Hentaiはカクヨムを語りたい

第31話 役に立たない宣伝の方法


 21話からはシリアスな話題ばかり提供してきたので、皆さん胃もたれ気味ではないでしょうか。チーズたっぷりオニオンスープの後にどかんと置かれるステーキじゃないんだからね……。思いもよらず重いものばかりで辟易されたとは思いますが、一種の文化だと思って自分を騙して下さい。全て付き合って頂いた方はありがとうございます。


 さて、本日からは少し趣向を変えて物書きらしく「書く」こと「読む」ことにまつわる話題を取り上げていきたいと思います。


 ○


 今日は「宣伝」について。


 物書きならば読まれたい、精魂込めて書いた作品のミソを感じて欲しい、そんな欲望は誰しもが持っていると思います。

 ただし、今は世界中がつながる時代。日本だけでも一日200冊以上の出版物が発行され、プロの文章が洪水を起こしているうえ、数百、数千億もの文字がSNSで毎日行き交っています。そんな世の中だと、小林幸子並みに神々しく光る文章でない限りはすぐに埋もれてしまいます。同じことを書いている人もおそらくいるでしょう。だからこそ宣伝は大切なのです。


 今日は、この絶望的な状況の中で頑張る皆さんのために、すぐに使える宣伝文句の考え方をお伝えしたいと思います。例に漏れず知った所で役には立ちませんが、皆さんの時間を浪費するお役に立てればと思っています。


 ○


 まず、何のために宣伝をするのか。その目的を間違えてはいけません。


「作品を読んで貰うため」

「PVを増やして、リワードを稼ぐため」

「書籍化という夢の実現のため」


 こんな目的の場合、もう一度熟考してみましょう。個人的にこれらは全て二の次とすべきもので、本質ではありません。そうではないでしょう。書くことはあなたのためかもしれませんが、読むことはあなたのためではないのです。


 宣伝をする最大の目的は

「何かを伝える(与える)ため」

 です。


 作品が持つをより多くの人に伝えることを助けるため。そのために宣伝が必要なのです。の例を挙げると、得も言われぬ興奮、凍り付くような恐怖、救心が必要かと思うほどの不安と動悸、溶けだしそうな恍惚、ねずみ色の人生を振り返った時の後悔と羨望、体育会の助っ人が室伏選手だった時の安堵などなど……。

 

 文字を通して実現されるべきは、作者の夢でも作者への尊敬でもなく、読者の快であれば良いと思います。自分の為ではありません。この文章も僕の時間を無駄にするためではなく、を無駄にするために書いています。そして、もっと多くの人に楽しく時間を無駄にして欲しい。そのために僕は作品を宣伝します。


 目的をはき違えないこと。これは宣伝時はもとより、執筆時も常々意識していたほうが良いことではないでしょうか。 


 では、結果として無駄になった時間についてどう責任をとるのか。

 これについては黙秘権を行使します。理由なんてない!


 ○


 心構えの部分が長くなりましたが、テクニカルな方法論に移りましょう。


 まず、もっとも大切なのは「嘘をつかない」こと。

 そりゃ「角川から出版決定!」とか「芥川先生のお墨付き!」などの謳い文句は魅力的ですよ。それなら読んでみようかな、と思わせることが出来ます。ですが、実力の伴わない壮大な虚飾は毒ですよ。全ての作品を読んで欲しいと願うのであれば、嘘の広告は最大の悪手です。「裏切られた」という不快感を抱いた人はリピーターには絶対になりませんから。


 ただ、解釈の違いはあります。ピュアピュアな恋愛ものと謳っていて、その実、肉体関係が入り混じる男女の愛憎ドラマだったとしても、登場人物の精神は真に純粋なのだ、と信じているのであれば、ピュアな恋愛ものと胸を張っても間違いではないと思います(純粋さの表現は必須として)。肉体関係があるという客観的な事実について嘘を吐いてはいけませんが、自分の思考を曲げる必要はないと思います。


 言い方を変えれば、たまたまテーマが被ったからって「異世界転生です」と言う必要もありません。門の上で追い剥ぎをする物語だからと言って「パロディです」と言う必要もありません。おっぱいを胸と言い換える理由もありません。お尻を臀部と表現する必然性も見られません。そんなことをすると逆にあなたの内面が変な形で漏れ出してきますよ。いくら塞いでも車内に漂うシュウマイ弁当の匂いの如く、どうあがいても文章からは内面性が匂い立ってしまうものなので、この際はっきりと言いたい形にしましょう。


 一番のポイントは、言いたいことに嘘を吐かない――ここに尽きるのではないでしょうか。但し、これは開き直りではありません。おっぱいを連呼してドヤ顔はやめましょう。


 ○


 とはいえ、それだけで読んで貰える訳がありません。三大欲求と体系化されるように人の欲望はある程度共通するものなので、同じことを表現したがる(例:お尻を愛でる)人はごまんといる訳です。ですから他の作品と一線を画すために装飾をする必要があります。盛り付け一つで違った料理に見えるように、言葉尻一つで偉人が変人になるように、本質が同じであっても上手く装飾することで印象が変わります。上手く使えば武器になるでしょう。


 では、(やっと!)具体的な宣伝文の例を挙げてみましょう。


 あのエジソンですら頭を抱える文章

 あなたはあなた。わたしはわたし。

 午後の一眠りにどうぞ

 ほのかな柑橘系の香りが欲しくなるエッセイ

 この10年で最高の出来

 お尻を出した奴。お前が一等賞トップガンだ。

 ひとさじの後悔を、きみに


 いかがでしょうか。このエッセイの宣伝文句を意識して書いてみました。伝えたい気持ちを込めて真実を書く。これが出来ていますね。

 ふたつめの「あなたはあなた。わたしはわたし。」なんて当たり前のことを文字にしただけです。類似の表現として「このエッセイは、エッセイである」とかもあります。真実なのですが、却ってそれが人々に違和感を与えますね。そして読後に「当たり前のことばかりで、何の役にも立たねぇじゃねえか」と憤ったあとに、宣伝文に込めた真意に気付いて貰えたら僕はニヤリとします。

 宣伝は丁寧な説明じゃないんですよね。全て説明しようとすると押し付けがましくなってしまうので、興味を引きながら説明不足をあえて残し、読んだら意味が良く分かるというのがちょうどよい具合です。


 ここでは短いフレーズを念頭に置きましたが、これはインタビューでも使えるようにというささやかな配慮です。


「今作品の特徴は?」

「あのエジソンですら頭を抱える(支離滅裂な)文章ですね」

 ※()内はインタビュー後の校正で追記


「今回が処女作となりますが、手応えはいかがでしょうか?」

「この10年で最高の出来だと自負しています」


「どんな人に読んで貰いたいですか?」

「睡眠不足に悩む方の支えになればと思います」


 このように万能に対応できるという訳です。

 

 友人に「エッセイを書いてるんだって?」と聞かれたときも「うん、そうなんだ。十万人にも読まれてないけどね」と言っておけばありもしない威光が灯る可能性がありますし、内容がないと非難されたときも「未だかつてない作品を目指したんだ」と熱意をアピールしましょう。


 繰り返しますが、決して嘘は吐かない。それが重要です。


 ○


 宣伝とは、SNSなどで露出を多くするだけではありません。宣伝にも表現が必要です。そして、その表現は何の為にするのかを理解する必要があります。


 嘘を吐かず、素直に表現する。

 説明の中に穴をあけておく。

 これが宣伝に必要な最低限の要素です。


 ここまでで少しでも皆さんの時間を浪費出来ていれば幸いです。(これも素直な表現の一種です)


 最後に、宣伝がてら一つの真実を書いて終わりましょう。

 僕は宣伝における真に表現群を発見したが、全てを記すには余白が狭すぎる。


 

 それでは。

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