どうも俺にはセンスがないらしい...。

 そろそろ帰ってくるかな。

 七瀬柊は、白い髪を軽く揺らしながら猫模様の時計に目をやった。柊は料理をしながらドアが開くのを心待ちにしていた。


「ただいま」

 と少女のつかれた疲れた声が聞こえた。

 声の正体は七瀬由唯。ちょうど高2の......いわゆるJKだ。

「おかえりー」

 リビングに入ってきた由唯を柊は笑顔で迎えるが、由唯はそれを無視し早歩きでキッチンにいる柊の前でカウンターに今朝渡した弁当を、ガンッ!と叩きつけた。

「兄貴、ちょっと話がある」

 由唯が睨んでくる。

「ん?どうした」

 由唯はカバンからピンク色のカバーの付いたスマホを取り出し、ある写真を見せてきた。

「これちょっと見て」

 キッチンから身を乗り出してみてみると、それは今日由唯のために朝早く起きて作ったお昼の弁当の写真だった。

 ちなみに中身は、

 ・ご飯(上に鰹節、その上に乗りが敷いてあるやつ)

 ・海苔ご飯の上に焼き鮭

 ・煮物(レンコン、タケノコ、こんにゃく、サトイモ、ニンジン)

 ・ほうれん草のおひたし

 ・カットキウイ

 と、健康に極振りしたメニューとなっている。......ほっと〇っとかな。

「JK」という華々しい青春時代の真っただ中に、この弁当ははたから見ればある意味ひどい出来だ。

 由唯もそのことで、写真を食べる前に撮っておいたんだろう。

「私さぁ、この前今のから中身別のに変えてって言ったよね?!なーんにも変わってないじゃん!!私そのせいで恥ずかしくて学校で雀たちと一緒にお弁当食べれなかったんだよ!!」

 由唯が思いっきりブチ切れてきた。しかしこっちにも言い分はある。

「だから変えたんだろ?前回よりだいぶ変えたんだぜ。それに健康的でアイドルやってる由唯には必要な栄養も入っているだろ?なんで怒られるんだよ」

「確かに前回よりはいいよ思うよ。ましにはなってないけど......。でもね、海苔がダメ。あと煮物も。それに彩りがなさすぎる。はっきり言って地味なの」

「...」

 思わず押し黙る。そんなにダメ?

「とにかく、こうゆうの作るならもう作らなくていいから......」

「あ、ちょっ...由唯!」

 由唯は涙を含んだ声でそう言い放った後、2階の自分の部屋へ駈け込んで行った。


 ****


 由唯は暗い部屋の中、ベットの中でふて寝をしていた。

 グスン......。

 柊と口論してから大体一時間ほど経っていたため、帰ってきたのが7時だから今は大体8時である。

 ぐ~~

 お腹すいた......。

 ベットから起き上がって1階に降りようとしたが、柊と喧嘩しているのを思い出し、またベットに戻りうずくまる。今度はそばにあったクマのぬいぐるみをきつく抱きしめる。


 ーガチャリ

 もう1回うずくまってからしばらくして、由唯は自分の部屋のドアが開き廊下の明かりがパッと壁に映ったのに気付いた。柊......兄貴だ。

 由唯は、すぐさま近くにあった布団をかぶり隙間から柊の様子をうかがった。

「ゆ、由唯~......起きてるか?は、入るぞー」

 兄貴の声がする。だが無視する!つか私まだ何も言ってないんだから入ってくんなよ!

「寝てる......のか?」

 ぜってぇー起きねぇー。

「そっか寝てるのか。......由唯、今から言うのは兄ちゃんの独り言だから、もし起きていたり途中で起きたりしても無視していいからな」

 何言ってんだあいつ......?てか、他人の部屋で勝手に独り言を喋んなよ。

 トンッ。......は?

 何かに手をつく音が聞こえた。なんと柊は土下座をしていた。

 おいおいおい......。他人の部屋でやるもんじゃねぇぞ!

「すまん!兄ちゃんが悪かった......!ほら由唯はアイドルをやっているだろ?だから見た目とか第一印象?みたいなのって大事だろ?でも兄ちゃんさ、おしゃれとかって苦手だからせめて食事の管理くらいは頑張んないとって思ってたんだけど、見た目まで気ぃ使ってやれなかった......。兄ちゃんもっともっと勉強して、明日までにすごいやつ作るからな。あ、そうだ。ほら、おにぎり握ったからさ起きたら食べてな」

 柊は、机に持ってきていたおにぎりを置いた。

「じゃあ、おやすみ」

 ガチャリ。

 悲しそうな声でそう言った後、ドアの閉まる音が聞こえた。部屋がまた暗くなる。

 グスン......。

 また涙が出てきた。

 もしかして兄貴のあの言葉で泣いてんの?今日の私なんか変だ。

 ぐ~。

 そういえば帰ってきてから何にも食べてないや。兄貴がいるときにならなくてよかった。......おにぎり食べよ。結構量あるな。

 由唯は机の上に置いてあったおにぎりを見つめた後立ち上がり、柊の作ったおにぎりを食べ始めた。


 ****


 由唯が2階に行った後、柊はしばらく放心状態だった。少しして、由唯が置いて行った弁当に目を向けた。柊は弁当包みからを取り出しふたを開けると、

「...」

 なんと中は空っぽだった。

「ちゃんと食べてくれたんだ......。あいつに悪いことしたな」

 由唯の弁当を洗って、炊飯器の中の晩御飯のために炊いてあったご飯をすくい、それぞれ違う中身の入ったおにぎりを作りはじめた。

 ーそれから数十分後、柊は由唯の部屋の前に突っ立ていた。

 少し作りすぎたかな......?

 柊の手には皿に山なりになったおにぎりがあった。

 土下座の一つでもしないとだめだよな。......よし!

 柊は、覚悟を決めてドアを開けた。

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