呪いの定着

 炭、いや、死体の山の中で、コーストは転げ回った。

 あまりにも痛いが、痛さでそれどころではない。つまりとてつもなく痛い。激痛げきつうである。

 呪詛じゅそは既に効果を発動していた。

 この魔法の扱い方が、手にとるようにわかるのだ。

 気絶すれば、この魔法『呪われし右腕カースド・アーム』にただコースト自身の魔力を吸いつくされて、死ぬ。焼け死ぬ。

 既に全身が炭になった気分だが、妹と自分のためにもそれだけは避けたい。

 涙がほおを伝う。あまりにも苦しい。

 痛さのあまり呼吸困難におちいった。

 地下室の半分は炭で、空気は綺麗そうだったが、呼吸をするための空気が足りない。

 コーストは地下室の古ぼけた出入り口の扉に向け、右腕を振った。

 烈風れっぷうが生まれ、地下室の出入り口をぶち破った。

 一階の空気が地下へと流入し、コーストの酸欠さんけつを防ぐ。

何事なにごとだ!」

 驚いたヘイストが地下室をのぞき込み、コーストの元へと階段を降りていく。

「まさか……。こんなにはやく呪いが定着するとは……」

 ヘイストは驚き、しかし落ち着いた様子で右腰から短剣たんけんを引き抜いた。

「何を……する気だ……?」

 コーストは苦しみながらも質問した。

「情報としては十分、お前はもう用済みだ。

 この魔法が本領ほんりょうを発揮する前に死んでもらおう」

「止めろ、死ぬ」

 コーストは目の前に居る老人がいかに無謀むぼうなことをしているのか、手に取るようにわかった。

 死ぬ、というのはコーストが自身に向けて放った言葉ではない。

 魔法使いヘイストに向けてだ。

 ヘイストが、コーストの心臓に向けて短剣を振るう。

 しかし、そのナイフは所持者の手首から先ごと握りつぶされる。金属と肉、そして骨が潰れる音、そしてヘイストの絶叫が長々と地下室に響く。

 それだけでは済まず、コーストの呪詛じゅそ魔法、『呪われし右腕カースド・アーム』が自動防御じどうぼうぎょ用の攻撃を発動。

 黒い雲霞うんかが物質化し、やりとなって高速で伸び続け、ヘイストの胸をつらぬいた。

「そん、な……。王国の禁忌きんき、魔法を……こんなところで……」

 ヘイストは、最後に火炎の魔法を紡ぎ、上へと放った。

 火炎は一階に向けて放たれた。コーストは気付いたが、時すでに遅し。

 本棚や貴重な魔法・魔術、そしてなによりも呪詛魔法『呪われし右腕カースド・アーム』の資料がある一階を、炎は焼き尽くしていった。

 コーストに定着した『呪われし右腕カースド・アーム』は、さらなる自動防御を発動。

 一瞬で地下室の上に穴を空け、さらに紅蓮ぐれんが舞う一階を貫通し、一階から横穴を空けた。

 庭に派手に転がるコーストだったが、痛みはない。『呪われし右腕カースド・アーム』が黒い覆い(ベール)でコーストが受ける衝撃しょうげきをやわらげたのだった。

「これは……とんでもない魔法だ……」

 コーストの表情には絶句ぜっくがあった。

 右腕は、完全に黒くまっていた。

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