王都へ

 いくつかの村、町や街を経由して、追っ手も来ることのない、緩やかな旅路だった。

 王都、ヘックスプルーフは近い。

 首都近郊で最大の街で、ようやくコーストは王都ヘックスプルーフの不穏な噂を聞いた。

 だが、情報は錯綜さくそうしており不正確だった。

 この目と右腕で確かめるしかない、とコーストは己とその身に宿った呪詛じゅそ魔法を信じた。

 この呪詛を狙って一生トランプル王国から追われる身になるのは御免ごめんだった。

 だが、いくつかの死闘しとうや妹の治癒ちゆを行ってくれた『呪われし右腕カースド・アーム』については多少愛着が湧いていた。

 比較的魔力消費量が激しいようだが、それ以外に副作用もない。むしろ、その力を考えれば十分過ぎる。

 王都には検問所が設置されており、コーストはそこで検問を受けることになった。

 昼間の時間帯で、たしか、今日は休日だ。

「腕の包帯を取るように」

 無愛想な検問官からそう言われ、コーストはやんわりと拒絶した。

「なぜです?

 火傷をしているだけですよ」

「いいから取れ」

 やはり、なんらかの情報は王都にはあるのだろう。この右腕のことがわかれば、面倒なことになるのかもしれないが、この漆黒の腕だけは色の偽装ができないのだった。

「これは……。

 お前はここにろ。他の者を呼んでくる」

 おそらくは上官を呼びに行ったのだろう。

 その後すぐに、数十人以上の警備兵たちが、抜刀してコーストを取り囲んだ。

 よろいの色が異なる、現場の責任者らしきものが口を開く。

「王宮近くの闘技場に案内する

 大人しく移動してほしい」

 頼む、とでも言いたげだった。

「闘技場では、なにがあるのです?」

 コーストの問いに現場の責任者、指揮官は一瞬だけ逡巡しゅんじゅんしたがすぐに答える。

「この国、トランプルの王が待っている」

 そう言えば、この右腕、『呪われし右腕カースド・アーム』は王の力、だったな……。

 そうコーストは思考を巡らせた。

 王の側近ならば強力な衛兵や魔獣が周辺に配備されていてもおかしくない。

 血なまぐさい見世物をする闘技場ともなれば余計に用心しておいたほうが良いだろう。

 コーストは大人しく、馬車と共に闘技場へと移動することになった。

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