第22話 ヒロイン、魔石の用途を相談する



「…………どういうコトなの……?」

「ど、どういう事でしょう……?」


 クロエ様の正式な婚約者として認められ、三日が過ぎた。

 わたしは普段通り、『宝石祝福師』としての仕事に勤しんでいる。

 しかし、にわかには信じ難い事が起きていた。

 あれほど酷かった『穢れ』の魔石が、たった三日で綺麗に『浄化』完了してしまったのだ。

 あれだけ頑固で、次の日には量が復活しているような『穢れ』がたった三日で……。

 ど、どういう事?

 ミールームさんと顔を見合わせてしまう。


「な、なんにしても、『浄化』は終わったんだし……『祝福』に移れるわね」

「そ、そうですね。……一体どんな効果が出るのでしょう?」

「それにこんな大きな魔石、なにに使うのかしら? というか、なにかに使えるのかしら? 少なくとも武器や鎧には使えないわよね……」

「そ、そうですよね?」


 魔石は『祝石ルーナ』にすると、素となった魔物の特性が現れる。

 素になった魔物が火を吐けば、武器にした時火を纏ったり、防具にした時火に耐性が出たり。

 風の特性があった魔物の魔石なら、靴に装着するとものすごいスピードで走れたり。

 そんなわけで、魔石は基本的に武具に使用される。

 しかし……この魔石、デカすぎると思う。

 魔石って見た目より重くないので、この魔石はわたしでもなんとか持ち上げられるんだけど……大きさ的には丸くなったチワワ……いや、丸くなったミールームさんくらいある。

 そんなでかい魔石を身につけるとか……無理じゃね?


「魔石って砕いたりして小さく加工したりは出来ないんですか?」

「聞いた事はないわね。形を整えるとか、そういう事くらいなら出来ると聞くけれど……ドラゴンの鱗みたいに硬いから、加工は数ヶ月かかるらしいわよ」

「す、数ヶ月!?」

「基本的にどんな特質を備えた魔石であっても高熱にも低温にも、めちゃくちゃ強いらしいのよ。それこそ『大災禍樹』から生まれたドラゴンのように……」

「……ド、ドラゴン……」


 ごくり。

 さすがファンタジー……!

『大災禍樹』ってドラゴンも生み出すんだ?


「ドラゴンの鱗はあまりにも硬く、熱にも水にも強くて『魔剣』八本でようやく倒したという伝承があるのよね」

「魔剣、八本……」


 それって……『ベルクレス共王国』の王様の数と同じ?


「そうよ、この『ベルクレス共王国』の王が持つ魔剣は、ずーっと昔に現れた『大災禍樹』と、それから生まれたドラゴンを倒したモノなんですって! そのドラゴンからは魔石こそ採れなかったけれど、鱗で魔剣を打ち直し、今の魔剣の姿になったと言われているわ」

「へえ〜! そんな歴史があったんですね〜」


 他国の歴史なんて全然興味なかったけれど、これはなかなか面白いかも!

 いかにもファンタジーって感じだし!


「…………。ちなみに」

「なぁに?」

「わたしが祈る時に……使う呪文……『光の女神よ、かの者に祝福を』……って、どういう意味だか分かりますか?」

「え? アンタ知らずに使ってたの?」

「うっ。……すいません。わたしの生まれた国では、宗教のようなものはなくて……」


 ずっと疑問だったのよね。

 この呪文……前世の記憶を頼りに、『祝福』を使う時に言ってただけなんだけど……けれど、最近この呪文に不思議な感覚を覚えるの。

 なんていうか——……えーと、そう!

 力の源流、源泉のようなものがとても近くにあるような! そんな感じ!


「光の女神は、伝説の力……『星祝福ステラ』を扱えたと言われてるわね。『祝福』はその女神のお慈悲。不思議な事に『祝福』は人間が一番使える人口が多いというわ」

「獣人は魔力がない、んですっけ?」

「そう。あんまりないの。多いのはかなり珍しいわねぇ」

「でも、人間も魔力は多くないんですよね……」


 冒険者時代に教わったけど、魔力の量でいうと『有翼人種』『エルフ』次いで『ドワーフ』『人間』『地底人』……そして一番魔力量がないと言われているのが、『獣人』である。

『有翼人種』は天使みたいな人たち。

『エルフ』はファンタジーあるあるの耳が長く容姿が美しい長寿の亜人。

 この二種は魔法が得意で、接近戦は苦手。

 どちらもプライドが高く、自分たちが一番優れた種だと思っているらしい。

『ドワーフ』もファンタジーあるあるのずんぐりむっくりな種族ね。

 ん? ドワーフ……ドワーフといえば物作り……魔石の加工、そんなに大変ならドワーフにやってもらえたりとかしないのかしら?

 まあ、それはあとで聞いてみよう。

 そして『地底人』……あんまり聞かないわよねー……とりあえず世界中の地下に散らばって住んでいるらしい。

 人間とドワーフの中間の大きさで、暗闇の中で生活しているから明るい地上には出てきたがらないそうだ。

 そんな六種の種族の中で、『祝福』を使えるのは人間種が一番多い……。


「魔力の量とかは、関係ない?」

「多分そうなんじゃない? 伝承の『大災禍樹』はそれはもうとんでもなくって……六種族の英雄たちが揃っても倒す事が出来なかった。そんな時に、光の女神が『星祝福ステラ』で英雄たちを守り、八つの魔剣で獣王たちが特攻し、切り倒したのだそうよ。図書館にその物語の書いてある本はたくさんあるから、そんなに興味あるなら読んできたら?」

「…………そう、ですね」


 ドワーフに魔石の加工を依頼出来ないか、相談もしてみたいし。

星祝福ステラ』……ヒロインが愛の力で目覚めさせる力。

 ゲームの中では「ヒロインが使える特別な力」くらいの認識だったけど……。


「ちょっと調べてきます。ついでに、このでかい魔石の使い道も確認してきますね」

「そうね!!」


 同意がものすごく力強い!




 というわけで本日の業務は終了!

 クロエ様のところに魔石の用途確認と、ドワーフに協力を仰げないか、問い合わせに向かう事にした。

 そのあとで、お城の中の図書館で『光の女神』とやらについて調べてみよう。


「♪」


 いや、別に浮かれてないですよ?

 婚約者になったからって、仕事中のクロエ様に簡単に会えるとは思ってませんし?

 しょせんは婚約者なので、妻とかじゃないし。

 通い妻とか、別に、そんな言葉に浮かれてないですよ?


「むふふふ……」


 顔も緩んでませんよ?

 これはそのー、顔の筋肉の練習です!

 そう、これは練習なのです!


「これはこれは、ルナリーゼ様」

「ぎょわふっ! ……マ、マークスさん! ここここここんにちは! あ、あのー、クロエ様に魔石の用途に関してお聞きしたい事があるんですが……いつ頃お会い出来ますかね?」


 執務室まで来ると、マークスさんがちょうど部屋から出てきたところだった。

 部屋の前には一応護衛の騎士が立っており、面会を希望する場合は彼らに話をすればいいと言われた。

 ぶっちゃけ、クロエ様の執務室には初めて来たので緊張する。

 だって、ローゼンリーゼの邪魔をするつもりはなかったから……。

 ……ちなみに、ローゼンリーゼはそんな護衛騎士を物理で突破して突撃していたようだ。

 そりゃ怒られて当然だし、怒られる程度で済んでいるのが乙女ゲームのすごいところかもしれない。

 獣人族は血の気が多い事で有名だが、城の騎士は常識をきちんと弁えている。

 あと、さすがにそんな事したら非常識すぎてドン引きされるのは仕方ない。

 しかし、ぶっちゃけ『風蒼国』でヒロイン権力とばかりに同じ事をした事があるので……あああああああああぁ! やめようやめよう! 屠り去れ! 消え散れ我が悪しき記憶ぅ!


「すぐにお伺いして参ります。部屋の中でお待ちください」

「え、い、いいんですか?」

「もちろんでございます」


 そう言われて、通される。

 は、恥ずかしいような、嬉しいような、くすぐったいような!


「お茶を」

「お、お構いなく!?」


 部屋の中には使用人!

 それにすげー広いんですけどぅ!?

 正面には大きな窓ガラス。

 ゴージャスなテーブル、ソファー!

 左右に扉。部屋の基調は白く、金色で縁取りされている。

 白狼王の名の通り、という感じ?

 一分も経たないうちに左の部屋からマークスさんが戻ってきた。


「あ……」

「ルナ、よく来た」


 クロエ様も、一緒に。

 ひゃ、ひゃー……今日もカッコイー……!

 室内だから眼鏡もしてないし……わたしの前だからブラックトルマリンのペンダントも着けてないし……ひゃー!


「魔石の用途に関して相談があると聞いたが」

「あ、は、はい。実は今朝魔石の『浄化』が終わったんです」

「なんと!」

「なんとぉ!?」


 クロエ様とマークスさんが驚くのも無理はない。

 普通の、剣や武具に使われるサイズの魔石でさえ採りたてほやほやを『浄化』するのに普通の『宝石祝福師』は一ヶ月かかるそうだ。

 わたしはどうやら『浄化』が得意のようなのだが、あの大きさの魔石は難敵だったと言わざるを得ない。

 とはいえ、あんなに難しかったのに、クロエ様の婚約者になってからは早かった。

 なんだったんだろう? とは思うけど、それはこの際気にしないとして……。


「は、早いな? アレがもう『浄化』されたのか?」

「は、はい。でもあの、あれ、かなり大きいですよね? 武器や鎧とかには到底使えないと思うんですが……」

「ふむ……」

「言われてみると確かに……。用途までは考えておりませんでしたね! 陛下!」

「いや、用途はいくつか考えていた」

「え! そうだったんですかぁ!?」


 ……マ、マークスさん……!


「城の結界。もしくは、大砲用にどうかと考えていた」

「結界?」

「アレが採れた魔物は防御力の高い亀……エレドラングランドタートルという超大型の魔物だ。その防御力の高さから、『祝石ルーナ』にした時防御系の効果を発揮するのではと、考えていたのだ。逆に攻撃系の効果を持つ『祝石ルーナ』になるようならば、城の守りの要……大型砲の建設に使うという手もあると考えていた」

「「そ、そうだったんですか」」


 な、なんだ、用途はちゃんと考えられていたのか!

 ミールームさんと「どうしようどうしよう」ともだもだ考えていたわたしがちょっとバカみたい。

 って、思ってたけどマークスさんも知らなかったっぽいのでこの話は終わらせよう。


「じゃあ、そのままあの魔石に『祝福』を施してもいいんですね?」

「構わない。終わったら取りに行かせるので連絡をくれ。『祝石ルーナ』になった時の効果によって、用途は変わる。今後も魔石は『浄化』と『祝福』が終わってから、こちらに手渡してくれればよい」

「分かりました」


 そうか、現時点でなにに使えるかは分からないのか。

 ちょっと早とちりしちゃったのね、わたしたち。

 えへへへへへ!

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