鏡の国

 昔読んだライトノベルに死んだ魚の目だか腐った魚の目だかをした主人公というのがいた。当時はその挿絵を見て、「ただやる気のなさそうで目付きが悪いだけじゃないか」と思った。



 私は急な尿意を催してトイレに入った。

 用を足し終え手を洗うために洗面台の前へと向かった。並んだ洗面器の奥には大きな鏡が1つ。さっと水で手を流すと、ふと顔を上げた。


 そこに映っていたのは紛れもなく死んだ魚の目をした男の顔であった。

 中学生の私には理解できなかった表現が突然思い出されたかのように脳裏に浮かび、それがまさに眼前の自分だと瞬時に悟ったのである。


 鏡の向こうとこちら、かつての自分と今の自分、未来のあった頃と希望のない現在。1度迷い込んだ私はもう戻れないのかもしれない。

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