第87話 初日の出とサボテンと固い志
今日はアメリカ時間で2021年1月1日。年が明けました。普段からお世話になっているヘンタイのみなさま。今年もよろしくお願いします。そうでないみなさまもヨロシクお願いします。Twitterでもカクヨムでも様々なところでお声がけ頂いて、なんだかほんわかする時間が続いた年末年始でした。
年越しは会社の単身&独身組で集まり、ささやかな年越しパーティーを行いました。すき焼きを食べ、どん兵衛を食べ、ビールとシャンパンとお酒を飲みます。そして、落ち着いてカウントダウンを迎えました。
今年は年末一人旅に出かけられなかったので、ゆったりと楽しむ年末になりましたが、そこらじゅうでキスするアメリカ人グループに囲まれない年越しとなりました。良い滑り出しです。
僕たちはキスすることもなく午前2時までだらだらと過ごし、6時半前後にいそいそとコヨーテがねぐらから起き出してくるようにリビングに集まります。そして車に乗り、近くのトレイルヘッドへ向かいました。
日の出は7時32分。30分前にトレイルヘッドに着いたとき、辺りは真っ暗です。目の前に広がるのは広大な荒野と黒々とした山々の稜線のみ。日中は20度前後の気温になるものの、さすがに早朝は1ケタ台まで気温が下がるため、久々にクローゼットから出してきたコートでもこもこと厚着をした僕たちは、真っ暗の荒野の中でそそり立つ大きなサボテンのシルエットを前にしばし佇みます。
良く晴れた1月の早朝。風は冷たく、ただ立っているだけでは手先が冷えてきます。そこで、社長が台湾で教えてもらったという健康体操を伝授していただきました。でんでん太鼓のように両手を身体に巻き付けながら、左右に身体を振る我々。黒々とそびえたつサボテンの前に3つの黒いアジア人の影が揺れていました。遠くからみたら超常現象かヘンタイだと思われたことでしょう。良い滑り出しです。
しばらく台湾式体操を続けていると、次第に空が明るくなってきます。
しかし、日の出方向には山が聳えており、日の出時間になっても太陽は顔を出しません。日の出方向から少しずれた稜線の谷部分からは太陽光線が水平よりも少し上にまっすぐ伸びているのが見えました。
「こりゃ、もう少しかかるな」
「そうですね」
僕たちは身体を回しながら言い合います
僕たちの体が温まるのと同じスピードで、黒々としていた山の影は徐々に色彩を取り戻し、彩度と明度を上げていきます。ごつごつとした山肌には無数のサボテンが現れます。小鳥たちが紺色から瑠璃色へと変わっていく空を遊ぶように飛んでいきます。朝の空気がそこに生まれてきました。
稜線の谷から漏れる光は水平から下方向へも手を伸ばし、遠くに見えるダウンタウンを朱色に照らしはじめ、朝もやが遠くできらきらと輝いています。
予想日の出時間より遅れること25分、前方に佇む大きな2本のサワロサボテンの間から顔を出した太陽は、山、サボテン、砂漠、僕たちの目、全てを朱に染めました。
ぱしゃぱしゃとスマホで写真を撮り、「昇りましたねー」「綺麗ですねー」とのんびり言葉を交わしていると、太陽はその姿を水色の空にぽっかりと浮かべて、冷えた空気を温め始めます。辺りはもうすっかり早朝から朝へと変わっていました。
そんな光景をひとしきり眺めたあと、昇った太陽にぺこりと頭を下げて、僕たちは駐車場へと踵を返しました。
〇
家に帰る途中、車の中から空を見上げると、もうすっかり太陽は山のはるか上へと昇り、山際から顔を出すのをためらっていたあの時間はなんだったんだと思うほどでした。
僕はいつもこの時に「時間は速いんだなぁ」と思います。年末に「今年は早かったなぁ」というのとは全く違う感覚の圧倒的な時間の速さです。今年が始まったぞ、という感覚とは別に「時間は速いんだな」と感じられる。
だから、僕は初日の出が好きです。
一年の始まりに時間の無慈悲な速さを感じるという一種の儀式を通過することで、僕は毎年、志を新たにします。
「今年の年越しはキスするぞ」
今年こそ頑張ります。よろしくお願いします。
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