第4話 真相
ヤエノは虚空に向かって静かに聞いた。
「カヨちゃんですか?」
卓袱台を囲んだ従兄妹たちは固唾を飲んで事態を見守っている。
三人が手を置いた赤い駒は沈黙したままだ。
ヤエノは問いかけを繰り返す
「カヨちゃんですか?カヨちゃんなら駒を動かしてちょうだい」
すると。
駒が、少し動いた気がする。
なおも問いかけは続けられる。
卓袱台を囲んだ子供達の視線は赤い駒に釘付けだ。
動いている。
間違いない。少しずつ、少しずつ駒が紙の上を移動している。
マキさんは息を飲んだ。
自分は駒に軽く触れているだけ。
他の二人も力を入れている感じはない。
なのにすすっ、すすっと駒は動き続け、やがて"はい"の上で静止した。
「カヨちゃんだ・・・」
誰かの口から溜め息のように漏れた。
「カヨちゃん、あんたの身は今どこにおるの?」
ヤエノが問うと、また駒がゆっくり紙の上を這い出す。
いくつかのひらがなの上を通って赤い駒は止まった。
「お、う、ち」
卓袱台を囲んでいた一人が字を読んだ。
おうち。
確かに駒はその三文字を指し示した。
おうちとは家の事か。
「カヨちゃん、自分の家におるのか?」
ヤエノが訊く。
でもそれじゃ変だ。
カヨちゃんは行方知れずになったのに、家に居るはずがないではないか。マキさんはそう思った。
しかし駒はゆるゆると動き出し"はい"の上で静止した。
「カヨちゃん、家におるのか?なんで・・・」
他の従兄妹たちも疑問を口にする。
「カヨちゃん、家のどこにいる?」
ヤエノがまた問うと、駒はひらがな二文字を示した。
「し、た」
下、という意味だろうか。
カヨちゃんとシノおばさんが住む家は平屋建てだから一階も二階もない筈だ。
「・・・カヨちゃん、下とはどこ?」
駒は五文字を辿った。
え、ん、の、し、た
「縁の下か?」
でもそれならなんで床下なんかにカヨちゃんはいるのだ。
皆の疑問を代弁するようにヤエノは質問を続けた。
「カヨちゃん、なんで縁の下におる?」
駒が動く。
う、め、ら、れ、た
その言葉の意味するところを想像し皆がハッとした。
「埋められたのか、カヨちゃん・・・。誰に?」
駒は動かない。
マキさんはいつしか駒が湿り気を帯びている事に気が付いた。
自分達の汗ではない何かで、駒が滲んでいる。
血液のように赤黒い表面に乗せた指先からねとねととした感触が伝わってくるのだ。
ヤエノは尚も問うた。
「カヨちゃん、あんたを土の中に埋めたのは誰なんだい?」
外は風が吹きすさび、戸をガタガタ鳴らす。
ろうそくの火がひときわ大きく揺らめいた。
血の塊のようになった駒が、なめくじのように紙の上をぬるぬると這い出した。
一同の視線が駒の軌道に釘付けになり、皆息を止めている。
ゆっくりと文字を巡った。
お、か、あ、ち、や、ん
やがて駒が止まった。
おかあちやんとは、お母ちゃんの事か。
「ひひ、やっぱりなぁ・・・」
ヤエノがにたぁ、と嗤った。
マキさんはなぜヤエノが嗤うのか解らない。
皆、おし黙ってものを言わない。
やがてマキさんの身体は、ガクガクと震え出した。
ようやっと話が飲み込めた。
カヨちゃんを縁の下に埋めたのは・・・
ずる、ずる、と駒が勝手に滑り出した。
誰も質問をした者はいない。
駒は東西南北の"北"の上で止まった。
どういう意味なのか。
マキさんはふと、部屋の北側を見た。
そこには隣の部屋に続く襖があるだけだ。
それで気がついた。
その襖がほんの少し開いている。
変だ。
さっきはぴしゃりと閉まっていたのに。
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