第45話 生き急げ、若者よ


 コロナの影響で趣味が増えました。


 ランニング、散歩と共に外出制限下でも認められていたスポーツだったので、ゴルフを本格的に始めました。運動不足解消のため、筋トレもしています。また、レストランも閉まっているので簡単な料理も始めました。更に、思い切ってYAMAHAのサイレントギター(※1)を購入しました。英語の勉強は変わらず続けています。


 こうして趣味が増えた結果、カクヨムする時間が削られています。エッセイの他に新作も1万文字くらいは書いていますが、以前より読めないし、書けない。これが最近の悩みです。


 ゴルフで週末どちらかの半分はつぶれますし、練習時間も確保しなければいけません。外出制限が解除され始めたので、コンドミニアムのジムで懸垂をするようになり、テニスも再開しました。ギターは毎日1時間から2時間ほど練習しています。弾けるようになるのが楽しいのはもちろん、上手くなった時に女性の見る目が変わる瞬間を妄想するだけで練習が捗ります。


 全ての道はモテたいに通ず。


 口を酸っぱくして言っていますが、何かに打ち込むのはモテたいからです。

 英語が喋れたらカッコいいという理由だけでバイト代をはたいて1ヶ月オーストラリアに遊びに行く。ちっこいくせに太ってたら印象最悪だと奮起して、ご飯を減らし、スポーツをして、誰にも見られない腹を割る。大人の男性を演出するために飲み屋を渡り歩き、見知らぬおっさんと仲良くなる。清潔感というひどく曖昧としたものを掴むために七三ツーブロックにして、身だしなみ(鼻毛)には気を使う。


 結果として「空回る童貞」の名をほしいままにしているわけですが、なんだかんだ全部が楽しいので幸せなのですよ。認めてくれる友人もたくさんいますからね。恋人が未だかつて現れないだけで……。

 コイビトというキャラは伝説のポケモンどころじゃない出現率なので、もはやバグなのではないかと疑い始めました。「シオンタウンの姓名判断前にセレクトボタン押しっぱなしにするぞ!」と喚いても初代ポケモン世代以外には通じなくなっているので、やはり何も変わりません。今の子供はあの楽しさを知らないのかしら。


 ともかく、今、僕は幸せなのですが、どうしても時間が足りない。

 毎日1時間ディクテーションすれば英語に慣れてくる。毎日1時間執筆すれば10日で新作が草稿出来る。毎日1時間料理をすれば鶏への愛情が倍増する。毎日1時間ゴルフをすればリッチなおじさまの気持ちが分かる。毎日1時間テニスをすれば錦織君への尊敬がつのる。毎日1時間筋トレをすれば炎上をもみ消す握力が手に入る。毎日1時間読書すれば教祖への道が拓ける……。


 そんなことは分かっているのですが、僕には仕事終わりに諸々合わせて10時間も持てないわけです。仮にあったとしてもダラダラするので、やはり時間が足りません。日々取捨選択を迫られ、泣く泣くモテ男への最短経路を突っ切れずに道草を食って腹を下しているのですね。


 トイレにこもって考えました。大人になればなるほど、(自由にお金を使えるので)何かを始めることのハードルは低くなります。しかし、それに反して使える時間は減ってくる。お金と時間のトレードオフは多くの人を悩ませる問題なのですが、20代後半になってから顕著にそれを感じます。


「20代ならまだまだ時間がある」って? まったくスカポンタンですか! もうすでに僕には時間は残されていないのです! 生き急がねばもうじき死んでしまうのです!!


 遠い将来、愛すべき妻と犬とフェレットとモルモットとトカゲと宇宙人と、その他もろもろの横でギターをかき鳴らしてチェットベイカーのように朗々と歌い、ふと散歩に行けば凝り固まった思考と世の中のいさかいを持ち前の握力で握りつぶして、近くのテニスコートで「あのじじい、スピンのキレがナダル並み」と噂になりながら、信者を集めて変態道を説き、その裏で人々の心を打つ本を出版するおじいさんにならねばならないのです!


 今の僕にはあまりにも伸びしろが多すぎる。


 理想に近づくための努力が足りない!

 モテるための魅力が足りない!

 この世を生きる時間が足りない!!



 

 生き急げ、20代。









 ※1 ヤマハ サイレントギターHP こんな風に弾けたら楽しいでしょうね。

https://jp.yamaha.com/products/musical_instruments/guitars_basses/silent_guitar/slg200_series/index.html

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る