雪と猫

宵埜白猫

雪と猫

寒い


1月も折り返しになった今日、この冬で初めての雪が降った。

実家を出て、大学に進学してから3年。

90分の講義にも、週4のバイトにも慣れた。

それでも、この冬の寒さと雪には慣れない。

バイト帰りの夜道を一人で歩きながら、高校の時に想像していたものが、どれだけ甘かったか思い知る。


実家にいた頃は、大学生になったら勉強なんてほとんどせずに遊べると思っていた。

けど実際は、レポートもあるし、バイトしなきゃ生活も危ういし。

遊んでる暇なんてほとんどない。


それに、そうやって忙しなく過ごした後で、帰った家に誰もいないのがこんなに寂しいとは思わなかった。

当たり前のように飛んできた「お帰り」も、帰るのに合わせて作られた温かい食事もない。

ドアを開けた先にあるのは、最低限の物しかない殺風景な部屋だけだ。


そんなことを考えていると、マンションに帰るのも憂鬱になってきた。

はぁ、とため息を1つついたとき、おかしな景色が視界の端に映る。

『ひろってください』

拙い文字でそう書かれた段ボールの中に、弱々しい目でこちらを見つめる猫が一匹。

雪のように真っ白な毛を持った、可愛らしい猫だ。


ひどいことをするやつもいるもんだ。

捨てるならせめて春にすればいいのに。

今までぬくぬくと過ごしていた家を、こんな寒い日に追い出す必要もないだろう。


だけど、毎日大学やバイトで家を空けている俺には、この子を拾ってやることはできない。

せいぜいできるのは、今持っているカイロを、段ボールに敷いてある毛布の下に入れてやることくらいだ。

「ごめんな」


猫を置いて、マンションに帰る。

ただでさえ憂鬱だった気分が、さらに沈んだ。

あの猫は大丈夫だろうか。

鍵を回してドアを開ける。

「ただいま……」

習慣付いた挨拶は、中に誰もいないと分かっていても口からこぼれる。

いつもどおり、静かな部屋。

暖房もついていないので、外とほとんど変わらない寒さだ。



ミャオ。

足元から聞こえた声に驚いて下を向く。

先ほどの猫が足に顔をすり付けながら鳴いていた。

こんなとこまで着いてきたのか。

足首から、かすかな暖かさが伝わってくる。


まあ、今からさっきの場所まで連れていくのもめんどくさい。

ペット禁止の物件でもないし、俺がいない間のことは大屋さんや友達に相談してみるか。

エサはコンビニでも売ってるし、お金もなんとかなるだろう。

そんなことを考えていると、少し楽しくなってくる。


久しぶりに、一人じゃない部屋。

猫一匹分狭くなった部屋は、いつもより少しだけ温かく感じた。


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雪と猫 宵埜白猫 @shironeko98

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