第17話 2度目の初ジョブ







『【神聖魔術】【怪力】【体術】【魔石喰らい】のレベルが上がりました』


 光属性魔法も闇属性魔法も使えないジークは、夜目が効かないこの体でも見えるように、〖ハロー〗という魔法を作り出していた。


 仄暗く光っている、ただ魔力を放出するだけの〖エンジェルオーラ〗よりも光を出すことだけに特化した、後光を出すことをイメージした魔法、それが〖ハロー〗である。


 その魔法を使うことで、ジークは夜の森の中でも狩りをすることが可能だったのだ。

 といっても、アモルは【気配感知】を〖エンジェルオーラ〗に媒介させることで狩りをしていたのだが……。

 ちなみにアモルは自分を鍛えたいと、自ら望んで森に留まり、今も森の中でモンスターを狩っている。


 一方森での魔石狩りを終え、街の広場で仮眠を取ったジークは水魔法で体と服を洗っていた。


(広場の噴水の水を流用すれば、ほぼ魔力を消費しないから少ないはずの自分の水属性魔力でも余裕で洗えるな……。まあ、【魔力支配】があるからこそできるんだけど)


 体と服の周りに水の層を張り、汚れを取っていく。


(よし、この魔法を〖ウォッシュ〗と名付けよう。この魔法があれば宿はいらないな。まあ、睡眠はちゃんと取りたいけど)


 別に睡眠を取らずとも、今のジークは生きていけるのだが、仮に取らなければ、疲れは取れず、睡眠時に大きく魔力量が回復することもない。そのため、ちゃんと取った方がいいのである。


(……まぁ、これからのことは今日の夜にでも考えよう)


 そして、ジークは〖ウォッシュ〗を解除した。


 このままじゃ濡れたままじゃないか?と思われそうなものだが、実際は【魔力支配】でほぼ全ての水を移動させられるので、火などで乾燥させるよりも余程効率よく乾かせるのだ。


(って、よく考えたら聖水とかなら神聖属性魔力で作れそうだな……。今度はそれを試してみるか)


 新しい魔法を【並列思考】で検討しながら、ジークは大きく伸びをする。


「よし、そろそろギルドに行くか」


 空も白んできて、〖ハロー〗を使わずとも見えるようになった広場の時計台は7時を指していた。それを見て、ジークは動きだす。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






 10分程歩いてギルドに辿り着いたジークは、赤い扉を押し開けて中に入る。


(よかった。サーシャさんもアイズさんもいない。これでいない間に冒険者登録した、ってことにできるな)


 そう胸を撫で下ろしたジークだったが——


「あれ、もしかしてあなたがジークさんですか?」


——直ぐに受付から声がかかった。


(えっ、何で俺の名前を知ってるんだ?)


「白銀の髪に赤い目なんて珍しいので多分間違いありませんよね。すみませーん、ジークさーん」


(確実に呼ばれてるよな……。はぁ、行かなきゃダメか……)


 ため息を吐きながらジークは受付のカウンターへと向かった。


「アイズさんから『サーシャが迷惑をかけた相手が今日の朝に冒険者登録するらしいから助けになってやってくれ』って言われてるんですよ〜」


 茶髪で眼鏡をかけている、ぱっちりとした目をする少女の名札にはシーアと書かれていた。


(アイズさんめ……余計なことを……)


「あぁ、そうなんですか。ありがとうございます」


 適当な相槌を打ちながらジークは【並列思考】で考える。


(もし仮にここでこの誘いを断ったとしたら、恐らくアイズさんに冒険者登録していないという情報が届く。そしたら怪しまれて面倒なことになりそうだ。なら、不本意だけど、またあれをやるしかないか……)


「あれ、シーアさん、ちょっと失礼しますね」


 そう言って、シーアの頬にジークが触れる。途端神聖な魔力がシーアの体に電撃の様に走った。


「えっ!あうっ……」


 体に走った魔力が引き起こす快感でシーアが嬌声をあげる。


(【形質反転】!)


 シーアの冒険者登録していない、という意識を冒険者登録した、という意識に〝反転〟させる。


「すみません、シーアさんの頬にまつげが付いていたので取らせてもらいました」


 ジークは微笑みながら言った。


「あっ、あっ、えっ、はいっ、そうですか」


 そんなジークにシーアが動揺した様子で答える。


「それじゃあ、冒険者登録は終わったようなので、これで」


 ジークはそう言ってスタスタと転職部屋へと歩いていった。


 その背を見つめながらシーアは考える。


(あれ、確かに冒険者登録したはずなのにぼーっとしてたのか覚えてない。それに、ジークさんに触られた瞬間に感じた電撃が走ったようなあの快感。まさか、私……)


 そうしてシーアはこう結論付けた。


(……ジークさんに一目惚れしちゃったの!?)




 また1人ジークの犠牲者がここに生まれた……。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






 なんとか無事に場を乗り切れたようだ、と転職部屋の中でジークは独りごちた。実際は何も乗り切れてはいなかったが。


(そういえば、この体へと転生してからは初めてのジョブだな。……といっても、前の体でついたジョブは見習い職の二つだけだったけど……)


 かつての自分へと思いを馳せながらジークは部屋の中央に置かれた水晶に触れる。


ーーーーーーーーーーーーー

ジョブチェンジ可能ジョブ


魔力操士

バーサーカー

学者

テイマー

リッチ

火魔法使い

水魔法使い

モンク

神聖魔術使い

幽体士

糸操士

毛髪闘士

裁縫士

詐欺師

リベリオン

マジックイーター

念話士

ンザンビ


ーーーーーーーーーーーーー


(……いや、流石に多すぎだろ)


 ジークは唖然とした。元の体の時とは出てくるジョブの数も質も違うからだ。


(まず、自分が就いてた見習い職がないし、聞いたこともないジョブがいくつかあるな)


 たくさんのジョブが表示されるとは思わなかったジークは、自分の前に現れた多くの可能性に頭を悩ませた。


(出てきて3つ4つだと思ってたのに……。何を選べばいいんだろうか、詐欺師とかは論外だけど、そこからが絞りきれない……)


 そうして頭を悩ませること数分、ジークはついに結論を出した。


(うん、そうだ。最強の道へとすぐに進むことはできないジョブだけど、きっとこれはレイラさんに喜んでもらえるジョブだ。だから、裁縫士になろう)




「裁縫士を選択」




『裁縫士にジョブチェンジしました』


『【裁縫】のレベルが上がりました』


『【イメージ強化】を習得しました』



 久しぶりに感じる頭に情報が流れる感覚。


(また、冒険者になることができたんだよな)


 ゴタゴタで実感しかねていたその事実に、ジークはついに夢を叶える道が見えてきた、と喜びを噛み締めた。



(おっと、せっかくジョブチェンジしたんだからステータスを見てみるか)


「『ステータス』」


・名前:ジーク

・年齢:0

・種族:半神半人デミゴッド

・位階:1

・レベル:29

・ランク:G

・ジョブ:裁縫士

・ジョブレベル:0

・ジョブ履歴:無し



・パッシブスキル

魔力支配lv3

怪力lv2

並列思考lv7

従魔強化lv2

生命力強化lv1

イメージ強化lv1


・アクティブスキル

火魔法lv8

水魔法lv4

体術lv8

神聖魔術lv4

テイムlv1

幽体離脱lv1

裁縫lv2

詐術lv3


・固有スキル

形質反転lv6

魔石喰らいlv9

ソフィアlv7

亜神lv1




 確実に前より強くなっている。その事実が、ジークにはただただ嬉しかった。


 万感の思いを胸に、ジークは部屋を後にしたのだった。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






 ソレヴィアが来るまでの間に、ジークは糸を使う技術を高めるために、ギルドのトイレで〖ゴッデスヘアー〗を使って、服を作ることに挑戦していた。


(とりあえず、生前持ってた服を〖ゴッデスヘアー〗で真似てみるか)


 裁縫士になった今、ジークは糸をどのように織ればどのような見た目になるのか、服を作る時どのようなデザインになるのか、といったことをイメージすることが容易になっていた。


(もしかしなくても【イメージ強化】のおかげなのかもしれないな)


 ジークはそう考察する。


(よし、それじゃあ早速作り始めるとするか。イメージが強化された今なら、新しく魔法を作り直さなくても女神の髪にありそうな美しい色なら〖ゴッデスヘアー〗で出せそうだ)


 作り出せた色は光沢のあるスカイブルー、ベビーピンクであった。


(それならこの2色にブロンドを含めた3色を、昔着ていた服の色に置き換えて編んでみるとするか)


 ジークは、自身がシークであった頃に着ていた服をイメージし、色を入れ替え、作る服のイメージを構成していく。


『〖ゴッデスヘアー〗』


 そしてついに編み始めた。


 【並列思考】を使い一斉にイメージを現実へと落とし込んで行く。

 すると、僅か2分程度の時間で服が完成した。


(どうせなら下着とかばんも作ることにしようか)


 そう考えたジークはそれらも同じ要領で作っていく。

 それらが出来上がったのはソレヴィアとの約束の10分前であった。


 貫頭衣は出来立てのかばんにしまい、そして、作った服に着替えて、ジークはトイレの外へと出ていった。


『【イメージ強化】【裁縫】のレベルが上がりました』






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






「あ、あの、ジークさん、その服どうしたんですか?」


 受付の前を通り過ぎた時、シーアがジークに尋ねてくる。


 なぜそんなことを聞いてくるのだろうか、とジークは疑問に思いながらも、軽い嘘をついた。


「ちょっと服を買ってその場で着替えてきたんですよ」


「そ、そうなんですか。お高い服なんでしょうね」


「ありがとうございます」


 ジークはシーアに微笑み、直後ソレヴィアを見つけると彼のもとへと行ってしまったのだった。


 そしてそんな彼の背中を見つめながら、シーアは首をブンブンと振っていた。


(私、まさか本当に一目惚れしてしまったの!?)


 そういったことを考えて悶えながら。






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(うん、そうだ。最強の道へとすぐに進むことはできないジョブだけど、きっとこれはレイラさんに喜んでもらえるジョブだ。だから、リッチになろう)


「リッチを選択」


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次回、〝え、お金持ちのことじゃないの?〟


※この予告はフィクションです。

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