第2節 懇願
悪魔暦9503年
アベルは1人前の悪魔として認められる儀式を行える歳となった。
悪魔祭。儀式の内容は簡単だ。生贄として捧げられた人間を自らの手で殺し、魂を食らう。そんな単純な儀式だ
アベルは胸を踊らせていた。あれ程興味を持っていた人間とやらを初めて見る機会が訪れたのだから。
高揚感で尻尾が逆立つ。月明かりに照らされた真紅の血をグラスに注ぎアベルは微かに口角を上げた。
〜悪魔祭当日〜
父 サタンの主催の元、儀式は始まった
城の闘技場にアベルは足を踏み入れる。
朦々とした暗闇にたちこめる微かな淡い炎を頼りに足を進めていくと嘆く生き物の声がした。
明かりに照らされ現れたその姿は痩せこけた人間の姿だった。
あぁ……これが人間か…
アベルは笑った。声を高らかにして笑った。これほどまでに興味を抱いていた人間をやっと見れた。嬉しさと高揚感で頭が狂いそうだった。
人間はアベルの姿を見て怯えていた。恐怖に支配されたその目の中には微かに違う者が感じられた。
アベルは距離を詰めた。すかさず人間が走り出す。遅い。鋭い爪で背中を裂いた。溢れ出す鮮血を浴びたアベルは高揚感で満たされていた。初めて味わう人間の血の味。今まで呑んでいたどの血とも味が違かった。美味い。アベルは血走った眼で人間を見た。
四肢を押えられ倒れた人間は恐怖に怯えていた。周りの歓声は最高潮に高まっていた
殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!
歓声の声が1つに重なる。声を頼りにアベルは腕を振りかざした。首元に向かいつもない速さで手は向かう。その時人間は震えた声で嘆いた
『 愛する人がいるんだ…助けてく……』
ドサッ。そんな音をたて人間は絶命した。
アベルは確かに聞いた。「愛」という言葉を
愛。過去の記憶が蘇る。我々悪魔とは違った感情。愛
アベルは口角を上げた。
なんて人間は面白いんだ
死に際でさえも口に出してた愛という言葉。アベルは愛を知りたくなった。
『 儀式は終わりだ。アベル。お前は1人前の悪魔だ』
父サタンが言い放った
『 ありがとうございますお父上』
アベルはどうしても言いたかった。人間界に行きたいと。愛とは何かと。思いこぼれふと口に出してしまった。
『 お父上。私は人間界に行きたいです。人間は面白い。死に際でさえも愛を呟く。私は愛を知りたいです。』
父は驚く様子もなくこう言った
『 愛を知りたい……か』
微かに口角を上げた父は続けて
『 いいだろう。行かせてやる。ただ1つ条件がある。人間と恋に堕ち、最愛の人を殺せ。』
父が意外な言葉にアベルは舞い上がり条件を承諾した。
愛がなにかを知らずに……
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