第23話 ヒロイン、将来に想いを馳せ……?

 

「あ、でもそのー」

「ん?」

「実は今朝、ミールームさんと話をしていて思ったんですけど……あんなに大きな魔石、加工が大変なんじゃないかって」

「……まあ、加工は大変だろうな。だが結界に使うにしても大砲に使うにしても、一、二年では完成はしないだろう」

「あ、そうですね……」


 本当に早とちりしてるわたしたちー!


「なんだ? 加工に関してなにか案でもあったのか?」

「あー、実は……ドワーフに頼むのは無理なのかなって……」

「…………」


 わたしの前世では、ドワーフ=レア素材加工神!

 だから、ドワーフなら魔石の加工もたやすいのではと思ったのだけれど……用途も決まっているし、その用途のどちらもすぐに完成するものではないなら……まあ……ね?


「魔石の加工技術は持っているだろうな」

「え! やっぱり魔石の加工技術を持ってるんですか、ドワーフ!」

「ドワーフの国にも『邪樹じゃき』は生える。そして当然魔石も採れる事があるが……ドワーフは魔石を生活用品に転用するらしい」

「!」


 生活用品に!

 ……な、なるほど!

 武器や防具以外にも、そんな使い方……!


「ドワーフも人間程度の魔力を持っているが、魔法は人間よりも不得手。魔石を用いた生活用具などで代用するのだそうだ。俺の部屋にもほれ」

「?」


 指差されたのは、この部屋にある食器棚の横。

 そういえば、不思議なラックだなーと思ってた。

 使用人が頭を下げて、そのラックの上にやかんを載せて操作する。

 すると、炎があがった。

 まるで前世のコンロのように……!


「わっ!」

「火種がなくとも魔力で火を発生させる道具だそうだ。各種族の王は持っているだろう」

「ほ、ほあああああ……!」


 なにアレわたしも欲しい……!

 竃に薪を入れて火をつけなければいけない、不便な自炊よりコンロの方が絶対圧倒的に、楽!


「便利で羨ましいです!」

「では買ってやろう」

「え!」


 はいぃ!? さらりと、え、今なんとぉ!?

 余裕の笑顔でさらりとすごい事言いませんでしたかー!?


「え、あの、別にわたし、ねだったわけでは!」

「元々魔石の『浄化』と『祝福』が終わったら褒美を与えるつもりだった。これまでの功績から考えて、そろそろ屋敷も与えたいと思っていたからな」

「ぬあっ!」

「というか……ルナ、お前は俺からの褒賞を断りすぎだぞ。俺に王として甲斐性がないようではないか」

「うぇっ!?」


 拗ねてる!?

 そ、そんな事を言われても、わたしは仕事が出来ればそれでいいし……。

 ……正直、『風蒼国』で学園に入る前、実家で父は贅沢を嫌った。

 母の病気以外の事にお金を使わず、わたしには一切自由なお金など渡さず、全て領民やかつて部下だった傭兵たちに還元して……。

 いや、まあ、今思えば、とんでもなくいい上司、いい領主だったんだろうなって思うわよ?

 町は発展していったし、母にもいい主治医が見つかったし、結果的にわたしの前世の知識で母は生きながらえたわけだし!

 だから学園で、貴族の暮らしぶりに本気でびっくりした。

 自分の事は他人がやる。

 服の着せ替えもお風呂も食事も。

 全部人にやらせるのが貴族の流儀とばかりに、本当になにもかも全て。

 逆にそれが出来なければ、貴族として二流、三流。

 商人の数は貴族の権威と直結していた。

 使用人などいなかったわたしは、やはり贅沢ってどうするものなのかよく分からない。

 ……そうか、今考えるとそういう焦りもあったのだろうな。

 とはいえ……褒賞をお断りしすぎ、と言われてしまうなんて。

 やっぱりなにかもらわないとダメなのか。

 クロエ様の、王としての甲斐性が問われる。

 むむむ……!


「あ」

「?」

「あ、あの、そ、それなら……それなら、クロエ様と……一日一緒にいたい、です」

「? は?」

「えーと、褒賞のお話ですよね?」


 マークスさんに確認されるが、ええ、もちろん。

 褒賞の話ですよ、と頷く。


「……ど、どう考えても……王様を一日独占するのは……家を一軒もらうより、土地をたくさんもらうより、遥かに贅沢な事だと……思います。……ど、どうでしょう?」


 ちら、とクロエ様を見上げる。

 いや、まあ、婚約者になってまだたったの三日ですけど。

 でも、三日間ほとんど話せていなかったの。

 お互い、仕事で!

 だから、一日くらいまた、お休みが欲しいというか……クロエ様を独占したいというか……いや、今更だけど相当恥ずかしい事言ったなわたし!


「はははははははは!」

「!?」


 クロエ様爆笑!?


「愛い!」

「は?」


 うぃ?


「そうだな、確かに俺の時間を丸一日所望とは……うむ、この上ない贅沢だろう」

「…………」

「あ、あの、すいません……マークスさんが口を開けたまま固まっているんですけど……やっぱりちょっと無理を言い過ぎ……ました、よ、ね?」

「いや、いいのではないか? お前に与える褒賞としてそれを望まれれば応えよう。ふふふ、一国の王の一人の『時間』を所望するとはなかなかだ」

「うっ……」


 やはりふっかけ過ぎたのかもしれない。

 でも、でも……『豊穣感謝祭』が楽し過ぎたんだもんー!

 両想いになったんだし、もう少しくらいクロエ様と一緒にいたいと思うのは……我儘になのかな。

 わたしやっぱりヒロイン思考が治ってないのだろうか?


「…………」


 でも、クロエ様も尻尾を左右に揺らしててご機嫌な感じ?

 そういえばクロエ様はギャップ萌えのキャラだっけ。

 クールな鬼畜眼鏡といった容姿とは裏腹に、戦場には自分で飛び出し、部下よりも先に前線に突撃。

 かと思えば、好感度が上がるとヒロインにブラッシングの櫛で髪や尾を整えさせようと甘えてくる。


「…………っ」


 あれ、これ、わたし……早まったのでは?

 今の時点でそんな甘えられた方したら、きゅん死しない?


「では、褒賞を与える日に関してはこちらで調整してから追って知らせる。楽しみにしているといい」

「あ、ありがとうございます!」


 ——と、いうわけで、わたしに与えられる褒賞は『白狼王の時間』になりました。

 ふああぁ〜……今から楽しみでならない。

 クロエ様と二人で好きなように過ごせる時間……ああ! 一体なにしようかなぁ!

 やっぱりブラッシングはするとして、他にも色々、クロエ様の小さな頃のお話とか聞いてみようかな。

 そういえば結婚するならクロエ様のご両親にご挨拶もしないとよね!

 よーし、がんばるぞー!


「あ、そうだ」


 忘れるところだった。

 図書館に寄って行こうと思ってたのよね。


「って……」

「げっ!」


 図書館に! 入ろうとした瞬間に! ロ、ローゼンリーゼェ!?

 あ、リルちゃんも一緒か。

 くっ……い、いや、図書館ならさすがに帯剣してないから、まあ、大丈夫、かな?

 っていうか、貴女たちヒロインとライバルなのに一緒に図書館で勉強?

 な、仲良しになったの?


「げ、『げっ』とはなによ!」


 しまった、無意識に「げっ」と口から出てしまっていたか!


「待って、ローゼンリーゼ……図書館の近くだから、騒ぐのよくないよ」

「ぐっ!」


 リルちゃんナイス!

 そーよそーよ、図書館の前で騒ぐと怒られるんだからー。

 ……本当、獣人よりも血の気の多いヒロインねぇ?


「なんであんたがこんなところにいるの」

「は? わたしが図書館に来るののなにがおかしいのよ。わたしだって調べ物のために図書館くらい利用するわ。むしろ脳筋ヒロインさんが図書館になんの用なの?」

「ハ・ァ?」


 ガ、ガラ悪いなぁ!

 わたしが言うのもなんだけどヒロインの顔してないわよ!


「『星祝福ステラ』について、調べてたよ」

「!」


 ガラの悪いヒロインの代わりに、リルちゃんが答える。

星祝福ステラ』……ゲームで『ヒロインわたしたち』が愛の力で『祝福』から進化させる力。

 少なくともわたしは『続編』でその力に目覚める事はなく、『豊穣感謝祭』で誰からも感謝祭衣装を贈られなかったローゼンリーゼもまた、その力に目覚める可能性は……なくなった。

 だというのに、調べてた?

 なんで?

 ……、……ま、さか!


「あ、貴女……まさか、足りないの?」


 戦闘レベルが!

 待って待って待って!

 今、『冬の中期』! もうすぐラスボスイベント!

 この時点でローゼンリーゼの戦闘レベルが足りないって!

 イコール…………死!


「っ……」

「!」


 悔しげに歪められる表情。

 嘘でしょ……! それって肯定って意味!?

 まずくない? いや、まずすぎる……!

 ローゼンリーゼが負けたら……どうなるの?

 続編ヒロイン、ローゼンリーゼに追加されている『死亡エンディング』!

 この子が負けたら……『大災禍樹』は、誰が倒すのよ?

 アレは最初から瘴気も放つし魔物も無限に生み出す。

 ミールームさんの話では、ドラゴンまで『大災禍樹』から出てくるらしいじゃない。


「……それで、『星祝福』についてなにか分かったの……?」


 きっと、戦闘レベルが足りないから『星祝福』について調べていたのね?

 わたしは『光の女神』とやらについて調べるつもりだったけれど、その『光の女神』も『星祝福』と無関係ではないようだし……なんならこれから一緒に調べてもいいんだけど……。


「えっとね、『光の女神』が使ってた、特別な『祝福』なんだよ」

「……!」

「朝から調べたけど……それしか分からなかったよ」


 またもリルちゃんが代わりに答える。

 しかし残念ながら、その答えは朝ミールームさんに聞いたものだ。

 むー、この二人はここから先の情報は持っていなさそうね?

 それに、物語を読みあさっても同じような情報しか得られそうにない感じ?


「ちなみに、その『光の女神』については、なにか載ってた?」

「ううん」

「そ、そう」


 やはり期待出来ない感じなのか。

 うーん、やっぱりあんまり気にしない方がいいのかな?

 でもなぁ……!


「わたし、『光の女神』に関して調べるつもりなの。二人はこれから鍛錬?」

「ううん、お昼ご飯食べ損ねたから、食べに行くよ」

「じゃあ、食べ終わったらまた調べるの?」

「うん。ルナリーゼ、一緒調べるよ?」

「うん、そうしようか」

「なっ! 勝手に決めないでっ!」


 じと。

 リルちゃんと共に、強がりを言うローゼンリーゼを見る。

 強がり……うん、間違いなく、強がり。

 だってこの子の場合、命が懸かっている。


「そんな事言ってる場合じゃないでしょ?」

「っ!」

「あ、の、ね! あんたそろそろ本気でいい加減にしなさいよ! 先輩として! 一つ言っておくけどね! ……『ヒロイン』だからって、人の心をなんの努力もなしに手に入れられるわけじゃないの!」


 それは、自分が国から追放されてようやく理解した事。

 そして、アンリがバカなわたしに……優しく教えてくれた真実。

 かなりブーメランなセリフだけど、嘘は言ってない。

 というよりも、この国に来て実感した。


「死なれるのは目覚めが悪くなりそうだから、調べるの手伝ってあげるわ」

「…………っ……」

「ルナリーゼ〜、ありがとうだよ〜。良かったよ、な、ローゼンリーゼ」

「……よ、余計なお世話だけど……仕方ないから……手伝わせてあげるわよ……」


 こいつぅ。

 …………とはいえ、だ。

 あのあと三人で色々調べたけれど、結局『光の女神』についても『星祝福』についてもなんにも分からなかった。

 一体『光の女神』と『星祝福』ってなんなんだろう?

 そして…………このままだと、ローゼンリーゼが、死ぬ。

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