第112話 人に興味を持ったらいいよ


「Askewって人に興味ないよね」


 こういう失礼なことをいうやつがいます。

 大体、僕の恋愛相談に乗ってくれている友人です。


「人に興味をもったらいいよ」

 そんなアドバイス紛いのことさえ言い放ちます。


 ヒトに興味がないやつがどうして恋愛相談なんかをしているんだ、と幼稚な反論をしたくなるのをぐっとこらえます。すぐに反論して対立するより、ゆっくりと大きな誤解を解かなくてはいけない。そんな使命感が湧いてきました。


 まずは。彼が言うように僕はヒトに興味がないのでしょうか。少し考えてみましょう。


 第一に、ヒトに興味がなかったら、そもそも僕は僕に興味がないということになります。一応、僕は犬でもプラナリアでもなく、ヒトであります。ヒトである自信があります。そして、エッセイでは大量に自分のことを書いてきました。つまり、ヒトのことを書いてきました。そんな人がヒトに興味がないなんてありえません。僕は興味のないことに時間を費やす性格ではないと断言できる。よって、僕はヒトに興味がある。


 第二に、僕はヒトの能力(特徴)に不思議を感じています。どうしてすぐにお腹がへるのか。どうして電車に乗ったらお腹の調子が悪くなるのか。どうして電車のなかで神というものにすがってしまうのか。このような生体的特徴から生得的認知バイアスに至るまで、ヒトは不思議に包まれています。道を歩けばプリプリしたお尻を揺らすお姉ちゃんに目を奪われ、ハグの感触にドギマギする人の心理作用に興味がある。だからこそ、もっと知りたいと思っています。つまり、僕はヒトに興味がある。


 第三に、僕はヒトの思考が好きです。地球が宇宙の中心だと疑わなかったり、肉を食べることが穢れにつながると考えていたり、科学は真理であると信じていたり……。個々の考えや信念に差異はありますが、そんなことは些末な問題です。そもそも人の考えが間違っているなんてどうして言えるのでしょうか。同様に、自分の考えが間違っているなんてどうして証明出来るのでしょうか。結局は各々が信じる公理系の中で整合をとっているだけで、基本的には人の独創的な考えの一部です。そうした様々な思考の奔流に流されてみたいと思っています。つまり、ヒトが生み出す派生的特徴に興味があるのです。


 ぱっと挙げただけでも、僕がヒトに興味がないことへの反例がスラスラと出てきます。ヒトに興味がないわけがない。僕の考えの中心はヒトと言っても良いほどです。人のエピソードとか名前はすぐ忘れてしまうけれど、どんな考えをしていたかとか、そのような考えを育んだ背景を知るのはとても好きなのです。


 やはり僕はヒトに興味がある。ヒトはまだまだ謎が多く、おおむね阿呆で、その行動は合理性を逸しているからこそ非常に魅力的です。自分という存在は好きになれないけれど、自分を含めたヒトへの興味は尽きないのです。畢竟、どうでもいいことで貴重なリソースを消費するヒトという動物が好きです。


 どうにかして、この気持ちを誤解なく伝えなくては。


 そして、落ち着いて言いました。

「僕は人に興味をもたないことはあるけど、ヒトは大好きだし、興味は尽きないよ」


 友人は眉を落として笑います。

「そういうところなんじゃない」


 僕は言います。

「そうなんだよね」


 そうして飲んだくれるヒトが好きです。

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