第47話 奇跡は起こすんじゃねぇ。勝手に起こるんだ。


 最近読んだ本でめちゃくちゃ面白いものがあったので、感動そのままに紹介します。


「完全教祖マニュアル」

 ちくま新書 架神 恭介/辰巳 一世 著 2009


 一言で言うと「教祖になるための解説書」です。「教祖のためのマンキュー経済」と言っても「はじめてでもわかる教祖入門」と言ってもいいでしょう。タイトルですでに簡潔に示しているので、僕が一言で言う必要がありませんでしたね。あぁ、無駄な文字を使った。


「え、宗教って怪しくない?」

「新書って硬くて読みにくそう」

「宗教に興味ないし」

 と思われたそこのあなた。そうなんです。僕もそうでした。僕は「楽しければいい」を基本にする無宗教者です。言い換えれば、サンクスギビングだろうが、イド・アル・フィトルだろうが何でもいいから休みが増えればハッピーなタイプです。見るからに宗教なんていらなそうですね。


 しかし、kindleにオススメされて出てきたこの本との出会いがきっかけで、僕にも奇跡が起きるんじゃないかと強く信じるようになりました。ここまで鳴かず飛ばずだった人生を歩んできましたが、明るい未来が拓けたようです。


 このマニュアルは、くだけた柔らかい文体で書かれており、小難しい哲学書のように何を言っているのかわからなくなることはありません。時にはユーモアたっぷりの言い回しで読者を楽しませます。読む人を退屈させないように細かくコラムを挟み、本筋だけでなく横道も豊富。路地裏探索が好きな方にはたまらない一冊となるでしょう。


 今日はひとつだけこの素晴らしいマニュアルに書いてある秘訣の一つをお伝えします。この本を読んで「そうだったのか!」と目から鱗が落ちた部分です。あまりにも鱗が落ちすぎて彼女に「ここでヘビ捌いたのだれ~?」と言われちゃいました。(余談ですが、この本のおかげで彼女と出会えました) そんなエピソードが出来るくらい沢山のものごとが見えるようになったということですね。そもそも「目から鱗が落ちる」という言葉は聖書からの引用なのであたりまえですね。ほら、こんな風に。


 さて、それでは満を持してご紹介しましょう。


 教祖になるテクニック――奇跡を起こそう


 以下、引用(※1)です。

 ―――――

 大勢力となった新興宗教のトップの座に立ち、多くの人々から崇められるあなた。しかし、何かが違う。かつて想像していたような伝説的教祖とは何か違う。何か足りない。あなたはきっとそのように感じていることでしょう。そう、あなたに足りないもの、それは「奇跡」です。


 (略)

 

 では、どうすれば悠然と奇跡を起こせるのでしょうか。もっとも簡単なやり方を紹介しましょう。それは何もしないことです。というのも、奇跡はあくせく頑張って起こすものではなく、あなたの弟子たちによって起こしてもらうものだからです。

 一例を挙げましょう。伝説によれば釈迦は空を飛んでスリランカに旅行していたと言います。しかし、仏教というのはあれで極めて論理的な宗教ですから、釈迦がどれほどの聖人であっても、仏教の教義からすれば空は飛べないはずです。


 (略)


 後発の仏教国であるスリランカとしては、他の仏教国に対して、「うちにもお釈迦様はちょくちょく来てたんだからね!」と張り合いたくもなったわけです。しかし、当時の交通事情を考えると、釈迦がちょくちょくスリランカに来たというのも無理のある話です。じゃあ、仕方ないですよね。ここはいっちょ釈迦に飛んでもらうしかありません。こうして釈迦は晴れて空中飛行の能力を手に入れ、空をビュンビュン飛んでスリランカへ行けるようになったわけです。

 ―――――


 いかがでしょうか。今までみなさんは、奇跡は「起こすもの」だと誤解していませんでしたか?「奇跡は起きるんじゃねぇ、起こすものだ」みたいな格言に惑わされていたのですね。

 しかし、見て下さい。釈迦に限らずあらゆる偉大な人たちは、(もちろん奇跡を起こしていたこともあるでしょうが)、いくつかはその大いなる有徳うとくによって後発的に奇跡となった場合もあるものです。釈迦に至っては「うっかり空を飛んじゃってー」というお茶目な一面もありますからね。「あれ、僕なんかしちゃいました?」みたいな現代でも通じる徳の高さですね。


 多くの人々の心の支えになっている偉人ですらそうなのですから、釈迦やキリストと同じく高い徳をお持ちで、更にそれを分けてあげられるあなたも同じマインドを持つと良いでしょう。


「奇跡は起こすんじゃねぇ。勝手に起こるんだ」

 しかと胸に刻み、周りの人々をハッピーにしましょう。


 さて、今回は特別にもう一つだけ、感動した部分を抜き出してみます。出血大サービスですが、ぜひともこれは紹介させてもらいたかった。実際、僕はこの文章で今迄の概念を叩き割られ、背中を押されました。神棚に飾って毎日拝みたいくらいの金言です。もし釈迦の飛行術に興味がなくともこれだけは覚えて帰って下さいね。


 ―――――

 早く童貞を捨てたい高校生のように「奇跡! 奇跡!」と喚きたてる必要などないのです。「童貞など、ふさわしい時が来ればいつでも捨てられる」くらいの気持ちで悠然と構えていて下さい。大丈夫です。きっとふさわしい時になれば奇跡は起こせます。

 ―――――

 

 なんと心強いお言葉でしょうか。童貞界のパイオニアとして、世界を切り拓くやりがいを感じて生きてきました。ですが、同時に先の見えない不安と日々闘っていたのも事実。しかし、そんなものは杞憂だったのですね。ふさわしい時が来るのを待つだけで良かったんです。


 遠い将来、僕が宇宙を股に掛ける作家になってからしばらくすると「俺(私)はAskewアスキューの子孫だ」という可愛い後輩たちがたくさん出てくるでしょう。その時でさえ「Askewは生涯チェリーだった(仮)」という事実は何の意味も持たないのです。


「Askewは童貞ではありましたが、子供を産めたんです。真に無垢である彼の文章や身体に触っただけで多くの人が妊娠したからです」

 このように口伝され、晴れて僕は童貞(という概念)を卒業できるというわけです。まさに奇跡ですね。僕はその奇跡が起きるのをのんびりと寝て待っていようと思います。


 ○


「奇跡は弟子が起こすって……。そもそも崇められていないんだけど」と不安になった方も大丈夫です。このマニュアルでは、宗教を始める方法、教義を深める方法、信者を獲得する方法、教義を広める方法、全て一から丁寧に解説しています。だからこその「完全マニュアル」なのです。もし少しでも「面白い」と思って頂けたのであれば、Kindleに豊富に用意してございますので、是非お手に取ってみてください。


 あなたの人生はあなたで変える。


 あなたも楽しいハッピーライフを手に入れてみませんか?

 





 ※1 引用文献

 完全教祖マニュアル

 ちくま新書 架神 恭介/辰巳 一世 著 2009

 214頁~218頁 より

 https://www.amazon.co.jp/dp/B01IT5TZBM/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

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