第107話 自分の才能が怖い


 みなさんは自分がなんの才能を持っているか自覚しているだろうか。「僕(私)にはなんの才能もない」という方も、少なくとも自己評価を的確に下せる才能はあると言えるし、未だ眠る才能を眠らせておく才能があると言っても良い。


 僕はいつも己の才能の無さを嘆いて来たが、よく考えたら才能に満ち溢れていることに気づいた。今日はそれを共有させていただきたい。


 最近、Tinderというデートアプリでマッチングした人とやりとりしていたのだが、そこでも僕の才能が大いに発揮されたのだ。TinderはPairsやWithなどの他のデートアプリよりも比較的軽い出会いが出来ることで有名だ。ぶっちゃけて言えばワンナイトでも構わない、という敷居の低さがウリでもある。


 だから「趣味は何ですか」とか「お仕事は何をされていますか」みたいなステレオタイプなお見合い的質問攻めなどは必要なく(してもいい)、いつ会えるかをすぐに聞けるのが良いところである。


 みなさんはデートアプリでは表示された相手を「いいね」を押すと思っているかもしれないが、それは間違いである。PairsやWithなどのリストから選べて、「いいね」付与に制限がある場合とは異なり、Tinderはどんな人が次に出てくるかが選べない。ランダムで近くの人がピックアップされて、LikeするかSkipするかを選ぶ。Skipすると今後表示されないため、Skipするメリットが殆どない。


 また、体感的に僕とアメリカ人女性のマッチング率は非常に低い。僕はラオス人に「ラオスに来たらモテるよ」と言わしめたほどの典型的アジア顔である。だからだと思うが、Tinderのマッチング率はあまり良くない。(「You're so handsome」と言ってくれるのは隣の部屋に住んでいる推定65歳くらいのLauraさんくらいである。場所に関わらず年上受けは良いらしい)


 この場合、最適戦略は全Likeとなる。時間効率的にもマッチングしてから考えるのが一番良いのである。


 前置きが非常に長くなったが、僕の才能はマッチングしてから発揮される。「連絡がとれなくなる」という才能だ。


 自覚しているが、僕は面白くない。女の子が喜ぶような話題を提供する事もできず、Tinderに限らずメッセージを往復できない。コミュニケーション能力は地を這う。当たり前だ。「鼻くそには他の呼び方がない」や「タラバガニはカニではない」という事実に興奮する奴と共通の話題を期待するほうがどうかしている。


 相手の話を聞こうとすると職務質問みたいになり、質問攻めをやめると会話からログアウトする。もうこれは才能としか言いようがない。


 案の定、数少ないマッチングした相手も連絡がとれなくなった。バレンタインに時間を作ってくれた女の子とも連絡がとれなくなった。この夏に告白してくれた子とも連絡がとれなくなった。もちろん全て自業自得なのであるが、踏みたくもない地雷を的確に踏んでいく所業はまさに神業と言っても良い。


 皆さん良いだろうか、才能のなさを嘆く前に自身を冷静に見つめ直してほしい。あなたにも必ず自分を褒めたくなるような才能があることに気づくはずだ。「体重を増やす才能」とか、「毎回、禁煙を成功させる才能」とか、「いらないものを買う才能」などが代表的である。


 だから、才能がないと嘆く必要はない。みんな多くの才能に溢れているのだ。そんな無駄な心配はしなくていい。才能のなさに凹んだら、一度、一歩引いてメタ的視点から自分を見つめ直してほしい。あなたは才能で溢れているのだ。自信を持ってほしい。これは僕が胸を張って言える真実である。大丈夫、僕が保証する。


 



 そして、こうしたコペルニクス的転回をしても悩みが減らないことに気づくことも才能である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る