第4話 スノボはネルソンマンデラを体現している


 先週末は車を飛ばして雪山に行ってきました。夏場は40℃を超える州ですが、雪山もあります。サボテンが影を落とす荒野から白樺の広がる雪山への風景の変遷は雄大な自然を感じられて、運転が苦になりません。

 

 僕は今、スノーボードにハマっています。二年前に本格的に始めました。出来ないことが多すぎて逆にモチベーションが上がります。今シーズンで540ファイブ(一回転半回るやつ)が打てるようになりたいですが、道のりはまだまだ長い……。


 ところで、スノーボードの魅力はなんでしょうか。滑る姿もトリックもカッコいいのですが、それは本質じゃない。僕はスノボが「どんなに上手くてもこけるスポーツ」だから魅力的なのだと思っています。


 最初は立つだけでこけます。本当に。立ち続けるだけでこけるんです。ターンという最初の難関をクリアする前にどれだけの人が諦めたでしょうか……。でも、こけ街道はまだまだ続きます。ジャンプしようとして地面にダイブする。地形遊びしようとしてこぶで吹き飛ぶ。逆エッジを食らって後頭部と背中を打ち付ける。上手くなっているはずなのに段々とこけ方が派手になっていきます。恐ろしいですね。

 スピン系の技一つとっても道のりは長い。180度回せても、360度回そうとするとこけます。360の次は540、540の次は720……と壁はいくつもそびえています。


 何度も地面に叩きつけられます。

 何度も生存本能が出すアラーム音を聞きます。

 おしりが痛い。肩が痛い。肋骨が痛い。手首が痛い。足が痛い。全身の筋肉が痛い。 


 そんなスポーツです。

 

 でもね、僕はそんなスポーツだから好きなんですよ。つまり、上手くなるにはこけるしかないんです。出来ないことに挑戦して痛みを感じるしかないんです。無様に斜面を転がる姿を曝け出すしかないんです。


 他のスポーツって失敗したくらいじゃ無様な姿を晒さないじゃないですか。バスケにしても、野球にしても、テニスにしても、点が入らないくらいです。でもね、スノボは失敗すると見ているだけで「うわー」と思わず唸るような声が出ます。下手するとヨガのポーズみたいになりますからね。


 僕がスノボ初心者を見るのが好きなのは、こける姿を多く見られるからです。「あいつ下手だなー」とあざ笑えるからじゃなくてですね。こけても立ち上がって、またコケて。身体中を雪まみれにして必死に滑ろうとする姿に笑いが漏れてくるんです。何度こけてもめげずに立ち上がる姿が愛おしくて。


 その度に思うんです。上手くなるためにこけることは必要なんだ、と。本人は恥ずかしいんですけどね、恥ずかしいことではないと思うんです。挑戦した結果ですから。一番カッコ悪いのは不貞腐れてゲレンデに寝転がっていること。そんなことしても上手くなりません。上手くなるのはすぐに立ち上がって滑り始める人です。


 ネルソンマンデラはも言っています。

「生きるうえで最も偉大な栄光は、決して転ばないことにあるのではない。転ぶたびに起き上がり続けることにある」(※1)


 日本語でも「転んでもただは起きぬ」「七転び八起き」などなど、転ぶ、起きる(立ち上がる)という動作には意識を割いているように見えます。

 でも、あくまでアフォリズムなんですよ。良いことを言っているとは思うんですけれど、実感を持たなかった。


 ところがどっこい、スノボを始めてからこの言葉たちが実感を持って浮かび上がってくるのです。転びながらも挑戦し続ける姿を見たとき。転んだ先で上手くなっているのを実感するとき。僕はスノボにネルソンマンデラを見出します。


 人が挑戦するときはこけるものなのです。

 

 スノボを本当に楽しんでいる人は、こけている人を笑うことはしないと思います。上手くなるまでにどれだけこけるかを知っているはずですから。それを知って、応援出来る人は素敵な人です。

 

 人が転んでいるのを見て、感動し続ける。

 僕はそういう人になりたい。


 そう、思います。










 そして、あわよくば、スノボが上手くなってモテたい。

 

 本当に、そう、思います。









 ※1 名言+Quotesより引用 (https://meigen-ijin.com/nelsonmandela/)

 The greatest glory in living lies not in never falling, but in rising every time we fall.

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