第43話 男の子の日


 女性は毎月のものがあって大変だと思います。こたえる人は相当につらいと聞きます。男性はその経験がないのでつらさを想像するしかないのですが、やはり経験がないので分かりません。出来る事と言えば「後は任せて」と上辺の言葉を掛けるくらいです。実際、どう向き合っていいのかが分からないので、大目に見て頂きたいというのが本音です。


 もちろん、逆もあります。これは公然と認められていないのですが、いわゆる「男の子の日」です。「知らない」という方はこれを機に知って下さいね。理解しがたいのは分かるので、僕たちも大目に見ます。持ちつ持たれつで行きましょう、というのが今回の主旨です。


 このところ例のウイルスが世間を騒がしており、各州が外出制限令を出して自粛を求めたわけですが、その影響もあって「その日」はやってきました。

 朝から何だか体調がすぐれない。睡眠もしっかりとって体力は十分にあるのに、なんだか身体とテンションがおかしい。僕はこの時点で確信しました。そうか。今日は男の子の日か、と。


 男の子の日は周期的なものではありません。人によっては全然来ない人もいますし、頻繁に悩まされる人もいます。このところは発作も無く安心していたのですが、外出制限というストレスでやってきてしまったようです。

 

 昼食を買いに行った車の中で先輩が悩みを聞いてくれました。

「最近、なにしてる?」

「それが、何もしてなくて。だから、体調が悪いんですよね」

「あぁ、そういう日ね」

「はい。男の子の日なんですよ」

「あるよなー。俺も昔はよくあったから分かるわー」

 優しい先輩は体調を心配してくれました。個人差はあるものの、こうして共感してくれるだけで楽になりますね。


 これは簡単に言うと「元気があり余り過ぎて、身体のどこかに不調をきたす」という現象です。主に若い世代で発生することが多く、みぞおちが痛くなったり、左乳首にだけしこりができたり、意味もなくシャドーボクシングしてみたり、女性にモテる想像にふけったり、お尻を叩き始めたり、一人旅に出たり、居酒屋のカウンターに座ったりと症状は様々です。しかし、主にやられるのは頭です。


 生産性が全く見いだせないことに打ち込み始めるときは大体「男の子の日」と思って良いでしょう。「なにがそんなに楽しいの」と聞いてもしょうがありません。そういうものなのです。


 頭がやられているので論理的な説得は意味をなしませんし、そもそも自分でコントロールできるようなものではないので、じっと耐える以外に方法がないのがつらいところです。僕たちだって分かっているんです。好きで乳首にしこりをつくっているわけじゃない。好んで女性を遠巻きから見ているわけじゃない。でも、そうなってしまうんだから成す術がないのです。


 男女はお互いの性差を経験すること出来ませんが、そのつらさを分かったふりをすることはできる。だからですね、女性の方も男性のつらさを分かったふりをしてください。


「わかるわかる。デンプシーロールって魅力あるよね」

「あんまりお尻を叩くと身体によくないよ」

「生まれ変わったらハーレムも夢じゃないって」

「情けなくったって、それはそれで味が出る可能性も紙一重で奇跡的に万に一つもあるかもしれないじゃん」

 そんな寄り添う姿勢を見せてくれるだけで良いんです。


 僕たちも人間なので「うるさい!」とか「外でやれ!」とか「馬鹿じゃないの?」という言葉は傷つきます。逆に、皆さんがつらいときに男性がそんな言葉を掛けたらどうでしょうか? 一発で喧嘩の原因になりますよね。僕たちだってつらいんです。優しくしてください。


 男どもが意味の分からないことを言い始めるとき、それは大抵「男の子の日」です。生理的なものなのです。そういう事実を知るだけで、この世はもっと優しい世界になるのだと僕は信じています。


 この文章も「男の子の日」に書いています。

 そういうものなのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る