第15話 家族の絆

 メリッサから聞かされたのは、唐突な、本当に唐突な来客の知らせ。予想もしていなかった名前を聞かされ、俺は一歩、二歩と後ずさった。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……ありがとう。少し驚いただけで大丈夫だ」

 支えてくれたセシリアに感謝しつつ、動揺なんてしていられないと自分を奮い立たせた。

 そもそも、考えれば悪いことばかりじゃない。


「メリッサ、案内してくれ」

「はい。先方にはサロンでお待ちいただいております」

「分かった。それじゃ――」

 言ってくるとメリッサに視線を向けたのだけれど、無言で首を横に振られてしまった。


「わたくしもついていきます」

「でも……」

「わたくしはレオンさんのお姉さん、ですから」

「……分かった。それじゃ、ついてきてくれ」



 メリッサに案内されたサロンの前。

 大きく深呼吸をして自分を落ち着かせ、ゆっくりと扉を開け放つ。古びた内装ながらも清掃の行き届いた一室に、客人がたたずんでいた。

 緩やかなウェーブが掛かったブロンドの髪に、優しげな翡翠の瞳。決して太っている訳ではないけれど、肉付きが良く柔らかそうな肢体。

 まさしく癒やし系のお姉さんを体現したかのようなエルフの女性は――リーフねぇだった。


「リーフね……リーフさん、どうしてここに――」

「……おと、弟くん。ひ、久しぶりね」

 警戒する俺に対して、リーフねぇがおずおずと近寄ってくる。


「――こほん。わたくしの弟になんのご用でしょう?」

 セシリアが俺とリーフねぇのあいだに身体を割り込ませてきた。さらには、自分の存在を見せつけるように、俺の腕を抱きしめてくる。


「……わたくしの弟?」

 リーフねぇが、俺とセシリアを何度も見比べる。言いたいことは分かるけど、リーフねぇも見た目は俺より年下だからな?


「……ねぇ、弟くん、これって、どういうことかしら?」

「どういうことって言われても……俺はこのお屋敷に居候してるから」

「それがどうして、弟くんが弟になってるのよ!?」

「それは……なんでだろうなぁ……」


 無言で窓の外を見つめる。

 遠くに見える地平線には沈み行く太陽で真っ赤に染まる。けれど、空の方は夜が広がりつつある。昼と夜の境界が見えるマジックアワー、

 町に建物が少なく、また二階建ての建物もほとんどないので、窓から見える景色は壮観だ。


 現実逃避の使用可能なポイントが増加しました。現実逃避の使用可能なポイントが増加しました。現実逃避の使用可能なポイントが増加しました。


 ……最近思うんだけどさ。現実逃避って名前のクセに、現実逃避から引き戻しに掛かってるよな? 全然、現実逃避させてくれないよな?

 ……サポートスキルがなかったら、こういったメッセージは神殿に行かないと知覚できないから、現実に引き戻されることはないんだけどさ。


 現実逃避の使用可能なポイントが増加しませんでした。


 ふふっ、ポイントゲットだぜ。こうやって、更にことを考え続けたら、ポイントが連続ではいると思ったんだ――って、増加しませんでしたってなんだよ!?

 前にも似たようなケースがあったけど、あきらかになんらかの意志が関わってるだろ。


 ……ま、まぁ良いや。

 なんにしても、俺がセシリアの弟になった理由。

 リーフねぇと決別して癒やし系のお姉さんに飢えてたから、田舎で癒やし系お姉さんと暮らそうとうっかり口を滑らした結果だなんて、絶対に言えない。

 と言うか、俺の危険察知能力が、言ったら死ぬと主張している。


「もう一度聞きますが、レオンさんになんの用ですか?」

「あたしは弟くんに会いに来たって言ってるでしょ?」

「なら目的は達成しましたよね? もう帰ってください。元(・)、お姉さん」

「なっ、さっきから聞いてたらなんなのよ!?」

「それはこっちのセリフです。レオンさんを見限ったくせに、今更なんの用ですか!」

 セシリアが声を荒げる。

 その瞬間、リーフねぇは酷く傷ついたような顔をした。


「そう、ね……あたしは、弟くんを傷付けたわ。それを言い訳したりしない。でも、見限った訳じゃない。あたしにとって弟くんは、いままでも、そしてこれからも、大切な弟くんよ」

「意味の分からないことを言わないでください。それに、レオンさんはわたくしに、自分の姉はこの世界でセシリアだけだって言ってくれました。貴方の入る余地はありません」


「弟くん、本当……なの?」

 あああ、なんか、むちゃくちゃ悲しそう。

 凜としたすまし顔のままだけど、付き合いの長い俺には分かる。いまのリーフねぇは、泣きそうなのを必死に我慢している顔だ。


「ええっと……俺が言ったのは、年下のお姉さんって話で、別にリーフねぇが俺の姉じゃないとか、そういう話をした訳じゃ……」

「――レオンさん!? もうリーフねぇって呼ばないって言ったじゃないですか!」

 右腕をセシリアにぎゅっと掴まれた。


「そ、それはたしかに言ったけど……」

「弟くん、そんなことを言ったの?」

 左腕はリーフねぇにそっと掴まれた。


「ええっと、その、だから……」

「だから?」

 左腕がリーフねぇに抱き寄せられる。


「俺は……」

「俺は?」

 右腕がセシリアに抱き寄せられる。


 左の二の腕はリーフねぇの胸の谷間に挟まれ、右の二の腕はセシリアの胸に押しつけられている。これが噂の両手に花か、なんて幸せな状況なんだ……


 現実逃避の使用可能なポイントがたぁくさん増加しました。


 たくさん増えなくても良いから、現実逃避させておいてくれよっ! って言うか、なんだよたぁくさん増えたって! 可愛らしく書きやがって! どう考えてもおかしいだろ!


 ………………なんて、分かってる。

 いいかげん、現実に向き合わなきゃな。


「セシリア、ごめん。リーフねぇと少し話をさせてくれ」

「……レオン、さん?」

 セシリアが目を見開いた隙に腕を引き抜き、リーフねぇへと視線を向けた。


「……弟くん、あたしは」

「――俺は、俺はリーフねぇに見限られて凄く絶望した」

「そう、よね……」

 掴まれている腕を引き抜くが、リーフねぇは抵抗しなかった。その代わり、凄く悲しそうな顔をする。俺のことを見限ったくせに……どうしてそんな顔をするんだよ。


「……リーフねぇがいなければ、俺は野垂れ死んでたと思う。だから、リーフねぇが恩人な事実は変わらない。話があるのなら、俺はちゃんと聞くよ」

「……弟くん、ありがとう」

 少しだけ安堵してくれたのだろう。俺の良く知っている笑顔が浮かんだ。


「ただ……悪いんだけど、その話は後にしてくれ。いまはちょっと取り込んでるんだ」

「取り込んでる? そういえば、なんだか騒がしかったけど、なにかあったの?」

「保護しているイヌミミ族の子供の容態があまり良くない状況なんだ」

「え、大変じゃない。どこにいるの? あたしで良ければ力になるわよ?」

 その言葉を期待していなかったと言えば嘘になる。けど、そんな風にあっさりと申し出てくれるとは思わなくて、少しだけ驚いた。


「……良いのか?」

「さっき、あたしが恩人な事実は変わらないって言ってくれたでしょ? 信じてくれないかもしれないけど、あたしにとって弟くんは、いつだって大切な弟くんよ」

「……リーフねぇは、変わってないんだな」

 すれ違ってしまったけど、リーフねぇは変わってない。

 それが分かって少しだけ嬉しくなった。


「それじゃ……頼むよ、リーフねぇ」

「うん、お姉ちゃんにお任せよ」

 ブロンドの髪を手の甲でなびかせ、満面の笑みを浮かべる。その姿は、俺の知っているいつものリーフねぇそのものだった。


「メリッサ。リーフねぇを案内してくれ。俺はちょっとセシリアと話があるから」

「……かしこまりました」

 メリッサはなにか言いたげだったけど、俺の意志を汲み取ってくれたのだろう。結局はなにも言わずに、リーフねぇを案内していった。

 その姿を見送り、セシリアへと視線を向ける。


 さっきのリーフねぇ以上に、セシリアは悲しそうな顔をしている。

 それを見た瞬間、俺はセシリアを抱き寄せた。


「……レ、レオンさん!?」

「――大丈夫だ」

「え、ええっと……?」

「リーフねぇは、たしかにリーフねぇで、俺の命の恩人だ。それは、きっとこれからも代わらないんだって思った。でも……セシリアが俺の家族であることも代わらないから」

「レオンさん……」

 腕の中でセシリアがもぞもぞと動き、少し濡れた瞳で俺の顔を見上げてくる。


「わたくしは……これからもレオンさんのお姉ちゃん、ですか?」

「ああ。俺はずっとセシリアの弟だ」

「……しょんぼりです」

「えぇぇ!?」


 なんでそこでしょんぼりなんだよと思ったら、セシリアはぺろっと舌を出して笑った。


「冗談です。わたくしは、これからもずっと、レオンさんのお姉ちゃんです。でも……どうするつもりなんですか? あの人はレオンさんを連れ戻しに来たんですよね?」

「リーフねぇの思惑は分からない。けど、セシリアと一緒にいるって約束しただろ? だから、心配することなんてどこにもないよ」


 最初はセシリアが飽きるまで付き合おうと思ってただけだったけど……いまは違う。ここが、セシリアの側が、俺にとっての新しい居場所。

 だから――


「なにがあっても、セシリアの側からいなくなったりしないから」

 いまはこの町に封じられているとはいえ、セシリアは公爵令嬢だ。だから、いつかはどこかに嫁いでいくのだろう。それを止めることは……俺には出来ない。

 でも、それまではずっと側にいる。

 それが弟の勤めだと思うから――と、セシリアの華奢な身体をぎゅっと抱きしめた。




 その後、落ち着きを取り戻したセシリアとサロンで待機していると、少ししてリーフねぇが戻ってきた。

「お待たせ、弟くん。治療が終わったわよ」

「ありがとう、助かったよ」

「どういたしまして。それと、あの子のことで、少し気になったことがあるんだけど」

「あぁ、ちょうど俺にも気になることがある」


 たぶん同じ話だろう。そう思って詳しい話を聞くために、ソファの席に向かい合って座る。

 その直後、セシリアが俺の隣へと座る。


 現実逃避の使用可能なポイントが増加しました。


 ……セシリアが俺の隣へと座って、手をそっと握っている。

 というか、まさか状況説明にまでツッコミを入れてくるとは……現実逃避のスキル、違う意味でレベルが上がってやがる。

 突っ込みたいところだけど、いまは白雪の話を優先しよう。


「それで、白雪の容態はどうなんだ?」

「衰弱は消せないからいまは眠ってるけど、二、三日も寝てたら元気になるわ。だから、ひとまずは大丈夫よ」

「……ひとまずって、どういうことだ?」

 リーフねぇの実力なら、軽い病や火傷なんて余裕で治せるはずだ。


「もしかして、思ったより重い病なのか? 必要なら、サポートスキルを使うけど」

「――弟くんのサポートスキル?」

 リーフねぇは一瞬だけ腰を浮かせ、ほのかに顔を染めてソファに座り直した。


「えっと……嫌かもしれないけど、白雪はどうしても助けたいんだ」

「あ、うぅん。サポートスキルが嫌な訳じゃないわよ。弟くんと離れてからしばらく経つし、むしろ魅力的な提案だけど――というか、さっき使ってもらえば良かった……」

「……え?」

「い、いまのは言い間違いよ。必要なら、サポートスキルを受けるのはかまわないのだけど、あの子の問題は先天的なモノだから、魔法じゃ直せないのよ」

「そんな……」

「――どうにかならないんですか!?」

 セシリアがリーフねぇに詰め寄る。


「落ち着いて。魔法では治せないけど、原因や対策は分かってるから」

「原因や対策?」

 セシリアと顔を見合わせる。

 ひとまずアイコンタクトを交わし、俺が代表して話を聞くことにする。


「白雪にはなにか、魔法じゃ治せないような異常があるのか?」

「貴方達も見ているはずよ。あの子、左右で瞳の色が違うし、肌も凄く白かったでしょ?」

「あぁ……それはもちろん気付いてるけど」

「あれは、アルビノって言うの」

「……アルビノ。聞いたことがないけど……それが、肌が白い原因なのか?」

「ええ。皮膚が白いのは色素が抜け落ちているせいだし、瞳の色がわずかに赤みを帯びているのは、瞳に流れる血の色が透けているからよ」

 なるほど。赤みを帯びた紫の瞳と、青みを帯びた紫の瞳――ではなく、血の色が透けている青い瞳と、血の色が透けていない青い瞳だったという訳か。


「でも、それになにか問題があるのか?」

「色白の人は日焼けしやすいって、聞いたことはないかしら?」

「それは、あるけど……まさか?」

「ええ。あの子が火傷を負っているのは、太陽の光をたくさん浴びたから、でしょうね」

「太陽で……火傷?」

「信じられないのは分かるけど、おそらく事実よ」

「そう、か……」


 物知りなリーフねぇが言うのなら、たぶん間違いないだろう。

 火傷としては軽度だった――けど、陽の下を歩くだけであれだけの火傷を負う。そう考えると、軽度だなんて言えるはずがない。


「火傷や病気は治したけど、あの子に外を出歩かせることは出来ない――ってことだな?」

「ええ、その通りよ。耐火の魔法やポーションを飲めばそのあいだは大丈夫だし、物凄く厚着をするなどで、日の光りを遮断すれば大丈夫だとは思うけど……」

「……難しいだろうな」


 日の光りは、上からだけ降り注ぐ訳じゃない。たとえ上空を遮ったとしても、地面や壁を反射してきた光が白雪の肌を焼く。

 もし日焼けを完全に避けようと思ったら、分厚いフード付きのローブを被る必要がある。

 涼しい季節ならともかく、夏にそんなことをしたら倒れてしまうだろう。

 ……ちなみに、傭兵団で働いているときに、美白を目指す奥様方から仕入れた情報である。


「しかし、アルビノ……か。呪われた子とかなんとか言って、集落を追い出されたようなことを聞いたけど、それが理由か?」

 太陽の光を浴びるだけで火傷を負う。その理由を知らされていなければ、俺だってアンデットかなにかかと疑ったかも知れない。


「エルフ族もだけど、亜人種は閉鎖的な考えを持つ者が多いからね。呪われた子と言われたのなら、間違いなくアルビノが原因よ」

「そっか。本当に呪われてる訳じゃなくて良かった……とは言えそうにないな」


 呪いなら、リーフねぇに解除してもらえば終わりだった。けど、呪いじゃないのならそうは行かない。白雪はこの先もずっと、陽の下は歩けないってことだもんな。


「……力になれなくてごめんなさい」

「あぁいや、病や火傷を治してくれただけでも大助かりだ、ありがとう」

「それは可愛い弟くんのためだもの。気にしなくて良いわ」

「……ありがとう」

 感謝を込めて頭を下げる。

 それから、横にいるセシリアに視線を向けた。


「白雪を、正式に屋敷で住まわせてくれないか?」

 このお屋敷はそこそこ大きい。家から出ることが難しい白雪にとって、ここよりも良い環境というのは、そうそう見つからないだろう。


「良いですよ」

「……良いのか?」

 なんとなく反対されると思ってたので意外だった。


「レオンさんの頼みですから、気にしなくても良いです」

「……ありがとう。お礼に、俺が頑張って働くよ」

「ふふっ、期待していますね」


 これで白雪の安全はひとまず確保できた。今後のことを話し合う必要はあるけど、それは白雪が目覚めてから。

 だから……と、セシリアに目配せをした。それだけで理解してくれたのだろう。セシリアは分かりましたと、メリッサを連れて部屋を退出していった。



 それを見届け、リーフねぇへと視線を向ける。

 これから聞くのは、リーフねぇが俺を見限った理由。一体なにを言われるのかと考えると不安になるけど……俺はリーフねぇの考えを知りたい。


「リーフねぇがどうして俺に会いに来たのか……話してくれるか?」

「分かったわ。信じてくれるかは分からないけど――」

 リーフねぇは前置きを一つ。

 俺が傭兵団で正当な評価をされていないことを憂いて、俺が傭兵団を飛び出すように仕向けたのだと打ち明けてくれた。

 だけど――


「それなら、そう言ってくれれば良かっただろ」

「言ったら、弟くんは傭兵団を抜けようとはしなかったでしょ?」

「それは、まぁ……な」

 団長やリーフねぇに望まれていると答えてもらっていたら、俺はギルバート達になにを言われても、深紅で働き続けただろう。


「あたしはね。弟くんに、自分の幸せを優先して欲しかったの」

「だから、俺をあんな風に見限ったフリで追いだしたって言うのか?」

「ええ。そうすればきっと、弟くんは自分の道を歩み始めるって信じてたから。……まさか、この短期間でお姉ちゃんを作るとは、思わなかったけど」


 ちょっぴり寂しげに微笑まれてしまった。セシリアの存在があってもなくても、リーフの立場が変わる訳じゃないんだけどな。


「それで、リーフねぇはそれを俺に伝えに来たのか?」

「それもあるわ。けど、あたしが弟くんに会いに来たのは、許されるのなら、また以前のように弟くんと暮らしたかったからよ。あたしのこと……許してくれる?」


 いつもは穏やかなリーフねぇの瞳が不安げに揺れている。

 俺は目をつぶって、これまでのことを思い返した。


 鮮明に思い浮かぶのは、リーフねぇに突き放されたこと。信じていたリーフねぇに必要ないと言われて、凄く、凄くショックだった。

 ――だけど、リーフねぇは俺を拾って育ててくれたし、餞別に貴重なエリクサーを持たせてくれた。いま抱いている疑問よりも、俺を見限ったことの方がずっと理解できなかった。

 だから――


「許すよ。全部許す」

 俺がそういった瞬間、リーフねぇが目を見開いた。その瞳に涙が浮かぶ。


「弟、くん。……良いの? あたし、弟くんを傷付けたんだよ?」

「でもそれは、俺のためだったんだろ?」


 想像してしまうのだ。もし俺がリーフねぇと同じ立場なら、大切な誰かを傷付けてでも、助けようとなんて出来るかな、って。

 その答えは分からない。けど、その相手が大切なら大切なほど、その選択は自分自身をも傷付ける。リーフねぇは、きっと俺以上に傷ついている。


「俺のために、嫌な役をかってくれて、ありがとうな。リーフねぇ」

「……弟くん。ありがとう、弟くん。弟、くん・ ぐす――っ」

 リーフねぇがテーブルを迂回して抱きついてくる。

 俺は慌ててその身体を抱き留めた。


「……弟くん」

「うん?」

「弟くん弟くん」

「はいはい。俺はここにいるから大丈夫だ」

 背中を優しく撫でつける。

 ……こうして、俺とリーフねぇは家族の絆を取り戻した。


 現実逃避の使用可能なポイントが増加しました。


 うわあああああっ、こんな時にまで現実逃避を指摘するのは止めろ! リーフねぇとの家族の絆を取り戻したのは事実だろ!?


 現実逃避の使用可能なポイントが増加しました。


 ぐぬぬ……分かってるよ、分かってますよ!

 リーフねぇは発育のよい癒やし系お姉さん。

 甘く優しい匂いがするし、温かくて柔らかいのが押しつけられているし、抱きつかれていると……その、欲望を抑えるのが大変なのだ。

 小さい頃から弟として側にいたけど、それとこれとは別なのだ。


「くそぅ……固有結界めぇ……」

 メッセージがなければ気づかないフリも出来たのに、胸の感触を思いっきり意識しちゃったじゃないか!

 そんな感じで、内心で愚痴っていると、リーフねぇが俺を見上げていることに気がついた。

「ねぇ、弟くん。固有結界って……なに?」

 ――あ゛っ。

 

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