第2話

 かつては石畳だったと思わしき道は見たことのない雑草に覆われ、所どころに散乱する瓦礫に足を取られそうになる。


 さて、パッと見、食べれそうなものはないな。木立はそこそこに群生しているんだけど、果物らしきものはなし。鑑定スキルでも名前なんかはわかっても食べれるかどうかは不明。


 寝床になりそうなとこも、建物の残骸らしきものがあっても壁だけだったり、瓦礫に埋もれてたりしてなかなかこれといったものはなし。

 歩くこと10分程度で損傷の少なそうな建物が前方に見えてくる。


 慎重に近づいていく。


 どうやら正面部分だけ奇跡的にほぼ無傷の舘。左右の壁はなくなり、天井も抜け落ちている。

 しかしその無傷の正面の様子がなんだか記憶を刺激するんだよね…。

 ……あれ、もしかして、ここって初心者の舘?


 初心者の舘。それはゲーマーには馴染み深い人も多い響きだろう。チュートリアル的な解説をしてくれるNPCがいたり、回復アイテムが手には入る宝箱的な何かが無造作に置かれていたり。はたまたセーブポイントが設置されていたりする、あれである。


 ここの初心者の舘は、既に内部は崩れてしまっているから当然チュートリアルをしてくれる人物は見当たらない。宝箱だって落ちていない。そこまで観察して、ふと思い付いて奥の部屋に向かう。


 いやはや、歩きにくい。


 当然奥の部分も壁すら崩れて瓦礫に埋まり、部屋とも呼べない状況。

 しかし私には鍛えに鍛えた氷結魔法がある。


 威力を抑えるよう強く意識して呪文を唱える。


「顕現せよ、ニブルヘイムレコード」


 唱えたのは上級の範囲魔法。ゲームではフィールドを一部氷属性にし、冷気で敵モンスターに継続ダメージを与える。発動とともに、初級とは比べ物にならないMPの消費が体感できる。

 と言っても自動MP回復スキルで十数秒で回復する程度。


 発動した冷気が、部屋の外まで地面を凍らせていく。


 まだまだこれから。


 凍らせた地面から氷の柱を起立させていく。部屋を埋めていた瓦礫を全て持ち上げたら後は氷を傾けて、瓦礫を順々に部屋の外へ建物の外へと滑らせて捨てていく。


 起立した氷結を見ると、鏡のようになり、自分と思わしき姿が映り込んでいた。


 うわっ、顔までゲームのキャラかよ。参ったね……。


 しばし呆然としていたが、瓦礫の搬出も終わっていたので魔法を解除する。


 うん、無事に氷も消えた。

 氷の消えた地面には予想通り回復の泉があった。

 やっぱりこの部屋の作りに回復の泉の位置、ここは初心者の舘で間違いないか。

 ──ということは、ここは、始まりの町なのか。


 回復の泉にゆっくりと手を伸ばす。

 不思議な感触だ。


 明らかに水よりも軽い。それに濡れない。温度も感じられない不思議液体だ。自身を鑑定しながら泉に触れていると、SP─スタミナ─が回復している。

 これはゲームと同じか。


 少し減っていたSPが完全に回復するのを確認して、泉から手を抜く。

 ──感じていた空腹が、少し紛れた?


 そのまま、初心者の舘をでる。

 これで回復の目処はたったな。

 寝床としてはあまり望ましくはないけど、いざとなったらどこかの部屋を片付けて使うか。

 これであと、一番の問題は食べ物だ。

 

 ここまでの歩いてきて、目につく所に食べれそうな果物や植物は見当たらなかった。動物どころか虫も見掛けない。


 虫……。

 出来たら口にしたくはないな。


 今の保有スキルで、食べ物探しに役立たそうなもの。

 ──ないな。


 元々一般人でサバイバル知識なんてそれこそフィクションでしか知らない自分には地道に歩いて探すしかない。


 この初心者の舘を拠点にするつもりだけど、不用意にさまよって、迷子になるのは、回避はしたい。


 さて、何かいい方法はないだろうか。

 辺りを見回しながら、考え込む。


 そういや中級魔法に氷の砲台を作る魔法があったな。

 ゲームの中では遠隔操作で氷の弾を投擲する砲台を作成する魔法で、作成中は氷で出来てるのに溶けないし、大きさも待機状態で私の腰くらいまで高さがあるから目印にもなる。

 早速試してみますか。


「サモン アイスアーム」


 唱えると地面から、まるで氷でできた腕のようなものが生えてくる。

 試しに氷弾の投擲を意識してみる。すると氷の腕の先に直径10センチ程の氷のかたまりが生み出され、腕が水平に回転を始める。


 かなりの勢いだ。


 意識の片隅には砲台の位置とどこを狙うかが、何となく感じられる。適当に近くの瓦礫を狙って撃つよう意識。

 次の瞬間、遠心力で信じられないくらいの加速された氷弾が瓦礫に激突。


 爆音。


 瓦礫どころか、周囲一体を巻き込み、もうもうと砂ぼこりが舞う。晴れてくるとまるで小さなクレーターのようになった地面。


 想像以上の威力だ。

 下手に使えないな。


 しかし何よりの発見は、遠隔地から砲台の位置がわかったこと。

 これはマーカーとして使えるな。


 早速砲台を初心者の舘の前にも作成する。この最初の二台を結ぶ直線、初心者の舘から最初の砲台へ向かう方向を仮の北とする。

 最初に目覚めた方角は北西やや西よりぐらいか。じゃあ東に向かって見ますか。何となくだけどね。


 私は本格的な探索のため、歩き出した。

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