第102話 レバニラのアイデンティティ


 先日、日本へ帰った際、姉と共に王将へと足を向けた。僕は得々セット(天津飯、唐揚げ、小ラーメンのセット)を頼み、姉は餃子とチャーハンを頼んだ。机一杯に広がった美味しそうな料理を写真に収めて、たまたまラインしていた高校時代のバスケ部のマネージャーに送り付けてやった。同い年なのにもう三児の母になろうという彼女からは感嘆と非難の声が同時に零れ、いまだに独り身である僕の身体に染み込んだ。


 そして彼女は言った。

「王将だと絶対レバニラ食べる」


 僕は反射的に返す。

「レバー苦手やから全部食べてな」

 彼女はツッコむ。

「それニラ炒め」

「ニラ炒めええやん。レバニラ炒めレバー抜きで」

「それニラ買って自分で炒めとけって話やんか」


 僕はここで少し思案した。

 あれ、ニラ炒めとレバニラ炒めレバー抜きは同じなんだっけ……?


 考えてみて欲しい。「今日はレバニラよ!」と言われ、嫌いなレバーを回避するためにUSJのチケットをちらつかせて何とかレバニラレバー抜きを勝ち取った時のことを。もしくは王将の大将に「今日はサービスでレバニラのレバー抜きにしといたよ!」と言われた時のことを。


 香り立つ甜麵醬テンメンジャンと緑一色の華やかな皿。


 食欲をそそるそれは明らかに「今日はニラ炒めよ!」と言われて出た来たものとは違うことに気付くだろう。


 お前はレバニラだが、レバーはない。じゃあお前はなんだ。ただのニラ炒めなのか。いや、違う。あり得べき姿からは逸脱した狭間のものだ。そして、不思議な感慨を生み出すものだ。これは決してニラ炒めでは起こらない。お前がレバニラだから起こり得ることだ。つまり、ニラ炒めとレバニラ炒めのレバー抜きは同じものではない。


 約二十秒で結論に至り、僕は彼女に返信をする。

「レバーを抜かれたことによるレバニラのアイデンティティの揺らぎがいいスパイスになるねん」


 そんなことを考えながら僕は唐揚げを頬張った。カラッと揚がった唐揚げの脂が口の中を満たしていった。美味しかった。


 

 

 彼女は言う。

「レバニラのアイデンティティとか○○とのラインでしか出てこないよ」


 僕がモテない理由を簡潔に表されたような気がした。


 だから、よければ皆さんの周りで誰かこの言葉を使っていたら教えて欲しい。

 きっと僕は救われるし、嬉々として彼女に報告するに違いない。



 そして、多分言われる。

「そんなことより早く彼女作りなよ」


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