第8話@適度なスパイスを

 「二年にもなって、まだバンド続けてるとは考えてもみなかったなぁ。」

実朝が言った。


 もともとはなんとなく声をかけて始めたバンドだ。続けることなんかまったく眼中になかったというわけだ。それなのにこうしてバンドを一年以上続けることができている。

「じゃぁ、次の活動について考えたいわけだけど、一つ、次のステージに進みたいわけだ。だって、もう俺たち二年だろ?三年間ずっと同じこと続けてるってなるとやっぱり飽きられるじゃんか。」

実朝はこういう状況分析はやはり、得意だと思う。

「新しいことって言ってもなぁ…。じゃぁ、コント?」

「漫才してたからって言ってそう簡単にコントって出来るもんじゃないよ?あとさ、お笑いに引っ張られすぎ。」

僕は唯と一緒に考えたが先週からの課題として有力な答えは見いだせなかった。


「まぁ悩んでても仕方ないしさ、次以降の課題にしようか―。」

実朝は何とも不服そうに言ったがそればかりは仕方なかった。


練習が終わり、次回のライブに向けて、道路使用許可を取りに行った。

「あの制服って…」

僕は署の中で自分たちの学校の制服を着た生徒を見かけた。

「ん?翔、どうした?」

いや、なんでもない、とでもいえばよかったのかもしれない。そうすれば面倒ごとに巻き込まれなかったのかもしれないが知的好奇心、賢さというのはあふれ出てしまうものだから仕方ないか。やはり、ここは気になったことをしっかりと深めていく、探究することが大事なんだよなぁ・・・おっと、賢さとともに余計なものが溢れてしまった。


僕は二人組に声をかけた。

「すいません…?」


二人組、彼女らが振り返った瞬間に、こがらし一号、吹いたように感じた。というと、なんともばからしい表現だ。横浜の春の陽気を一気に感じさせる、二人だった。

「あぁ!!ポン酢さんですよね?!」


彼女らは僕らを指さし、驚いて言った。

実朝と僕はあまり美人さんが得意ではなかった。唯に目配せすると了解してくれたようだ。まぁ、僕たちはバンドのくせに何たる軟弱さなのであろう…。


「一年生だよね?名前は?」

「新城奏と…」

「平川菜名です。」

「奏ちゃんと菜名ちゃんかー。可愛い名前だなぁ…。どうしたの?今日は。」

「今日はっていうと…実は私たちも今度路上ライブしようと思って。そのぉ…実朝さんの澄み渡る歌声が夜景にしみわたっていく感じ、あれがすごいなぁって思って。あこがれてこの学校に来たんです!」

そう言って彼女は制服ブレザーの襟を軽く引っ張って見せた。

「でもそんな感じであこがれの的になれてるってすごいよなぁ、やっぱボーカルのパワーってすげぇよなぁ。実朝、さすが。」

「いやいや、翔、二人がいてくれるからこそだよ。」


「私、唯センパイと翔さんの漫才大好きなんですよ!なんていうか間合いがもう天才のそれですよ!しかも中身もその回ごとに合わせた内容で外れなし、めっちゃ面白うい!」

「そんな風に言ってくれてありがたいなぁ…。なぁ唯?」

「確かに。ネタ作ってるのは翔だから、ほめてやって!」

「あのネタはオリジナルだったんですか?!すごい!」


 こうして楽しんでくれるファンがいてくれるのならありがたい。この時間がずっと続けばよかったのに…。僕らは今日の手続きを終え、帰りに彼女らと話しながら帰ることにした。


「じゃぁ、僕は東西線だから、ここでお別れかな。」

実朝が言った。それに続いて、

「私もそっちです!」

「ほんと?菜名ちゃんもこっちなんだ?じゃぁ帰りますか―。」

「んじゃ、ばいばい。」



 数メートル離れてからのことだった。僕にある一通のメールが届いた。


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