第6話 愚かな頭で愚行権を考える
先日、乃々沢亮さんのエッセイ(※1)にお邪魔して「経済学部ですが、経済学が苦手です」という意見に賛同したとき、僕は「一番普通科っぽいから」という理由で経済学部を選んだことを思い出しました。受験でも数学は理解を諦めて問題の解き方をインプットする作業でしたし、数学の美しさを感じたことはありません。
当然、計量経済学のような分野は興味が湧くはずもなく、経済的な考え方を知る方が好きでした。ベンサムの功利主義とか、フリーライダーとか、囚人のジレンマとか。そんな、浅い浅い知識を手繰っていたらふと「危害原理」が思い浮かんできたんですね。
「あれ、これって誰が唱えた考え方だっけ?」
そう思ってしまったら、調べずにはいられません。すぐにJ.S.ミルが出てきましたが、同時にブラウザに表示されたのは「愚行権」の文字。
なんだこれは、と字面に惹かれて思わずクリックしました。
愚行権
――たとえ他の人から「愚かでつむじ曲りの過ちだ」と評価・判断される行為であっても、個人の領域に関する限り誰にも邪魔されない自由のこと(Wikipedia)
めちゃくちゃいい言葉じゃないですか?
もちろん、あのJ.S.ミルが「自由論」で唱えた概念なので、正確に理解するには論拠と論旨をしっかり見定める必要がありますが、僕には難しい。
「じゃあ、自分勝手に解釈しちゃえ」と凡人の脳は指令を出しました。
愚行権
――愚かなことをしても、迷惑かけんかったら個人の自由やんな。
そう解釈しました。
そして愚行権を主張することで、僕は僕の「阿呆みたいな行為」を擁護します。
中学生の時、なぜか通学路の途中で誰にも見つからないようにお尻を出すことが流行り、卒業式に近い日、空き地で友達4人でお尻を出した写真を撮ったこと。
高校生の時、上手くプレーできなかった自分に腹を立て、壁を殴って右手中手骨を骨折したこと。そのため、毎日10㎞走るくらいしか出来なくなり、同じような骨折仲間の後輩と共に学校を抜け出して隣の市まで走ったこと。
大学生の時、下宿飲みで、ジジ抜きも大富豪も飽き、ついに色を言いながらトランプをめくって当たらなかったらイッキ、という狂気じみたゲームに身を投じて行ったこと。結果、友人Aは英語が喋れない英語教師を英語で罵りながら便器を抱えて吐瀉物まみれに、僕はその様子を笑って撮影しながら赤ワインをこぼし、カーペットを必死に叩く家主Yを見て更に高笑いをあげる。「お前ぇ……」と言いながらカーペットをティッシュで叩く家主Yを見て笑う僕を見て、友人Bは腹を抱えて笑っています。そして、その様子を見ながら余裕をぶっこいて飲んでいた友人Cは翌日午前のバイトを完全にすっぽかしました。
僕と友人Cが愚行権を主張するのは難しいでしょうが、集団として愚行権を主張することは可能でしょうか。
愚行権を唱えればこのような愚かな行為も自由ではないのか、と主張できます。自己責任論に近くなりますが、それで勝手に幸せになったり、不幸になったりしても、他人がとやかく言うことは無いのです。アホなんですから。勝手にやらせておいて、遠くから笑っていればいいんです。
僕はカクヨムで様々な痴態を晒し、多くの人の痴態や子供の意味不明な行動を見聞きしてきました。近頃、思います。「いくらアホみたいな行動でも、一人で勝手にやってるなら別に良いな」と。むしろ、勝手に馬鹿をやっている人は僕は好きです。近づきたくなるすらある。
子供が一人でアホして痛い目を見ても、怒らないで行きましょう。そうしたら、順調に変態に育っていきますから。そして、必ず後悔します。「どうして私(僕)はこんな有り様になってしまったんだろう」と。
しかし、同時に僕は、人間の愚かさは、時に愚かな変態を救うこともあるのではないか、という淡い希望を持っています。だから、いつまでも自分の愚かさを棚に上げて、更なる愚かさを追い求めていけるのです。
こうして高尚な自由の概念は、みかんの皮が挟まった手でもみくちゃにされ、ほのかな柑橘類の香りと手垢をしみこませていきます。自分の愚行を正当化するために意図的に誤用して、援用します。あぁ、なんて愚かな行為。
しかし、僕がこんな愚かな主張を行うことも迷惑はかけていないはず。
僕はここで愚行権の行使を胸を張って主張します。
「僕がどれだけ愚かでも、それは僕の勝手だ!」と。
同時にこうも思います。
「だれかたまにはどうにかしてくれ!」と。
※1 ミセレイニアス ソォート 乃々沢亮
【随感】自分ってどういう人?
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890826422/episodes/1177354054893236345
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