Hentaiは触手を伸ばしている
第11話 密かな誇り
去年の今頃。シンプルでスタイリッシュな青基調のUIに惹かれて衝動的に登録したカクヨム。早一年となります。
年間に2~3冊小説を読めば良い方、という寡読の道を突き進んできた小生。よもや文字を書くなんてジャイアント馬場が漫画喫茶で手足を伸ばすくらい不可能だと考えていましたが、拙文ながら書けたことに驚いています。
創作が初めてなので創作論など絞っても出ず、小説イロハを読むために仮名を覚える所から始めたようなもの。僕が文字に出来るのは日頃の感想だけ、つまり、エッセイしか道は残されていませんでした。
しかし、エッセイも読んだことがありません。どんなエッセイが面白いのか、何を書けばいいのか、そもそもエッセイとは……。良く分からないまま暗中を徘徊して、光り輝く作品を見つけたら飛びついて同化を試みる。まさに卑小なチョウチンアンコウのオスの如き放浪をしました。
しかし、アンコウのようにメスの一部には成り切れず、噛み応えのある秀作に歯が欠けつつ、再び暗い深海の中を漂っていきます。訳も分からない場所で、覚束ない方向へ進む。なんと怖いものでしょうか。
そんな時、ふと、視界の一角に光が浮かびます。くらげです。広大な闇の中で一本の電飾がほのかなグラデーションを放って漂っているようです。上下も分からなくなるほど、重くのしかかる暗闇の中。あまりに儚げな一筋の灯光。
それでも、行き先を照らすには十分すぎる明かりでした。再び、その光が見たくて。もう一度、照らして欲しくて。広い海の底へこれでもかというほど言葉を投げました。
たまに光る触手を求めて夢中で文字を発します。手当たり次第に言葉を投げかけていると、いつしか、反応してくれる発光体も増えていました。
水圧が一気に上がって息が出来ず、身動きがとれなくなるような時もありました。それでも、仄かに波打つ光の筋は変わらずそこにあり、ふわふわと揺らめく瞬きが包んでくれました。だから、僕は水圧につぶされず、言葉を綴っていけました。
今、振り返ってみると実に様々な生物達が道を照らしてくれているのです。送り出してきたとりとめのない思いは、10,000もの電飾にきらきらと装飾されています。それらには時間的優劣がありません。つまり、初めに発した言葉だけが輝くだとか、特定の言葉だけ異常に光るなんてことはなく、ほぼ等しく残光を帯びています。
同じ光が残っている訳ではないでしょう。初めに照らしてくれたくらげがいなくなったとしても、最後には別の触手が伸びている。ある発光プランクトンは、好みの言葉だけ選んで光跡を浮かべる。
そうして、異色の光で構成されながらも、全体的に均一な光量となっているのです。
僕はその光景に見蕩れながら、密かに誇りを持っています。全力でくだらないことを放てば、響く所には変わりなく響くものだ、と。
もちろん、これは暗闇の中で光を返してくれる相手ありきのことです。僕が眩い光を放っている訳でも、エコーを使って声を遠くに響かせている訳でもありません。自分の存在を示す能力が欠如していますから、声はわずかにしか届いていません。幸運にも、周りにたまたま漂っていた生物がいただけです。
だからこそ、そんな通りすがりの生物が光を残したくなるように。
せめて、全力で、声を発していきたいと思います。
P.S.
旧エッセイ「とりとめのない思いの随に」が10,000PVを突破しました。完結から約4ヶ月。更新がないのに毎日どなたかが読んでくれていて、地道にPVを伸ばしていきました。結果完結時より1,200PVも増えていて、もう言葉になりません。
本当に、ありがとうございます。
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