第7話 仕事を覚える
翌日!
「今日もよろしくお願いします!」
「おう、んでは、今日はいよいよ宝石への祝福をやってもらうぞ」
「はい!」
「頑張るのよ、ルナリーゼ!」
「はい!」
ミールームさんが選んできた宝石を、作業場に運ぶ。
その中からアツマーさんが取り出したのは綺麗なルビー。
「まず、ワシら『宝石祝福師』の仕事は大きく二つある。『浄化』と『祝福』だ。『祝福』した石は『
「祝福切れ……」
「そうじゃ。祝福切れになったらミールームが綺麗に洗って磨き上げる。『祝福師』は磨き上げられた石を『浄化』して、また同じように『祝福』をする。まあ、ワシらの仕事はそんな感じで繰り返しじゃな」
「そう、なんですね」
意外と簡単そう。
でも、『浄化』って……それってまさか
「ああ、『浄化』はな、洗って磨かれた石に『祝福』をするだけじゃよ。で、そのあともう一度『祝福』を使うんじゃ」
「え?」
「まあ、つまり『祝福』し続けるだけなんじゃけどな……」
ち、違うんかーーーい!
くっ、今更こんなところで真のヒロイン覚醒か! と思ったらそんな事なかった!
別に今更真のヒロインに覚醒しても仕方ないんだけど!
でもちょっと期待してしまった! 悔しい!
「これが意外と……まあ時々なんじゃが、強い『穢れ』を溜め込んだ石が来る事があってな」
「……強い、『穢れ』……ですか?」
「ん、まあ、魔石と呼ばれる類のレベルじゃ」
「!」
魔石は魔物から時折獲れる資源。
強い魔力を帯びていて、剣や鎧などの武具に装着すると様々な効果を持たせる事が出来るらしい。
たとえば、靴につければスピードアップしたり剣につければ炎や氷を放つようになったり、それは魔物の特性を強く受け継いでいる。
ただし、とても『穢れ』ていて、そのままでは使えない。
そもそも、倒した魔物が魔石を落とす事自体が非常に稀!
少なくとも、人間の国である『風蒼国』に魔石は存在しなかった。
「……まさか、魔石を『使えるようにする』加工って……!」
「そうよ、『宝石祝福師』の祝福よ」
「えええええ⁉︎」
そうだったのぉー⁉︎
……でも、そう言われてみると人間の国『風蒼国』では魔石は使い道がない穢れた石として、他国に出荷されると聞く。
わたしの唯一使える力、『祝福』が身体の補助魔法程度でまったく重宝されないのと同じように……魔石もまた、『風蒼国』で使い道がないものだとされていただけ?
「……え……? 『風蒼国』はアホなんですか……?」
どうして『祝福』も魔石も他国に譲っちゃうの?
バカなの? アホなの?
譲らずに取っておいて、この国みたいに『宝石祝福師』に浄化してもらえれば、魔石の武具が手に入るじゃないのおおぉ⁉︎
「簡単よ、魔石の武具を人間は扱えないのだわ」
「? どういう事です、か?」
「威力が強すぎて人間の脆弱な体では扱い切れんのじゃよ。使い手の方が先に壊れちまう。ミールームや、それをとっとくれ」
「それじゃ分からないっていつも言ってるでしょ! このボケジジイ!」
とか言いつつ、ミールームさんが棚に駆け上がり、載っていたフキンをアツマーさんへ放り投げる。
それで拭き拭きと宝石を拭くと、台座に置くアツマーさん。
「さ、では見とれよ。なぁに、簡単だ。宝石に『祝福』をかけるだけじゃて」
「っ……」
「光の女神よ、かの者に祝福を」
アツマーさんの手から、小さな光の粒が宝石の中へと注がれていく。
あれが『祝福』だ。
ただ祈るだけなのだが、その優しい光はこの宝石を『
ただのルビーに、金箔のような輝きがついた。
これで『
「綺麗……」
「さあ、やってみろ」
「ええ!? そ、そんないきなり!?」
「これからお前さんがやるんだから、なんも問題なかろう。そうそう、きちんと宝石を拭くんじゃぞ。汚れがあると『祝福』の効果が上手く入らぬのじゃ」
それでミールームさんという洗いのプロが助手なのか。
さらに念入りにフキンで拭いて、それから宝石を『祝福』する、のね。
なるほど。
「わ、分かりました、やってみます」
「よしよし。なあに、なんにも考えんでも出来るから心配はいらんさ」
「まぁ、確かに『祝福』以外『宝石祝福師』がする事って特にないのよね。あとはまあ、せいぜい宝石の種類や『
「え……」
そっちの方がめちゃくちゃ大変なのでは?
「なぁに、仕事してりゃあ勝手に覚えていくわい。ワシらの仕事は既存の石の『浄化』と『祝福』だけで、新しく石に『祝福』をする事は少ない。魔石の『浄化』なんぞもっと少ないわ。魔石は年に一つあるかないかじゃな」
「う……それでも思ってたより多い……」
「さあ、さ。そんな事よりやってみんしゃいな」
「……は、はい」
宝石箱を差し出される。
中には少し汚れた宝石がいっぱい。
これらは、と聞くと、持ち主のいなくなった石なんだって。
綺麗にしてから『
……十分お給料もらってるんじゃないの?
まあ、なんにしても『祝福』すればいいだけならそれしか能のないわたしにはうってつけの仕事だわ。
一つ手に取って、丁寧に拭き、ミールームさんにも確認してもらいながらまた拭いて……。
綺麗になったら台座に置いて、いざ……初仕事!
「……光の女神よ、かの者に祝福を」
祈る。
この宝石に祝福を——。
「…………おお、これはこれは!」
「あら、やるじゃない!」
「っ、う、上手くいきました?」
目を開けて確認すると、いい感じに宝石は光を放っている。
金色の小さな輝き……どうやら上手く出来たみたいだ。
「そうそう、これじゃこれじゃ! ほうほう、アンタなかなかに強い『祝福』を使えるようじゃなぁ。こりゃあワシも苦労するでかい石や複数同時祝福とかも出来るかもしれん」
「大きな石や、複数同時祝福、ですか?」
「そうじゃそうじゃ、アレじゃ」
微妙になにを言っているのか分からないな、と思ったら、アツマーさんがよいせよいせと反対の棚から大きな箱を持ってきた。
手のひら二つ分の箱から出てきたのは水晶。
でも、なんとなくくすんでる?
「実はうちの陛下の人間アレルギーをマシにするための『
「え、ええぇ……」
王様の依頼の品って事〜⁉︎
それを後回しにして放置とかしちゃダメじゃないの⁉︎
ゆるすぎでしょベルクレス共王国〜⁉︎
「さ、頼む」
「え、えええっ!」
「まぁ、まずは洗浄と浄化からね。この大きさだとアタシにも手が出せないのよ」
「⁉︎」
「ワシも長時間持っておれん。腰ダメにしちゃう」
「⁉︎」
……なるほど、それで後回し放置されてたのね。
くっ、確かにアツマーさんは腰をやられそうだしミールームさんはこの大きさの石を洗うのは無理そう!
「分かりました、わたしが洗います……」
「じゃあついてらっしゃい! 洗い方を教えるわ!」
「は、はい」
こうして、見習いらしいスタートを決めたわたし。
そのあともたくさん、色々やらされた。
でもどれも言われた通り宝石を洗浄、浄化、祝福の繰り返し。
うん、これならやっていけそう!
二日目はそうして幕を閉じる。
だが、翌朝……三日目の朝——早くも事件は起きたのだ。
「? おはようございます……?」
不慣れなカボチャの建物の一室で目を覚ましたわたしは、廊下に出て真っ先に違和感を感じた。
奇妙だ。
人の気配がまったく、しない?
「あれ? えーと、おはようございますー? アツマーさん? ミールームさん? おはようございまーす……? あれ?」
懐中時計を出して見てみる。
朝七時……太陽は出ている……出たばかりの位置……。
つまり寝過ごしたり、実は夜、とかもない。
昨日と同じ時間に起きたはずなんだけどな?
「?」
おかしいと思いつつ、ダイニングから宝石洗浄を行う中庭に出てみたが、やはり誰もいない。
いや、でもダイニングのテーブルに紙を見つけた。
『あとは頼んだ。探さないでください。アツマーより』
……と、書かれた紙が……え? いや、待って……は?
「はあああぁぁあああぁ!?」
「マジ?」
「マジです……」
「あんのジジイ……信じられないわ」
……直後、わたしの大声で起きてきたミールームさんに紙を見せる。
からの第一声が今のだ。
ア、アツマーさん……たったの二日でわたしを『教えきった』とばかりに隠居しおった。
いや、隠居したい隠居したいと言ってたのは知ってたけど……。
だからって新人が来て二日で辞めてくってどうなのおおおぉ⁉︎
ひどすぎるぅ!
「……仕方ないわねー……まあ、『宝石祝福師』の仕事は昨日教わったものがほとんどだから、今日も昨日と同じように仕事しましょう」
「…………」
「そんな不安そうな顔しないで。アタシはここにいるわよ! アンタを一人にしたりしないわ、新人ちゃん! いえ、ルナリーゼ! 今日からアタシたちはバディ。共に仕事をする相棒よ!」
「っ……ミールームさんっ」
…………かっ……かわいいっ!
可愛すぎるし、頼もしすぎて涙出てきたぁ!
「ミールームさぁぁんっ!」
抱きついて抱きしめてもふる!
あぁぁっ! もふもふかわいいーーー!
おのれアツマーさん次に会う機会があったら必ず殴る!
でもミールームさんのさりげない獣臭〜!
「……さ、顔を洗って今日も頑張りましょう!」
「はい!」
ミールームさんがいれば、わたし頑張れる気がする〜!
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