第25話
自宅に戻ると、いつも通りマーちゃんがテレビを見てくつろいでいた。
「お、おおおかえり。ハヤト……」
「うん、ただいま……」
今日のおかえりは、何だか妙にたどたどしいというか、ぎこちなかった気がする。……どっか壊れたりしてないよね? と部屋を見回そうとしたところで俺は首を振った。今更そんな風に疑ったりしてどうする。それにマーちゃんも一応大人の女性である。俺には言えない秘密の一つや二つあるだろう。最近は一人で出歩いたり買い物もしてるみたいだし。それに……好きな人の行動をいちいち気にして疑うような男に俺はなりたいとは思わない。
「あの……その……。一緒に映画を……見たいんだが……いい、だろうか……?」
一旦洗面所に行って手洗いをして戻ってくると、マーちゃんがもじもじしながらそう言ってきた。
「今から?」
「……ダメ、だろうか?」
「別に予定とか無いからいいけど、何で一緒に? 見たいなら一人で見ていいのに」
「それはそうなんだが……一緒が、いいんだ」
「わかった。いいよ」
俺なんかと一緒に観ても洒落た感想も言えないだろうし仕方ないだろうとも思ったが、だからと言って断る理由も無いし、一緒に見たいと言ってくれるのなら、そうしたい。
「で、どんな作品?」
「あ、ああ」
マーちゃんはすっかり慣れた操作でテレビの画面をサブスクの動画配信サービスのものに切り替えた。契約し始めた頃は俺が興味あるアニメを主に見ていたが、今の視聴履歴はマーちゃんが観てきた統一性を感じないバラバラなジャンルの作品に埋め尽くされている。
「こ、これだ」
マーちゃんがそう言って開いたのは最近配信開始された恋愛映画のページだった。
「ネットで調べたら、評判が良かったんだ」
「そうなんだ。観てみたいな」
「そ、そうか。なら良かった。……じゃあ、いいか?」
「うん」
そして俺たちは、映画を観始めた。内容は引っ込み思案なヒロインが、夢を追いかけ続ける主人公とひょんなことから出会い仲良くなって――といった物語。今では逆に珍しいレベルの、王道恋愛ものだった。ヒロインは明るい性格の主人公に色々な場所に連れて行ってもらい、色々なことを知っていく。そしてヒロインも、自分だけの夢を見つけた。しかしその後、主人公にとある悲劇が降りかかり、長年の夢が断たれてしまう。ヒロインは、あなたと出会ったせいでこんなことになったのだと主人公に好意を抱いていた別の女の子に言われる。
「……!」
マーちゃんが、画面を観ながら俺の左腕をぎゅっと掴んできた。マーちゃんが向こうの世界でどんな仕打ちを受けていたか、どんな思いであの屋敷に住んでいたのか、俺は全てを知っている訳ではない。でも、少なくとも、ここにいる間は、心おきなく、自由に、明るく暮らして欲しい。俺はそう思いながら、マーちゃんの手を右手で動かして、左手と繋げ直した。
ヒロインの心は折れなかった。なぜなら主人公に夢と前に進む力を貰ったから。そして今度は主人公がヒロインに背中を押され、再び夢に向かって歩き始めた。そうしてヒロインも自分の夢に向かって歩み始めることを決め、主人公とは離れる決意をする。自分の力で歩く決意をしたから。
しかし主人公が自分の元から去ろうとするヒロインに好きだと告白する。これからも一緒にいたい、一緒に夢を追っていきたいと真っすぐに言った。ヒロインはそれを聞いて涙を流しながら、私も好きだと告白した。そうして二人はキスをして、物語はハッピーエンドを迎えたのだった。
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