おやっさん

今は、第4金曜日の18時30分

「由唯、準備はできたか?」

「問題ない」

「よし!じゃあ行くかぁ!」

「おー」


家から歩いて数十分、最寄りの公園に着く。

公園の入り口に置いてあるポールに座り、

「まだかなー」

由唯は足をぷらぷらさせながらそんなことを言った。

「暇だししりとりする?」

「しりとり」

「リンゴ」

「ゴマ」

「魔法」

「浮き輪」

「わっか」

「顔」

「おー、お前さんたちもう来てたか」

「か、か......か?」

「兄貴違うよ、ほら」

由唯が第三の声がした方向に指をさす。

そこには白い割烹着かっぽうぎみたいなのを着たおじいさんと台車がいた。

名前は聞いたことないが、俺は『おやっさん』って呼んでる。

いつも第2、4金曜日にここに来る。

「いつも言ってるがそんなに早く来ても準備するからまだ時間かかるぞ?」

「いいよ、待ってるから」

「じゃあ、座って待っとけ」

言われた通り出された椅子に座る。

「お前さんたちよぉ、こう毎回来られると休みたいと思っても来なきゃいけないからめんどくさいんだが?」

「いいじゃねえか別によ」

「そうですよ、毎回楽しみにしてるんですから」

「そうかい」

少し照れたような返事をしながら俺たちの後ろに暖簾のれんをかけ、

「おまちどーさん、そんじゃいらっしゃい」

ラーメン屋が出来上がった。

「醤油2つ」

「つっても醤油しかないけどな」

「雰囲気だよ、雰囲気」

隣で由唯もウンウンと頷いている。

「じゃ、ちょっと待っとけ」

おやっさんが作業に取り掛かる。

「そういや、由唯ちゃんこの前のライブすごかったよー」

「見てくれたんですか?!」

「うんうん、家族で一緒に見たよ」

「ありがとうございます!」

「そんな由唯ちゃんにはさらなる活躍を期待してチャーシュー多めだな」

由唯は、っしゃ!といいながらガッツポーズをした。

「おやっさんあんまり甘やかさないでくれよ」

「孫みてぇなもんだからいいじゃねえかよ」

「孫っていうんだったらよ、金払わなくてもいいよなぁ?おやっさん」

「じゃあお前さんよぉ、デ〇ヘルにママ~って言いながらお金渡したり、パパ活でお金渡すのとよぉ、なーにが違うんだ?」

「すぅ~......確かに」

「えぇ......」


ピピピ

「おし。そろそろだな」

おやっさんがタイマーを止めると、麺が入ってるざる?名前知らんけど......それを湯切りしさっき話しながら作ってたスープの中に入れ、

「醤油2つお待ちどーさん」

「お、来た来た」

割り箸を取り2つに割る。

パキッ

「お、きれいに2つに割れた、ラッキー。じゃ、いただきまーす」

由唯も続いて割るが、

パキッ

「うわー、偏った。サイアク。......いただきます」

ずー......ずるずる

「うっま」

おやっさんは定年までラーメン屋をやっていたから、麺がしっかりしていて美味い。

スープ単体で飲む。......食道から胃に向かって流れてくるのがわかる。

チャーシューを一口。

はむ......。

んー!スープにすげー浸ってたから、スープがチャーシューの食感を、チャーシューのうまみがスープの味を、互いが互いを引き立てあってる!

これが二人三脚というやつか!

ガリッ

俺、やっぱメンマのコリコリ感めっちゃ好きだわ。噛んでて飽きない。

水を飲み、口と火照った体をリセットし一息つく。......さてここから一気に攻める!

ずる!ずるずるずー!ずー!

最後はスープも......

ゴク、ゴク......ゴク

「っはー......ごちそうさまでした」

両手を合わせてラーメンとおやっさんに感謝をする。

「......ごちそうさまでした」

続いて由唯も食べ終わったようだ。

「いやー、美味かった」

「お粗末さん」

「さてと、長居しててもあれだし帰るか由唯」

「ん」

席を立ちながら、

「あんがとな。おやっさん、はいこれお金」

「ん、ちょうどだな」

「ごちそうさまでした。また来ますね」

「おうおう、また来い。ただし次からはもうちょい遅くこいや」

それぞれおやっさんに感謝を述べてラーメンについて感想を言い合いながら、家に帰るのだった。

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