歯車

 視界を埋め尽くす人の頭部。

 ふと髪から覗く頭皮に生理的な嫌悪感を覚えた。


 青の鎧を纏い、周りを気にせず大きな声で話す女子高生。

 スマホを横持ちにしてアニメを見る小柄な男性。

 単語帳と睨めっこをする中学生。

 優先席に座り、安全地帯にてタブレットで描画する女性。

 資格の勉強だろうか、マーカーの引かれた教科書に齧り付く若い男性。



 そして絶望を目に湛えた同類。

 ビルから開放された陽光が彼らを照らす時、等しく顔を顰める。その明るさに喜ぶものは誰一人としていないのは、皆が一日の始まりを憂いているからかもしれない。


 電車という一つの空間には、かつての輝かしい自分とこれから歩む苦悩の道が同時に存在していた。




 もう私も社会の一部となってしまったのだ。

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