第4話 新属性魔法
ダンジョン内にも朝昼晩はある。と言っても何処かには時空が歪んでいるダンジョンがあったり、常闇のダンジョンがあったり、と様々なことが噂されている通り全てが全てそうではないのだが。
とはいえ、少なくともこのD級ダンジョン「月影の砂塵」ではそうであった。
目に映る限りひたすら魔物を狩り続けたシークであったが、夜になると寒さで手が悴んで来たのか、手を擦りながら暖をとる準備をしている。
シークはダンジョン内に落ちていた、かつて誰かが着ていたであろう冒険者の服の一部、もといボロ切れをかき集めていく。それに火魔法〖ファイアーボール〗で火をつけながらシークは考えていた。
魔法の適正は何によって決まるのだろうか、と。
生まれ持った才能なのだろうか?いや、それだけではない。それなら火属性の適正しかなかった自身に水属性魔法を使えることがありえないはず。では、何によって決まるのか。
このような自問自答を延々と繰り返していたシークだったが、結局答えが出ることはなく、遂に彼は思考を放棄した。
(自分だけじゃ分からなかったしソフィアに聞いてみよう。よし。なあ、ソフィア、魔法の適正って何で決まると思う?)
——知らない。けど、考察ならできる。
(教えてくれ)
——恐らくは対象者がその属性の魔力を持っているかどうか。シークは火属性の魔力しか持ってなかったけど、【形質反転】で水属性の魔力を持つことができた。だから水属性の適正ができたのだと推測される。
(なるほど、確かに。)
ソフィアの考察に納得するシークだったが、ふととあることに気が付いた。
(そういえば頭が良さそうだから、と安直にソフィアって名付けたけど、よく考えたらソフィアって女っぽい名前だよな。ソフィアは元々は〝俺〟なんだし男なのに)
そう考えるとなんだかソフィアに申し訳なってくるシーク。
(申し訳ないな……)
——気にするな。
(いや、気にしちゃうって)
——本当に大丈夫だ。
(……そうだ!それなら【形質反転】で女に変えられるか試してみよう!)
——え、ちょっ、えっ。
(よし、【形質反転】3秒前。3、2、1)
——や、やめろ。
「【形質反転】」
——なんてことをするんだ……。普通なら名前を変える。
(あ、確かに)
——シークはグールになったからか正常な思考ができてない……。
(ま、まあともかくソフィア男問題は解決されたな……!)
——……はぁ。
気を取り直したシークは、一人でいる時間が長いと精神に異常が出るのかも知れないな、と謎の自己弁護をしていた。どこかからソフィアのため息が聞こえてきたのはきっと幻聴ではない。
孤独を紛らわすために【ソフィア】には話相手になってもらえればな、といったことをシークはぼんやりと考えていた。
(いや、念話相手っていうべきなのか……?)
『【ソフィア】のレベルが上がりました』
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(ソフィアの言ってたことが正しいのなら、俺には神聖属性の適正があるってことになるはず。というか、そもそも神聖属性って勝手に呼んでるけど神聖属性ってなんなんだ?)
シークがそのような疑問を抱いたのは、この世界には6つの属性しかないと言う考えが一般論として浸透しているからである。
その6つというのは光、闇、水、火、土、風の六属性である。
この中に当て嵌めるとすれば光に一番近いように彼には思えたが、それと同時にこの神聖な魔力が光属性の魔力とはやはりどこかが決定的に違うようにも感じられた。
(まぁ、光属性の適正がないから正確なことは言えないけど、反転したら闇属性にならない時点で光属性ではないよね)
だとすれば、これは今までに知られていない新たな属性なのだろうか。そう考えたシークは口元をにへらと弛ませた。
(そうなのかもしれない。ふふふ、新属性、いい響きだな)
破顔しているシークは〝不審者〟というジョブがあればレベルがいくつも上がりそうな程に人前に出られない状態であった。
しかし、それ程までに自身が強くなれることが彼にとっては嬉しかったのである。
(新属性魔法の使い手、新しい可能性、他とは一線を画す能力、ふふふ)
鼻歌まじりに新属性の魔法をシークは考察していく。
(スキルには表示されてないけど、魔法を使うことができない訳ではないんだろうな。現に水魔法を覚えてなかった時に水の玉を出すことができたんだし。それなら、水の玉と同じように神聖属性魔力を込めた玉を作ってみよう)
火属性、水属性魔力とは違って潤沢な魔力があるために失敗を恐れず試せる、と考えたシークは、早速発動を試みていた。
「ふんっ」
自分の体内にある神聖な魔力を体外に放出する。
そして、それを一箇所に集めていく。
が、その魔力は収束せずに発散してしまった。
「なかなかに難しいな……」
水属性の時は直ぐにできたのに神聖属性が難しいのはなぜなのか、とシークは疑問を抱く。
(むむむ、分かんないしソフィアに聞いてみるか。なあ、ソフィア、なんでだと思う?)
——あくまで推測だけど、水は集まってることが普通なものだというイメージがあるからかもしれない。世界には水が集まって存在してるから。
(なるほど。もしそうなら神聖なものが集まってるイメージを持てばいいのかもな)
その顔を小刻みに縦に振ることで納得を示しながら、シークは別のことへと疑問を移していく。
(……そういえば、ソフィアは元々は俺のはずなのになんで俺よりも頭がいいんだ?いや、ソフィアに聞いても意味がないのかもしれないけど)
——分かるよ。
(いや、分かるんかい)
座っているのにずっこけそうになりながら、シークはつっこんだ。
(……いや、なんでなの?)
——私はシークと違ってキャパシティを体の制御に割いてないから。思考だけにキャパシティを費やせる。だから、その分シークよりも思考力がある。
(あ、そういうことなんだ。納得した)
シークは少し感心した表情で再び頷いていた。
——それよりも神聖属性の魔法、練習しないの?
(あ、そうだった)
(神聖なものが集まってるイメージ……。天使がいる楽園とかかな?でも玉というからには小規模なものじゃないと。楽園のイメージじゃ大きすぎる)
〝神聖なものが集まってるイメージ〟を想像するのに悪戦苦闘するシークだったが、ふと、彼の頭にあるイメージが過ぎった。
(そうだ。それなら天使の、細胞の集合体である拳ならいけるんじゃないか?なかなかにマッドサイエンティストチックなイメージだけど、イメージとしてはいいかもしれない。よし、やってみよう)
シークはまず天使の拳の概形をイメージする。
そして、神聖な魔力の粒一つ一つが細胞となりその拳を構成していくことをイメージする。
そのイメージ通りに魔力を集めていく。
シークが放出した〝神聖属性魔力〟はどんどん収束していき、やがて一つの魔力塊が形成される。
「できたっ!」
できていた。玉ではないが、確かに神聖な白さを湛えた拳のような何かがそこには浮かんでいた。
(やっぱ魔法ってイメージが大事なんだ。ああ、でも、無詠唱だと魔力の消費が激しいから詠唱も大事だよな)
イメージのみでは魔法の細部まで想像することができないため魔力をいたずらに消費してしまう。それを防ぐために魔法というのは〝力ある言葉〟でその存在を縛ることが大事なのである。
これは、シークが岩魔法の使えるヴァンに教えて貰ったことであった。
(〖ファイアーボール〗よろしく〝ホーリーボール〟なんて名付けるつもりだったけど、これはそんなイメージには合わないよな)
ならば、この魔法は——
〖エンジェルフィスト〗
——そう、名付けよう。
『【神聖魔法】を習得しました』
(おお、やった!でもまだ実戦に使うには心許ない。実戦に使うまでには【神聖魔法】のレベルを上げておきたいな)
そう考えたシークは潤沢な魔力を活用して只管に〖エンジェルフィスト〗を使っていく。
一つ発動させると同時に、もう一つ発動させようとするが、これが中々難しいようで収束したかと思えば直ぐに霧散してしまう。
一つに集中すれば、もう一つが崩れ、もう一つに集中すれば初めの一つが崩れる。
それを繰り返していると、徐々に慣れてきたのか、シークは〖エンジェルフィスト〗二つを安定して出せるようになっていた。
それなら、とさらにもう一つ発動させてみるシークであったが、これもまた直ぐに霧散してしまう。
「むっ、これは難しいな」
二つ出していた時とは次元の違う難しさに、シークの口からは思わず声が出た。
そんなこんなで物理的に眠れない夜を過ごしているシークだったが、焚いていた火に寄せられたのか現れたモンスターの出現を目敏く見つけると立ち上がった。
訓練のために〖エンジェルフィスト〗を維持しながら体術で倒していくことにしたシークは天使の拳を浮かび上がらせながらも淡々と敵を屠っていく。
倒した敵の魔石を喰らい、【形質反転】で邪悪な魔力を神聖な魔力に変換しながらも訓練を只管続けていたシークは、夜が明ける頃には〖エンジェルフィスト〗を四つまで出せるようになっていた。
『【並列思考】を習得しました』
『【神聖魔法】【魔力制御】【並列思考】【魔石喰らい】【体術】のレベルが上がりました』
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〝とある神の日記〟
ジョブは本人が出来ることに合わせて作られ、その人の力をより引き出すように経験を構築していくものである。
だから、新しいことをできる人間が現れれば新たなジョブが生まれるのだ。
今日はそんなジョブの一つ、〝不審者〟について書こうと思う。
・ジョブ名:不審者
・発現条件:不審な行動をとること
・説明:ただの悪口である。
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ただの悪口である。
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