夜はお楽しみ

 流しで使った食器を洗っていると、

「それ何洗っているの?」

 とアリスさんが聞いてきた。

「これは俺が元居た世界で使っていたお弁当です」

 と容器を見せた。

「へぇー、いいなぁ」

「いいな?」

「妖人種ってね、外食はお店で済ませちゃうからお弁当って食べないの。親も作ってくれなかったし」

「へー、じゃあ今度作りましょうか?」

「え?!いいの!」

 とがっついてきた。

 ......って近い近い!見える見えちゃう!

 谷間のさらに向こうが見えそうになったので全力で首を曲げて皿洗いに戻る。

「どこか行かれるなら作りますよ」

「う~、やったぁー!」

 と大はしゃぎ。最初はお姉さん的な雰囲気があったけど、案外子供っぽいのかな?

 食器を洗い終えた後風呂に入り出ると服が置いてあった。それを着た後アリスさんに、

「あのー、なんで俺にサイズの合った服があるんですか?」

「あー、それ魔法」

「そんな魔法あるんだったら、服屋の商売あがったりですよ」

「簡単な感じのしか作れないよ。おしゃれしたかったら服屋に行かなきゃ」

 そんなやり取りをした後勉強を教えてもらっていた。

 眼鏡をかけているアリスさんはさっきとは別でまた良かった。


 勉強も終わり、もう寝ようとなったとき、

「え?!一緒に寝るんですか!」

「だってベット一つしかないし。二階に空き部屋はあるんだけど」

 そこは俺が朝起きたベッドだ。

「じゃあ、俺がその空き部屋で寝ますよ」

「ダメよ。箱とか散らかってるし、床で寝たら体壊すわよ?」

「でも......」

「いやなの?」

 いやってわけじゃあない。でもさ、アリスさんと寝るって......ねぇ?

「わかりましたよ」

「ん、ベットとか明日買いに行こう」

「ありがとうございます」

 ベットに入るとアリスさんとの距離がすごい近かった。

 すごい照れる。

「やっぱ二人だとちょっと狭いね」

「やっぱり俺床で寝ますよ」

「だーめ」

 と体をつかまれる。

「ちょっ」

「じゃあ床で寝ない?」

 と聞いてきた。

「寝ませんし、そんなこと言いませんから!」

 話してもらった後、顔が真っ赤なのを隠すようにアリスさんに背を向ける。

「ふふ、じゃあおやすみなさい」

「おやすみなさい......」

 静かになる。


 異世界にきていろんなことを知った。ドキドキや高揚感ってのがいっぱいあって、でもそれ以上に不安や恐怖ってのが強くなってて、明日も早いだろうから早く寝なくちゃいけないのに怖くて涙が止まらなくなってアリスさんはもう寝ているだろうから静かにしなくちゃいけないのに、震えと涙が止まらなくなっていく。


 ......震えていると後ろからそっと抱きしめられる。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 アリスさんが静かにそう言って頭を撫でてくれた。

「怖いよね、寂しいよね、つらいよね、不安だよね。......でも大丈夫、私がいるから。私がそばにいてあげるから。好きなだけ泣いていいよ。その気持ち私が受け止めてあげるから。ね?」

 アリスさんに促されるようにたくさん泣いた。今後もう泣かないだろうってくらいすごく。泣いて泣いて泣きじゃくって、それから疲れて寝てしまった。

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