第126話 自然は良いもの!……か?!
――日本は自然が豊かだから。
ハワイに行きたいとゴネる妻と娘をなだめるために良く用いられる言い訳です。なんの解決にもなっていないところが好きポイント高いのですが、ふと思うんですよね。自然ってなんだろう。
一般的に、なんとなく人工物は悪者で、天然物は重宝されますよね。
「自然の優しさ!」みたいな。
それってなんでかな。自然って人間にとって優しいものなのかな。
僕たちは自然を、僕たち人間をどう捉えているのでしょうか。
○
電車に揺られて2時間。ガタゴトと揺れる小さな電車の窓からは都会では感じられない爽やかな風が車内に流れ込んできます。のんびり走る車窓に飛び込んでくるのは風ばかりではありません。緑に染まるあぜ道、さらさらと流れる小川、四角く映る青空。田園風景は僕を通り抜けて、麗らかな日差しに溶けていきます。
くしゅっ。向かいで若いお兄さんがくしゃみをします。花粉症かな、辛いよね、と不憫に思い、心のなかでエールを送ります。春の陽気に唯一そぐわないものは、どこか他人事でほっとする自分だけでした。
○
春の田舎は良いですよね。ぽかぽかしていて。時間がゆっくりで。
自然がいっぱいありそうで。
でも、上記の描写で出てくるものは基本的に人工物しかありません。電車、用水路、田んぼ。
自然のものは花粉くらいです。そして人に牙を向いています。
そうなんです。自然って厳しいんです。
サバンナで生き抜くガゼルは常に肉食動物の目をかいくぐり、仲間を犠牲にして個体数を保っています。砂漠のトカゲは火傷しないように手足を上げ下げするダンスを身につけました。森のナマケモノは体表に蛾や藻を住まわせ、命がけでウンコします。
そんな特集を見るたび、自然って厳しいな、って思うんですね。僕が自然に放り出されたら生きていける気がしません。せめて電気とガスと水道と電波局とスマホとパソコンとプール付きの家とamazonと徒歩2分のまいばすけっとが欲しい。
自然は厳しい。
だから、僕たちは頑張って自然を人の手で加工してきたのです。
公園に生えている木は自然ではなく、人工的に管理されたものです。自然豊かな公園には人は寄り付きません。むしろ虫や害獣をどうにかしろと役所にクレームが入るのがオチです。農産物、調味料、薬、テクノロジー。日常を支えるものは、自然と闘ってきた人間の努力の結晶でしょう。
僕たちが言う自然って、本当に自然なのかな。
自然との共生は、機嫌の悪い兄嫁へのプレゼントを一緒に選ぶくらいバランスが難しく、成功の見込みが低いものです。だから、こっそり言ってみますね。
自然は良いもの。
そうした自然信仰は行き過ぎじゃないかな。
人は今でも自然と闘っています。そうしないとやられてしまうから。
だから、僕は、スギとヒノキは燃やし尽くしたいと思っています。
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