格は1箱14ドル40セント、 カーアームズ P380は495ドルする。


 私はハードケースの中にある拳銃本体、6連マガジン2つ、取り扱い説明書を確認した。

「では、3日後に来店してください。イリノイ州は72時間の待機時間が必要なんです」

「州の決まり事には従うしかない。シカゴは銃規制が厳しいと友人から聞いていたが本当のようだ」


 私は申し訳ないと感じていた。せっかく店舗まで買いに来てくれたのに商品を渡せない。

 今の時代、インターネットで銃を購入する人が増えている。わざわざ、店舗まで足を運んでくださるお客さんは貴重な存在だ。

「おかげで商売が大変です。お客様に迷惑をかけているので」

 老人は「3日後にまた来る」と言い残して店を出た。



 親子そろっての来店。レイ・チャールズ氏が12歳になる息子を連れてきた。3日前に注文したライフル銃を引き取りに来たのだろう。

「今日は息子のライフルを引き取りに来てね」

「ご注文は22口径のルガー 10/22でしたね。変なクセがつきませんし、反動も少ないライフルですよ。ルガーは240ドルです。弾も買いますか? 」

「ああ、頼む」


 私はルガーをレイ氏の息子に持たせてみた。12歳の子供は嬉しそうな表情で22口径ライフルを構えている。子供が喜ぶ姿を見ると店員まで嬉しくなる。


 私は奥の部屋から白い長方形型の箱を取ってきた。中にはルガー 10/22と説明書が入っている。スミス ガンストア特製の青い袋にライフルと弾を入れた。

「CCI製のミニマグが1箱100発入ってます。価格は9ドルです」


 お客さんに感謝されると仕事を頑張れる気がする。今日も1日閉店まで頑張るぞ!

「ありがとう。良い買い物ができたよ」

 私は精一杯の感謝の気持ちを込めて「ありがとうございました」と言った。

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