第67話 若いから出来ること

 

 先日、ささやかな誕生日会で友人のお母さんから20代最後の年としてありがたいアドバイスをもらいました。


「若いうちは失敗すると良いの」


 話を聞くと「若い時に一人でパリに旅行に行った時、不注意でパスポートを紛失してしまい、再発行までの約1ヶ月間、バイトをしながら食いつないだのが良い経験になった」とのことです。フランス語はもちろん話せず、拙い英語で日本食屋さんで必死に接客したのが記憶に残っているそうです。


「パスポートを無くすなんて初歩的なミスをしても、若ければなんとかなる。おかげで度胸がついたし、今のうちに出来る失敗をしなきゃね」と言ってくれました。


 そのアドバイスも手伝って、失敗する前にまずはいっちょ言い訳を止めてみようと思い立ったわけです。言い訳を止めるとは、今までと反応を変えるということです。今までは無理やり合理化して受け流していたのを、言い訳せずに受け止めてみる。仮にそうすることで粉々になったとしても、まだまだ復活できる余地はありますから。夏の夜の蚊なみにしぶといですからね、僕は。


 さて、失敗するには何かに挑戦しなければなりません。出来ないことをやろうとするから失敗するわけです。この理屈を理解したとき、ドはまりしている「宝石の国」のワンシーンが浮かんできました。


 宝石の国は簡単に言うと「擬人化した宝石たちが、月から飛来する謎の敵“月人”との戦いを描く」物語です。身体は宝石から出来ているので透き通っていて鮮やか。例え矢の一撃を受けても砕け散るだけで、元の形にはめ直せば元通りという不死の存在。その丈夫さはモース硬度に従い、ダイヤ属は最高硬度十を誇り、戦いも一流。


 ですが、主人公のフォスフォフィライトは三半のおちこぼれ。たった三百年しか生きていないフォスはいつも生意気な言い訳を駆使しながら、自分の価値を探しています。


 そんなフォスが、同じ低硬度のアンタークチサイトと話す一篇が静かで、強烈。

 



 アンターク「低硬度から勇気を取ったらなにもない」


 フォス「できることしかできないよ」


 アンターク「できることしかやらないからだ」


 フォス「できることならせいいっぱいやるよ」


 アンターク「できることしかできないままだな」




 (無言)





 この。この痛烈なシーンが迫ります。

 自分の価値を確かめるために踏み出したフォス。僕もなにか出来るでしょうか。うじうじしてしまう時はこのシーンが背中を押してくれます。がぜん、やる気が出てきました。







 では、何をしましょうか。







 (無言)





 



 よし。

 まずは、挑戦することを見つけるのに失敗しました。失敗を重ねる1年の第一歩です。












 【2013年】市川春子最新作、『宝石の国』1巻発売記念フルアニメーションPV

 https://www.youtube.com/watch?v=3pzIQ54cwiA


 1分半の短い動画ですが、世界観が素晴らしいので、お時間があればどうぞ。

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