第8話 その人の恋愛観を掬い取れる質問



 前回は僕の迷える魂を感じて頂けたでしょうか。

 彼女の存在というものはかなり不確定な気がするのです。そう考えると、デートというものも、良く分からなくなってくるのです。


 量子力学では、粒子は観測されるまで重ね合わせの状態である、と理解されます。それと同様にデートも観測されるまで、これはデートなのか、デートではないのか断定出来ない重ね合わせの状態なのではないでしょうか。


 んなわけがありません。

 しっかりと辞書にも書かれています。

「男女が前もって時間や場所を打ち合わせて、会うこと」(大辞林)


 なーんだ、簡単じゃあないか。解決、解決。

 と、お思いのあなた。


 ちょっと待ってください。

 デートの要件ってこれだけなのか……?


「え、それだとわざわざ日程を合わせて、アメリカまで来て頂いたあの取引先の女性とも実はデートだった……?」

 なんて衝撃の事実に喜びの舞を踏む哀れな男が爆誕しますよ。目も当てられません。なぜかウ〇コをし終わった後にこちらを満足そうに見てくる犬でも目をそらしますよ。


 ちょっと定義が広すぎますよね。男女が会えばいいなんて友達でもやるのに、全てデートと言うことになってしまいます。


 そこを考慮した釈もありました。

「恋い慕う相手と日時を定めて会うこと」(大辞泉)


 これはしっくりくる気がしませんか?


 でも、この定義を採用すると哀しいことに僕はデートをしたことが無いのです。


 大辞泉によると、デートは気になっている人と行くもの。男女が出かけるだけではデートとは言えないのですよね。東京にいた時、友達とディズニー&シーに行きました。性別としては異性だったのですが、僕はとてもこれがデートだとは思えませんでした。もちろん、楽しかったですよ。でも、あくまで男女の友達という感覚。とても「恋い慕う」男女のそれじゃありません。


 だから、ディズニーに行ったくらいではデートとは言えない気がします。さらに言えば、終電をなくしてラブホテルや家に泊まったくらいでカップルとは言えないと思うんです。僕は未だに童貞ですが、女の子とホテルに泊まったり、家に泊まったりはしたことがあります。でも、そんな行為をしたいとは思わなかったんですよ。恋い慕っていませんでしたから。だから、その夜の飲み会は僕の中ではデートではありません。あくまで飲み会です。


 最近、デートという概念が良く分からなくなってきたんです。僕は男でも、女でも、一緒に飲んでくれる人が好きです。心から「友達になれてよかった」と思います。でも、それは「恋い慕って」いるわけではないんですよね。


 デートが出来る。


 そのことはとても素敵なことだと思います。少なくとも大辞泉の意味合いでは、透き通った想いがそこにあるはずですから。


 デート。


 簡単なようで深い言葉だと思いませんか?


 え、思わない?

 男女の友情なんてないって?


 そうかなぁ。友情の方がお気楽でとっつきやすいと思うんです。お互いが恋い慕うって奇跡のようなことの気がするんですけどねぇ。


 さて、皆さんはデートしたことがありますか?

 大辞林の定義で言えば、僕はいくらでもデートしたことがあります。デートマスターです。

 でも、大辞泉の定義だと、僕はデートしたことがありません。デートヴァージンです。

 

 どちらにしても、胸を張ってはいけない気がしますよね。


「デートをしたことがありますか?」

 

 これは意外とその人の恋愛観を掬い取れる質問だと思っています。


「大辞泉の定義では――」とか抜かす人は大抵ろくでもありません。

 ご注意下さい。


 

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