第54話 イヴの時間 ――「人間ではありません」と言うロボット



 未来、たぶん日本。

 ロボットが実用化されて久しく、

 人間型ロボットが実用化されて間もない時代。




○Story (スタジオ六花 公式サイトより引用)

 ロボット倫理委員会の影響で、人々はそれを“家電”として扱うことが社会常識となっていた。頭上にあるリング以外は人間とまったく変わらない外見に影響され、必要以上にアンドロイドに入れ込む人々は“ドリ系”と呼ばれ社会問題とされるほどである。


 高校生のリクオも幼少の頃からの教育によってアンドロイドを人間視することはなく、便利な道具として利用していた。ある時リクオは、自家用アンドロイドのサミィの行動記憶の中に奇妙な言葉が含まれている事に気づく。


 親友のマサキとともにサミィの足跡をたどると、そこには「人間とロボットを区別しない」というルールを掲げた奇妙な店が広がっていた…。


 イヴの時間 act01:AKIKO (公式動画)

 https://www.nicovideo.jp/watch/ca6667803


 ○


 今日は短編アニメーション作品から「イヴの時間」にお邪魔しましょうか。これはたまたまネット上の無料公開を見かけたのですが、その内容に思わず唸って、漫画までそろえてしまった作品です。良ければ、どうぞ第1話だけでも見て下さい。1話だけでも感情が揺れ動くと思いますよ。


 この作品で僕が感じ入ったことは一つ。


「人間とは何か」


 これがキモです。この作品に出てくるアンドロイドは人間と見分けがつきません。ただし、機械ロボット機械ロボットらしく、普段は機械的な問答を繰り返すのですが、怪しいカフェ「イヴの時間」ではアンドロイドは発言、行動、思考に至るまで全く人間と区別がつかない姿を見せるのです。そして、主人公含めてそれを見る者は人間とロボットの間で揺れ動くのです。


 僕もこの作品を見ながら「僕たちは特別だ」といった人間至上主義があやふやになってきました。例えば「こんなに賢いのは人間だけだ」という主張は、その演算すらブラックボックスとなり、囲碁やチェスでは人間が太刀打ちできない現代のAIをもって打ち砕かれますね。そして、アニメを見ているうちに次々と主張と疑問が浮かんで、自問自答を繰り返していきます。


 ロボットは生物ではない。

 ロボットが自己生成出来たら? そして生成後の機能にゆらぎが含まれて自然淘汰が発生するとしたら? そもそもアウトプットは全く区別が出来ないのに、ただ体組成が有機物か無機物かでアウトプットの意味合いが変わるのか? 生物であることの優位性はあるのか?


 ロボットには心が無い。

 心とはなんでしょう? アンドロイドも痛がるし、泣くし、怒って、笑う。それはただの反応なのか? 人間の反射と反応との違いはなにか? 生物にしか心は宿らないというのならば、それはなぜ? 何に宿るのか? まず、僕以外の人間に心があるという根拠は?


 ロボットには創造性がない。

 人間の創造性とは? 人間の創造性も結局、経験から作られるものではないのか? 何の経験もない人(文字通り、真っ白な何もない部屋であらゆる経験をはく奪されて育った人)が創造性を発揮できるのか? 出来ないならば、ロボットの(機械)学習と人間の学習とに違いがあるのか?


 画面の向こうでテンポの速い軽快な高校生のやりとりが交わされる一方、僕の頭の中はどんどん渋滞していきます。


 もちろん、この作品ではそんな問いに対する答えはどうでもよくて、ただ主人公のリクオとアンドロイドのサミィ(また親友のマサキとテックス)がハッピーになればそれで良いのです。作品自体は短編集(15分~25分)で、明るくて、笑いどころも多いので警戒しないでくださいね。そんな小難しい話じゃないです。むしろ、めちゃくちゃ取っつきやすい。


 ただイヴの時間は単にストーリーを追わせるだけでなく、そこに深く横たわっている壮大なテーマを考えさせるところが素晴らしい。この作品が好きな理由は、僕の人間観に影響を与えているからですね。

「人間って結局、動物の一種だし、ゾウやサンマやクラゲやキノコと(価値としては)何ら変わりないんだなぁ」と思えたのです。ロボットはロボットで(人間やその他と同じで)良いじゃん。と思えました。


 だから、僕は確実に人間と見分けがつかないアンドロイドが出来たらドリ系(アンドロイドをモノと見なさない人)になります。人間なんて有機物のかたまりが電気信号で動いているだけじゃないですか。ロボットも無機物のかたまりが電気信号で動いているだけじゃないですか。そこになんの優位性があるっていうんだ! ほぼ一緒!!


 今でさえ、頭の悪いロボット掃除機が同じところをぐるぐる回りながら頑張って掃除してくれているのを「可愛い」と思うんですから、人間と見分けがつかないようになったらどうなるか容易に想像できますね。


 あぁ、ドリ系最高!!

 壮大なテーマから出発し、頭の悪そうな着地となりましたが、僕のおつむなんてそんなものです。ロボットの方が生産的かもしれません。少なくとも掃除をしない僕よりも役に立っています。どちらも、それはそれで良いことじゃないですか、ね。

 みなさんも一度、人型ロボットと共生する社会を思い浮かべてみて下さい。その時、みなさんはどんな反応をするでしょうか。倫理委員会のようにロボットを排除しようとするでしょうか。存在は認めながらも便利なモノとして線引きをするでしょうか。それとも……。


 僕の足にガシガシぶつかりながら絨毯のホコリとすね毛を吸ってくれる掃除機が少しこそばゆいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る