第2話 ラバレン連邦とは

(パラオ諸島沖 13時30分)


その海はいつ見ても穏やかで美しくそんな場所に似合わない軍艦の船団が南西に向かっていた。もちろん艦載機の射程にすでに目標は入っていた。艦隊は南アジア連合国に接する唯一の敵対国「ラバレン連邦」前線基地である「ホロ島」を目指していた。ここは人民軍の抵抗勢力「抗環太平洋軍」が進出し連合軍の拠点であるニューギニア島への進出を防ぐ事に本作戦の主旨があった。


だが、艦隊は本来の進撃ルートである北上し西へと侵攻するほどの戦力的余裕が今は無く、しかも先に失った機動部隊の損失は現作戦に大きく響いており本格的な部隊が派遣されるまで現戦力で戦線を維持する必要があった。それも「他人の喧嘩」に首を突っ込んだのだからすぐに大艦隊を派遣できるはずもなく、いくら国連の討議が必要なくなったとは云え敵にするのは近年では軍事大国とされている連邦軍に対してすでに「旧日本」南方の防御にも戦力を割いておりここに来て南方諸国に対して派兵する余裕はそれほどなかった。


「こんなことなら艦隊を集結し終わってから展開すれば良かったんだ。」

「そうだな。しかしそれでは進行中の抗環太平洋軍を阻止できないだろう」

「それは分かっているけどこの程度の戦力じゃあどうなるか分からないぜ」


そう言っている隊員を横目で見ていた中佐は

「おい、おい、お前らがそんな弱気でどうする?まぁそうなるのも分かるが・・・だが、この機に派兵されたのはあの部隊がこっち側に付いたって言う事だろう」



それを聞いた隊員たちは一瞬拍子抜けした顔をしたが

「本当かよ、でもうちの空母沈めたんだろ・・・また沈められかねないぜ」

しかし、中佐はやはり何かを知っているらしく

「まぁ、そうとも限らんぞ。過去の作戦に不備があったことは確かなようだ」


今回の作戦は空軍の支援攻撃を行いつつ敵軍輸送海路を遮断。ホロ島近くのシアン島に配備されている高射砲部隊と地上部隊を殲滅後、主目標のホロ島へと上陸するというものだった。本作戦自体はそれほど難しいものではなかったが敵戦闘機の行動半径内に作戦領域が入ってしまう、又は不測の事態・・・敵艦隊の進出があれば現戦力では壊滅的打撃になりうる可能性もあった。



(セレベス海東 サンギヘ島沖北西14時20分)


 戦闘海域間近の島の沿岸・・・ここにも奴らは歩を進めてきていた。彼らの姿を見たものには「死あるのみ」と言われている。だが本当に彼らが悪魔か死神のような人間かは別にしてもその驚異的戦闘力は敵対するものからすれば畏怖の的には違いない。北太平洋連合国の機動艦隊、それに強襲揚陸艦を擁する上陸隊をもって敵勢力を殲滅する作戦・・・実に「1万8千人」の兵員を投入した大規模なものでこんな小島に対してこれだけの戦力を使うのはその後の作戦経過に大きく関わるし「もしも」敵が予測よりも大規模の部隊を周辺に展開していた場合に備えてだった。


残念なことにその予想は当たっていた。偵察用の“ピケット艦”12隻の内、戦場にたどり着く前になんと半数を超える7隻が撃沈された。それは地上からの対艦ミサイル等の攻撃ではなくイージス艦と航空部隊による長距離対艦攻撃であった。セレベス海は実質上、制海権は敵の手にあった。


「畜生・・・制海権は解放軍のものじゃないか。これじゃ、まともに機動艦隊を進撃させられない!!」

「確かに、それで南アジア軍は“ヒットアンドウェー”ですぐに艦隊を南下させたわけだ。しかし、情報ではまだこれほどの艦隊が出港したという話はなかったのだが・・・」



 北太平洋連合の情報網は完全に混乱していた。敵の偽情報と予想以上の兵力がすでに進出し始めていた。ここで引けばよりラバレン連邦の思う壺でありさらに兵力を増強させるのは必至であった。だが、潜水艦隊、対空用のイージス艦は「南西諸島」にも展開しており数が不足していた。

さらに連合軍を窮地に追い込む状況が迫りつつあった。それが敵機動艦隊の動きだ。連合国側の偵察衛星の隙を突いて出撃させた快速空母3隻がセレベス海へと向けてシブヤン海からスル海へと急速に目的地であるホロ島へ接近していた。軽空母だが3隻の艦載機は合計105機にもなる。さらに敵航空基地より飛翔した戦闘爆撃機も多数この攻勢に参加している。まさにピンチ以外の何ものでもない。


方や「北太平洋連合」は超大型空母「アルパート」、イージス巡洋艦「サウスダコタ」、「マッケンジー」。強襲揚陸艦「リトルバード」ほか潜水艦隊、駆逐艦等々、計二十三隻の艦隊だ。しかし、連合の艦船は三分の二、しかもまともな戦力に成るのはわずか“アルパート”を含む七隻のみで内上陸用艦艇を省くと四隻のみとなる。


「こんな状態でよく艦隊を派遣できたものだ。しかも南アジアは早々に艦隊を安全圏に待機させやがった!」



しかし、これは間違っていた。“見捨てた”のではない。あの駆逐部隊を放ったのだ。


(深度120m)


「やれ、やれ損害が激しいな。深度を上げ!目標敵イージス艦」

「前方に中立軍艦隊が・・・・」

「下を潜るだけだ。何も問題ない。ただの鯨にしか思われない。両舷微速!」

「アイ・アイ・サー!」



五隻の小型潜水艦隊はまっすぐに敵艦船の方へと向かっていた。そのほぼ真上には北太平洋連合のイージス艦「マッケンジー」があった。同艦はソナーに三十メートルほどのおぼろげなものを捕らえていた。




(連合艦隊第二機動艦隊属マッケンジー)



「センサーに鯨らしき動体が・・・しかし、こんな戦場に鯨とはな」

「おい、あの声聴こえるか、クジラの唄だぜ」


その物体からは低い地鳴りのような時より甲高い海洋哺乳類特有の“声”を出していた。だがそれは生き物の発するものではなかった。小型潜水艦の「ホエール・ソナー」が発している索敵音だったのだ。

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