Hentai、迷子になる

第41話 ほんとうに大切なことは忘れない(という残酷な真実)


 ここのところ創作論などに挑戦していたので、以前にどんなことを書いていたか忘れてしまった。今、なにを書けば良いのか分からず呆然としている。


 そして、ふと思い至った。

 思い出せないのであれば、大したことではないのだ――と。


 生物というものは非常に巧妙に出来ている。一見、意味がないどころか、不利になるような振る舞いもよくよく考えてみると生きていくうえで必要なことだったりする。「忘却」という能力もその一つだ。


 ヒトの脳の容量は150TBテラバイトだとか(※1)、1PBペタバイトとか(※2)諸説あるが、いずれも限界があることには変わりはないし、忘れることがなければヒトは壊れてしまう。また、ヒトの記憶はパソコンのデータのように容量が異なっても同種類のファイルとして等間隔に並べられるものではなく、その必要に応じて重みづけがされ、よく使うもの(容量が大きいもの)はより引き出しやすくなっている。その整理のためには「忘れる」という能力は必要不可欠なのである。


 つまり、そもそも「大切なことは忘れない」ということだ。忘れてしまうようなことは、脳が「あんまり要らんな、これ」と判断しているのだ。


 だから、結婚記念日を忘れているのに好きな女優やアイドルの誕生日を覚えているのは、残念ながらそちらの方が大切だと思っているのだ。「そんなことはない!」と抗議したとしても、この取捨選択は無意識に行われるため、あなたが知る由はない。あなたの脳の重みづけの度合いは、あるものごとを覚えているかどうかに頼るしかないのであり、何かを忘れているのであれば粘り強い抗議にもなんの説得力もない。


 しかし、世の中の女性は安心して欲しい。結婚記念日を忘れるような男性でも、結婚記念日を忘れてはいけない、ということは覚えている。だから、世界中の男たちはこぞって携帯のカレンダーアプリに結婚記念日を登録する。一か月前から毎日アラームを鳴らし、愛すべき妻やパートナーのために着々と準備を進め、結婚記念日を忘れていた、ということをひた隠しにしようと努力を怠らないのである。


 私も先日、オンライン飲み会で朝五時半から十時ごろまで時間とキャパシティを忘れて飲み続けた。結果として便器とお友達になり、昼からの予定には大遅刻していくという失態を晒したが、一緒に飲んだ可愛い先輩・友人たちの顔は覚えている。つまり、私にとっては、時間という概念やアセトアルデヒドの分解能などよりも女性が大切だということだ。但し、大切なのは女性そのものであって、記念日を忘れないと言うことではない。


 とにかく、ほんとうに大切なことは忘れない。これは紛れもない真実である。








 ※1 ヒトの脳の容量は150TBもあるらしい―ログミーBiz (2019/12/14 )

 https://logmi.jp/business/articles/322285


 ※2 人間の脳は考えられていたよりも10倍(1ぺタバイト)記憶できることが判明!―exciteニュース (2016/1/31)

 https://www.excite.co.jp/news/article/Tocana_201601_post_8711/

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