第3話
結論から言おう。
食料探しは全敗でした。
あのあと勇んで四方を探索しました。
木々が繁っていて、森のようになっていた。森も二時間くらいさ迷ったが、収穫はなし。生き物の気配、皆無でした。
疲れたからだを引きずり、初心者の舘まで戻る。
帰ってきたー。
自身を鑑定するとSPが減っている。ローブを脱ぐのもめんどくさいが、習慣とは恐ろしいもので。空腹を抱えつつ、脱いだローブもそこそこに、回復の泉に浸かる。
癒されるわ〜。
これで温かければ最高なんだけど。SPももちろん回復していく。
あれ、空腹もなくなっていく?
そう言えばこのゲームに出てくる食料アイテムの効果ってSPの回復だったっけ……?
え、どういうこと?
空腹も回復の泉で回復するの?
飯を食べなくても、回復の泉に浸かってればいいってこと?
このゲームのような世界に迷い混んで一番の混乱に襲われていた。
深く考えれば考えるほど気分が悪くなってくる。
もしかして生命の根幹部分がまるで異なってる?
自分が人間以前に、生き物ですらない何かになってしまったような恐怖感。体の芯から別の次元での存在に侵食されてしまっていて。しかもそれに全く今まで違和感を感じられていなかったとか。
ふらふらとした足取りで回復の泉から出る。
胃がからっぽでなければもどしてしまっていたかもしれない。
やばい、なにもする気が起きない。
こちらの世界で目が覚めて、知らず知らずのうちに張っていた緊張の糸が切れてしまった。
思ったよりも反動がでかい。自分で感じてたよりも今の状況にストレスを感じていたようだ。
ローブだけ羽織り、回復の泉の近くの瓦礫にもたれ掛かるように座り込んでしまった。
この世界に来て7日。
回復の泉で感じた衝撃も時間経過とともに割りきった。
しかし、食糧確保の目処はまったく立たっていない。
一応それっぽいものは一つだけありました。
それでは、謎の植物の特売市を開催しまーす! イエーイ!
取り出しますのはこの七色に光ります、途中がプックリ膨らんだ茎! きれいですね~。何で七色かは気にしちゃいけません。
きっとこの膨らんだ部分に栄養がつまってるに違いない!
ほら駱駝の瘤とか地下茎的な?
断じて寄生虫とかではないと信じたい。
ほんと切ったら中から蛆的なものが、なんてやめてほしい。うわ、想像してしまった。
ちょっとだけ、氷の刃で切り裂いて見たけど、中の惨状は……
えっ、昆虫は貴重なたんぱく質だって?
すいません、なにぶん古い人間なんで、時代の最先端にはちょっとついてけないっす。あんな、うじゃうじゃ蠢く……
そんなわけで、絶賛回復の泉生活、続行中です。
それから二週間後。
ついに見つけたんですよ!
二つ目の回復の泉を!
え、食べ物は?
……聞かないで下さい。お察しの通りですわ。
さて、見つけた回復の泉だけど、要はここ、二つ目の町の跡地だわ。
ここの回復の泉は、噴水みたいになっている。何か記憶に引っ掛かるので、泉を詳しく調べてみることにする。
私はそーと手を煉瓦に沿わせて滑らせていく。
あるところで、煉瓦が少し、がたつく。
私はがたついた煉瓦を持ち上げてみる。
あっけなく外れる、煉瓦。
あっ、思い出した。
私の記憶の蓋も開く。
ここ、悪霊退治イベントの町だ。町の人に紛れ込んだ悪霊を探しだして、退治するんだったよな。そうそう、なかなか見つけられなくて、時間が経つごとに、町の人の犠牲がどんどん増えてきて。しかも悪霊が人を殺すごとに強くなると言う、鬼畜なイベントだった。
うん、だんだん思い出してきたぞ。確か、この煉瓦の下に何か手がかりが……。
私が覗き込むと、確かにそこには手紙とおぼしき紙が。
そっと取り出す。
「あっ……」
時間が経ちすぎていたのか、風化した紙は崩れてバラバラになってしまった。
ふぅー。
軽く息を吐く。大丈夫、手がかりも何となく覚えている。
最後は、酒場の地下で、戦闘になった気がする。確かこっちだったよな。私はうろ覚えの記憶だよりに瓦礫の町を歩いていく。
酒場の跡地を見つける。
中に入り、床を探索する。すぐに、カウンターとおぼしき残骸の奥に、地下への穴が現れる。
「そうそう、確か酒場のマスターの子供が悪霊に取り付かれて、取り込まれちゃったって話だったな」
私は地下への穴へと降りて行く。
埃っぽい地下室を進んでいく。
もしかしたら悪霊イベントの時のような戦闘があるかもと、その光を頼りに辺りをきょろきょろと見回す。
ゲームの時のイベント戦闘自体は、レベル一桁でクリア出来るような物だった。何せまだここはゲームなら二つ目の街なのだ。
そうしてどこか淡い期待を胸に歩き続け、そのまま地下室の端まで到着する。……何も起きない。
「あれ、どうしたんだろう? 確か悪霊の本体が現れるの、ここら辺だよな」
私は周囲を探っていく。
差し込む光を頼りに瓦礫やら埃やらをよけていくと、とあることに気がつく。どうやら、目の前の壁は、一度崩れ、その後再び瓦礫に埋まっているようだ。
「あっ。確かここの壁だったかも。ゲームの中だと、この中に悪霊の原因になるものが何かあったはず」
私は目の前の瓦礫を一つ一つ、よけていく。
「何だったかな……。あっ、確かラスボスとして出てくる邪神の像が埋まっているんだ! 思い出してきた。見た目はウロボロス系だったはず。知的生命体を喰らい尽くすのが目的で、最後は自分自身まで喰らうとか言う設定があった。そうそう、酒場の前の持ち主が邪神教徒でってストーリーだったっけー」
だいぶ瓦礫が片付いてきた。独り言を垂れ流しながらさらに作業を続ける。
「ゲームクリア後、2周目以降のやり込み要素もあったなー。事件を放置しておくとゲーム序盤でいきなり邪神が復活してラストバトルに突入できたんだった。そのときの、像が縦に割れて、左右に開きながら邪神が出てくるムービー。桃太郎誕生かってネタになっていたっけ、懐かしいな……」
瓦礫を全て、どかす。
そこには、確かに邪神の像があった。
縦に二つに割れた状態で。
「あれ、割れてるよ」
思わず漏れた呟き。私は思わず両手を真っ二つになっている邪神像に伸ばす。
両手に割れた像を持ち、そのまま合掌するように合わせる。
ピタリとはまる。
その姿が私の記憶を刺激する。邪神像の姿は、私がゲームで見たもの、そのままであった。
「ああ、嫌な予感しかしないな……」
私は足取りも重く、地下室から地上に向かう。
そのまま酒場を出て、外へ。
思わず漏れるため息。
「そうかー。ここは邪神が復活して、滅んだ世界か……」
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