第14話 二人の新たな家
「……白雪? おい、白雪、しっかりしろ!」
慌てて白雪を抱き起こす。森から連れ帰ってきたときも思ったけど、身体が凄く軽い。華奢と言うより、痩せ細っているようなイメージだ。
サポートスキルで確認したときに衰弱って表示されてたけど……もしかしたら、衰弱したのは昨日今日の話じゃないのかもな。
「あの、シロちゃんはどうしたんですか?」
「疲れが残ってたんだろうな。気を失ったみたいだ……って言うか、シロちゃん?」
「シラユキって発音しにくかったので、あだ名をつけてみました」
「たしかに、ちょっと変わったイントネーションだよな」
傭兵団で色々な人種や言語に触れた経験がある俺はそこまで違和感がないけど、そうじゃない人にはなじみのない名前なんだろう。
そんな風に考えていると、ちょうどお湯を張った桶を持ってメリッサがやって来た。
「お待たせしました。その子は……まだ目覚めていないんですね」
「さっき目覚めたんだけど、また意識を失ったんだ。名前は白雪。どうやらワケありで、集落を追い出されたらしい」
「……そう、ですか」
俺もそうだけど、セシリアと共通点が多いからな。集落を追い出されたという下りに思うところがあったんだろう。メリッサはきゅっと唇を噛んだ。
さすが思い遣りのある、癒やし系お姉さんである。
「それで、シロちゃんは大丈夫なんですか?」
さっき話の途中だったからか、セシリアが問いかけてくる。
「そう、だな。命に別状はないけど、衰弱してるから、しばらくは安静だな。それに火傷を負ってるから、そっちも治療しないとだ」
「火傷……ですか?」
セシリアが首を傾げた。
「肌が赤らんでるだろ。どうやら弱度の火傷らしい。見える部分だけなのか、それ以外の部分も火傷をしてるのか分からないから、一度脱がした方が良いと思う」
「……そう、ですか。――衰弱や火傷に効くポーションはありますか?」
セシリアは少し考える素振りを見せた後、メリッサに向かって問いかけた。
だけど、メリッサは無言で首を横に振る。
セシリアが重傷だったときに、探しても見つからなかったらしいからな。
こんなとき、リーフねぇがいてくれたら、すぐに癒してくれるんだけど……ダメだな。いないものはいないんだから嘆いてもしょうがない。
いま出来ることを考えよう。
「ポーションじゃなくて、火傷に効く軟膏はどうだ?」
セシリアに向かって問いかける。
「メリッサ、屋敷にないかしら?」
「すみません。まだ備品が揃っていなくて。ただ、珍しい薬ではないので町に行けばあると思います。すぐに買いに行かせましょう」
「分かりました。では、シロちゃんの看病はメリッサに一任するわね」
「はい、お任せください」
白雪の看病をメリッサに任せた後、俺はセシリアを連れて自分の部屋に戻ってきた。
「レオンさん、どうしたんですか? また、わたくしに膝枕をして欲しくなったんですか?」
「いやいや、違うから」
わりと中毒性のありそうな膝枕だったけど、さすがに日中から溺れるつもりはない。
いや、日が沈んだらお願いするという意味ではなく。
「セシリアをここに連れてきたのは、例のアレだよ。町でも薬草を栽培することになったけど、こっちでも栽培してみようと思ってさ」
「え、もしかして……わたくしも連れて行ってくれるんですか?」
「そのつもりだ。もちろん、セシリアが嫌じゃなかったらな」
「嫌なはずありません。わたくしも行きたいです。行かせてください、レオンさんっ」
無邪気に行かせて欲しいと詰め寄ってくる。
なんか近い、セリフが危うい。ちょっと無防備すぎるぞ、この娘。
「……レオンさん、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。それじゃ……スキルを使うな」
言うが早いか、固有結界の扉を出現させた。
「そうそう。今回は……と」
扉の端末を操作する。
「どうしたんですか?」
「いや、セシリアをサブオーナーに昇格させたんだ」
「サブオーナー……それって、権限が増えるってことですよね、良いんですか?」
「ああ。セシリアなら問題ない。それと、前回はゲストで機能が制限されることを確認したから、今度はサブオーナーでどこまで機能が使えるか確認したかったからな」
「ありがとうございます、レオンさん」
「どういたしまして。それじゃ、秘密基地に出発だ」
扉を開け放ち、俺達(・・)の世界へと足を踏み入れた。
「さて、さっそくあれこれ改造していこうか」
セシリアと並んで座りソファに座り、テーブルの上に置いた端末を操作する。
現実逃避のランクは4から上がってないけど、使用可能なポイントは数千まで増えている。ランクアップ時に大きく入ったのと、セシリアとのあれこれで相当増えているみたいだ。
「これなら、家を大きくすることも出来るな」
「そうですね。家を改築する項目は……こっちですね」
セシリアが指でつつくと、改築の選択メニューが開いた。やっぱり、サブオーナーも、この端末を操作することが出来るみたいだ。
改築の項目は、ポイントがだいたい数千単位。
これなら、小屋からランクアップも可能だな。定住するつもりはなくとも、いざというときに生活できる程度の環境は欲しいし、まずは家を大きくしてしまおう。
という訳で、さっそく端末を操作して一つ一つ確認する。
現代風、古代風、異世界風に分類された建物のサムネイルが並んでいる。いくつか詳細を確認したところ、外観や間取りの他に、建物に使われている材質が違うらしい。
古代、異世界共に面白そうではあるけど……やっぱり見慣れた現代かなぁ?
「セシリアはどんな家が良い?」
「そうですねぇ……わたくしは異世界の建物に興味があります」
「ふむ。理由を聞いても良いか?」
「このあいだ頂いたお洋服が、わたくしがいままでに着たどの服よりも着心地が良かったからですわ。それに、異世界の家はどれも、作りがしっかりしてるように見えませんか?」
「あぁ……言われてみればたしかに」
部屋の壁に継ぎ目が見えないし、他の建物に比べて質が高いように見える。もちろん、その分ポイントも割高なんだけど……と、家をいくつか確認する。
「これなんていかがですか?」
セシリアが指差したのは、5,000ポイント必要とするわりと大きい二階建ての家だった。
一階はリビングとキッチン。大きな部屋と普通の部屋。それに家事室とお風呂とトイレ。
二階は四部屋とトイレがある。
「……ポイントは足りてるけど、ちょっと大きすぎないか?」
「いざというときの避難先……なんですよね?」
「あぁ……そっか、そうだな」
俺とセシリアが生活するだけなら大きすぎると思ったけど、いざというとき使用人達を纏めて避難させる可能性を考えると、これくらいの部屋数は必要だな。
「将来的に改築しても良いかもしれませんけど……非効率ですよね?」
「たしかにそうだな」
家具なんかは他の場所に流用できるけど、建て替えた場合は古い建物が無駄になる。そう考えると、家は大きめにしておいた方が良いだろう。
「よし、この家にしちゃおうか」
「そんなに簡単に決めて良いんですか?」
「俺はとくにこれってのがなかったからな。それにセシリアの意見はもっともだと思う」
建て替えもだけど、異世界の物は品質が高い説のことである。
「それじゃ……っと、まずは部屋の外に出ないとな」
家の中にいて、家を建て替えたら大変なことになる。まぁ……表示が赤字になってるので、ちゃんとセーフティーは働いてるみたいだけどな。
――という訳で、端末を持って、二人で部屋の外に出た。
「家具は……そのままでも建て替えられるんだな」
「運び出しますか?」
「いや、実験もかねてそのまま試してみよう」
建て替える予定はないけど、もしもっと大きな家に建て替えをするときは、家の中が家具だらけになっている可能性が高い。
今のうちに実験しておくべきだろう――ってことで家を選択して、確認ボタンを表示させる。そうして、セシリアの手を掴んだ。
「……レオンさん?」
「俺達の秘密基地みたいな物だしな。一緒に選択しようぜ」
「レオンさん……はいっ!」
俺とセシリアは人差し指をくっつけて、一緒に確認ボタンを押した。刹那、目前の小屋が喪失して、続いて選択したのと同じ家が出現する。
クリーム色の外壁に覆われた、建物の半分だけが二階建てになった家で、入り口には門があって、その外には少しだけ石畳のスペースがある。
「……ふわぁ、こんなに一瞬でお家が。凄いです、レオンさん!」
「だなぁ……」
戦闘系の固有結界は規格外の強さだそうだけど、これはこれで規格外だと思う。
「レオンさん、レオンさん、あのスペースはなんですか?」
「あれか……なんだろ?」
低い壁に囲まれた長方形のスペースがあるけど……荷物置き場かなにかかな? そう思ってメニューで確認すると、駐車場と書かれていた。
「どうやら、馬車を置くスペースみたいだな」
「馬車……ですか。異世界にも馬車があるんですね」
「駐車場があるってことは、そうなんだろうなぁ」
とはいえ、固有結界はそんなに広くない。レベルが4になってまた広がったみたいだけど、それでも全力疾走すればすぐに端につく程度なので、馬車を使うことはないだろう。
駐車場は荷物置き場になりそうだな。
「レオンさんっ、中に入ってもいいですか?」
「あぁ、そうだな。さっそく入ってみようか」
外にある門を開いて、更に扉を上げて家の中に。そこにはなにやら段差があった。廊下が左右に分かれていて、正面には小さな庭のようなモノが見える。
端末で詳細を確認すると、自分達のいる場所は玄関と書かれていた。
「なんか、ここで靴を脱いで上がるみたいだぞ」
「靴を……ですか?」
「ああ。この家は、靴を履かずに生活するみたいだ。でも……どうする? 嫌なら、靴を履いたままでも良いと思うけど」
「うぅん……脱いで生活するお家なら、脱いで生活してみましょう」
「そう、だな……まあ、履いたままに変更するのはいつでも出来るしな」
逆に一度土足で生活して床を汚したら、靴を脱ぐのは難しくなる。
それに、お屋敷で靴を脱ぐといざというときに困るけど、ここは安全だから靴を脱いでいても困ることはないだろう。
ってことで、俺達は揃って靴を脱いで家に上がった。
「こっちがリビングで、こっちは、和室……って書いてあるな。二階は普通の部屋っぽい」
俺達は端末で確認しつつ、一通り部屋を回る。家具がなにもないから殺風景だけど、たしかにセシリアのお屋敷と比べても、作りが凄まじく精密だ。
「こっちにも扉がありますね。ここは……なんでしょう?」
扉を開けたまま、セシリアが首をかしげた。その肩越しに部屋を覗き込むと、凄く小さな部屋に、なにやら硬そうな白い椅子がぽつんと置かれていた。
「なんか、椅子の中に水が張られてるな。これは……トイレ? トイレらしい」
「……トイレ、ですか? なんだか、すぐにあふれてしまいそうですけど」
「ええっと……後ろにあるレバーを捻るらしいぞ」
「これですか? わあっ、なんか水が流れました。あふれる、あふれちゃいます!」
「お、落ち着け、いまはまだ綺麗だから大丈夫なはずだ!」
椅子の中心にあるへこみ。水が張ってある周囲から水が流れるのを見て、慌てふためいたのだけど……不思議なことに、へこみにある水は増えなかった。
「これは……どこかへ流してしまっているんでしょうか?」
「みたい、だな……」
王都には下水道もあるのだけど、これはそれを軽く上回っている。
異世界の技術はずいぶんと進んでるんだな。
「これは、何度でも水が流れるんでしょうか?」
セシリアがもう一度レバーを動かす。けれど、今度は水が流れなかった。水を汲む必要があるのかなと思って端末を確認すると、赤字でメッセージが表示されていた。
それによると、この建物には給水や空調というシステムがあるのだけど、それらを使用するには少量ながらポイントを使用のたびに消費するらしい。
なので、消費してもかまわないかという確認メッセージが表示されていた。
ポイントはほとんど気にならないレベルだったので了承を押す。
「わぁ、水が出てきました」
レバーの横から、水が出てきて箱の中に吸い込まれていく。どうやら、その中に水をためて、レバーを引いたら一気に流す仕様らしい。
「凄いですね……水がこんな風に流れるなんて」
「たしかに、異世界の建物にして良かったな」
現代の建物じゃ絶対にこうはならなかった。
異世界の建物を推してくれたセシリアのおかげだな。
その後、洗面所で水が流れてくることにあらためて感動したり、蛇口のひねり方で、水がお湯になることに感動したりした。
ちなみに部屋の方は、しっかりした作りや、壁の柔らかさに感動したりはしたもものの、部屋によって違うこともなく、あっさりと見終わった。
そうしてあらかた見終わった俺達は、最後にリビングにやって来た。
「そういえば……小屋に置いてた家具はどうなったんだろ」
「それは、端末にしまわれてるみたいですよ」
セシリアに言われて端末を確認すると、たしかにストレージというところに、小屋にあった家具はしまわれている。
という訳で、ソファとテーブルだけ具現化してみる。
「……うん。なんの問題もなく出現させられるな」
「見たいですね。これなら、もし建て直すことになっても安心です」
「だなぁ。後は……そうそう、薬草園を作ろうと思ってたんだ」
家具も置きたいけど、ポイントがそこまで残ってない。先に薬草園を作ってしまおう――と言うことで、再び外に出た。
「正面に置くと景観と合わない気がするから、裏手に作ろう」
薬草園――ガラス張りの建物の中に、花壇をいくつも段々に連ねたような形。どうやってか汲み上げた水が、上の花壇から順番に流れ落ちていく仕様らしい。
薬草園というか……なんだか、聖域のような静謐さがある。
「これも、維持には少量のポイントが必要みたいだな」
その代わり、水が巡回することに加えて、土中に魔力素子(マナ)が供給されるらしい。ポイント消費も微々たる物だし、至れり尽くせりである。
将来的には色々な薬草を栽培したいけど、いまはフラムを増やすのが急務なので、フラムの苗を50本用意した。
これで、いままでに貯まったポイントはあらかた使ってしまった。
「ポイントが足りなくなってきたし、スコップは屋敷のを借りようか」
「そうですね、一度お屋敷に戻りましょう」
ということで、俺達が帰還用の扉を開くと――警戒した顔でこちらを睨みつけているメリッサと目が合った。その目が、みるみる驚きと安堵に染まる。
「――お嬢様!」
メリッサが飛んでくる――が、扉をすり抜けてしまった。そして、ドンと、なにかにぶつかるような音が響いて、メリッサの可愛らしい悲鳴が響いた。
「ちょっと、メリッサ、大丈夫ですか!?」
セシリアが飛び出して、裏側へ抜けたメリッサに駈け寄る。俺も続いて外に出て、固有結界の扉を消す。その向こう側、メリッサがベッドに突っ伏していた。
……ああ、扉の裏にあったベッドに躓いて、顔からダイブしたのか……
「だ、だいひょうぶ、です……」
ちょっとドジっ娘メリッサが可愛い。なんて、いまのは完全に不可抗力だけどな。両手で顔を押さえる、癒やし系お姉さんの姿にちょっと萌えた。
それはともかく、固有結界の扉が内開きだった理由が分かった。
もしこの扉が外開きだったら、扉を開けた瞬間に手が掴まれるなんて事態もありえるけど、内開きならいまのようなケースでも中にいる人は安全だ。
出るときの危険性を考慮したうえでの内開き、なんだろう。
現実逃避の使用可能なポイントが増加しました。
はいはい、分かってますよ。
不慮の事故で固有結界を見られちゃったから、どうするか考えないとな。
と言っても、見られた以上は誤魔化しようがない。幸いなことに、メリッサは使用人の中で一番信用できる相手だし、教える相手としては適任だろう。
そう思ったのだけど――
「ところで、メリッサがどうしてレオンさんの部屋にいたのかしら?」
「そ、そうでした。お嬢様、シロちゃんの容態が良くないんです」
俺とセシリアは顔を見合わせ、慌てて白雪の眠っている客間へと飛んでいった。
ベッドで眠る白雪はうなされていた。
俺達が部屋を退出したときよりも、あきらかに容態が悪化している。
「メリッサ、一体なにがあったのですか!?」
「分かりません。ただ、徐々に熱にうなされたみたいになって……」
二人のやりとりを聞いて、とっさにサポートスキルを使用した。そうして白雪の状態を確認すると、衰弱と火傷の他に、風土病という項目が増えていた。
さっきは表示されていなかったので、俺達が席を外していたあいだに発病したんだろう。
「メリッサ。念のためにセシリアを部屋の外へ。白雪は風土病にかかってる」
「――っ、分かりました。さぁ、お嬢様こちらへ」
「待ってください、わたくしは大丈夫です」
セシリアが部屋に止まろうとする。
「セシリア、心配しなくても大丈夫だ。ただ、念のために外に出ていてくれ。俺が連れてきた女の子のせいで、セシリアが風土病にかかったら責任を感じるからさ」
俺や白雪のためという建前。セシリアにもそれは分かったはずだけど、渋々ながらもメリッサに連れられて退出してくれた。
そしてほどなく、セシリアを連れ出したメリッサが戻ってきた。
「メリッサも外に出てた方が良いぞ?」
メリッサが感染したら、治るまでセシリアの世話を出来なくなる。
「私は、お嬢様からシロちゃんのお世話を任されましたから」
「そっか……」
と言うか、メリッサまでシロちゃんって呼んでるんだな。たしかに、髪も肌も白い白雪には、シロちゃんってあだ名があってる気はするけどさ。
「ところで、風土病にしては症状が重いように思いますが、本当に風土病なんですか?」
疑いの眼差しを向けてくる。
風土病と言うのが、セシリアを安心させるための嘘だと疑っているみたいだ。
「安心しろ……と言って良いか分からないけど、風土病なのは間違いない」
「ですが、この容態は……」
「もともと衰弱してるから、症状が重くなってるんだと思う」
健康な若者なら死ぬことはないという話だったけど、裏を返せば老人や幼児、体力のない者は危ないということ。
衰弱している白雪は、もろにその例外に当てはまる。
「では、フラムを煎じた薬が効くのですね?」
「ああ。採取してきたフラムがあるから、すぐに煎じてもらってくれ」
「分かりました、すぐに遣いを出します」
メリッサが部屋から飛び出していった。
それを見届け、あらためて白雪の容態を確認する。
そこに表示されている状態異常は、風土病、衰弱、火傷の三つだけ。だけど――衰弱の段階が大きく上がってる。風土病の薬じゃ治らないかもしれない。
――それから数日が過ぎた。
嫌な予感に限って当たるようで、白雪の容態は一向に良くならない。それどころか、徐々に衰弱しているように見える。
このままじゃ白雪が死んでしまう。
どうすれば、白雪を助けられる? ポーションを作るスキルがあれば話は早かったんだけど、俺に出来るのはサポートだけだし、この町にもそういったお店はない。
大きな町でポーションを買い求めるように遣いも出してもらったけれど、どんなに急いでも往復一週間ほどはかかる。帰ってくるのはもう少し先になるだろう。
ちなみに、固有結界でなんとか出来ないか試したんだけどそっちもダメだった。
いまリストにある中で期待できるのは、体力回復魔法陣という設置物なんだけど、習得するにはまったくポイントが足りないのだ。
現実逃避をすれば――とは、もちろん思った。
けど、白雪を助けたいと思えば思うほど、現実逃避をすることが出来なくて、ポイントはほとんど増えていないというのが現状である。
なんとかしたいのに、どうにもならない。
日に日に募る焦燥感に苛まれつつ、黙々と白雪の看病を続けていると、セシリアとメリッサが部屋に入ってきた。
「もしかしてポーションが届いたのか?」
「いえ、残念ですが……」
セシリアが首を横に振る。
「そう、か。なら、どうかしたのか?」
努めて明るく振る舞って問いかけると、セシリアはメリッサへと視線を向けた。
その視線を受けて、メリッサが一歩前に出る。
「実は、レオン様にお客様です」
「……俺に?」
「はい。なんでも――」
予想もしていなかった来訪の知らせに息を呑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます