第57話 ロラン対ベリアル
ロランとベリアルが対峙する。ロランはあの時よりも腕を上げ、聖剣にも選ばれた。
「ロラン!」
魔王と対峙するロランの元へ、レヴィが駆けつけた。
「レヴィ、君は引き続き領民の避難をサポートしてやってくれ、ベリアルは私に任せてほしい」
「え……でもロラン」
「頼む……私を信じてくれ」
レヴィは何か言いたそうだったが、言葉を飲んだ。
「……ちっ、しゃーねーな、今回は特別に譲ってやる、絶対負けんなよ」
「ああ、任せてくれ」
レヴィもベリアルには辛酸を舐めさせられたのだ、本音では戦いたかった筈だ。
「あら、お友達に手伝ってもらわなくてよかったの?」
「ああ、貴様の相手は私1人で充分だ」
「言ってくれるわね……」
とは言うものの、相手は3大魔王の1人ベリアル。
僕がこれまでに相手をして来た魔王とは格が違う。
一定の距離を保ち、睨み合う2人。
戦場の中にあって、2人だけが異空間に居るかのようだ。
既に戦いは始まっているのにも関わらず、2人は全く動こうとしない。達人の領域に達しているであろう、2人だからなのかも知れない。
先に仕掛けたのはベリアルだ。レイピアの連撃がロランを襲う。
ロランはこれを軽くいなした。
「チッ」舌打ちをするベリアルの腕に血が流れる。
この攻防を皮切りに、ベリアルが動く。
目にも留まらぬ無数の突きが、レイピアから繰り出される。
ロランはこの無数の突きを、剣を交える事なく紙一重で交わす。
この攻防はしばらく続いた。
焦りが見えはじめたベリアルの切っ先が、一瞬乱れた。
ロランはこれを逃さず、すかさず反撃に転じる。
ロランの剣舞に翻弄されるベリアル。
その身体に、見る見るうちに傷が刻まれる。
剣技の実力差は明白だ。
「んもぉ!」ベリアルはたまらず、バックステップで距離を取るも、ロランはそれを逃さず追撃する。ベリアルはシールドを展開し、何とかしのぐ。
「どうした?魔王の実力とは、こんなもんか」
「なっ、小娘が、調子に乗るんじゃないわよ!」
「まあ、貴様もオバサンにしては動ける方だな」
「だ、誰がオバサンよ!」
魔王もオバサン扱いは嫌なようだ。
実際のところベリアルは綺麗なセクシー姉さんだ。
この点に置いては、僕はベリアルを擁護する。
(……おかしい、あの小娘と以前戦ってからそんなに時は経っていない……
なのに何故これ程の実力を……
それに、私の身体がこうも簡単に傷つくなんて……)
そして、ようやくベリアルは気付く。
「そ、そうか、その剣は!」
「ああ、ご推察通り」
「聖剣……」
「デュランダルだ!」
「へー、あなたも勇者になったって事ね……だったら!」
ベリアルの魔力が一気に膨らみロランに襲いかかる。
先ほどまでとは別人のような動きで、今度はロランが防戦一方となった。
膨れ上がったベリアルの魔力にファフが反応した。
「この魔力、魔王か!」
ファフは上空に舞い上がり、ベリアルにブレスを放つ。
「チッ、神竜! 本当に厄介ね……」
ベリアルは攻撃をかわし、ファフ、ロランと大きく距離を取った。
「ファフ、手出しは無用だ」
「何でやねん、コイツいてもうたら、勝負有りやんけ!」
「ベリアルには借りがあるんだ……頼む!」
「せやかてロラン……」
ロランの目に迷いは無い。
「っんまに、しゃーないなぁ、絶対しばいたれよ!」
「ああ、任せてくれ」
「神竜とお友達とはね……あの神竜は、彼の眷属かしら?」
「お前が知る必要は無い」
「レーヴァテイン、クレイヴソリッシュ、ファフニール……サマエル……差し詰め、彼の正体はソールってところかしら……」
ベリアルはそう呟くと戦いを再開した。
助けはいらないと言ったものの、本気になったベリアルの実力は、魔王の名に相応しく、剣技で圧倒していたロランも徐々に押されはじめた。
「あれ?さっき迄の余裕は何処に行ったのかしら?勇者さん」
「これからだ、ベリアル、焦るなよ」
ロランの言葉に嘘はなかった。ロランを包み込む光の輝きが増し、ロランの動きは先程とは見違えるものになった。
「私相手に実力を隠していたのね……」
「お互い様だろうが」
「小娘が、生意気なのよ!」
ベリアルは更に魔力を高めた。ベリアルにはまだ余力があった。
しかしロランも負けてはいない。ベリアルが高めた魔力に合わせ、ロランも強化を強める。
「ベリアル!!!」「小娘が!!!」
激しく打ち合いが続き、ついに2人も肩で息をしはじめた。
「本当に忌々しい小娘ね……でも、コレはどうかしら」
ベリアルは上空に舞い上がり、強大な魔力球を作りはじめた。
この技は僕との戦いで披露した技だ。
「彼には破られた技だけど、あなたに彼と同じ事ができるかしら!」
勝利を確信し、笑みを浮かべるベリアル。
状況的に絶体絶命に思えたロランだが……。
「ベリアル、あまり私を舐めるなよ」
ロランはベリアルを取り囲む形で複数のエスクプロージョンを放った。
どうやらロランも、アレイスター先生が使っていた、発動点コントロールを会得していたようだ。
「くっ!」
完全に無防備だったところに、複数の上級魔法を食らったのだ。流石の魔王とは言え、それなりに効いている。
「……あなたは剣士じゃなかったの!」
「悪いな、私は人類の中で2番目に魔法が得意なんだ」
ベリアルは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「あなた、もう1人の勇者より強いんじゃないの……」
「さあな、だが彼女とはずっとライバルだった。同じ土俵にたった今、私に敗北は許されない」
「言ってなさい!」
ベリアルは、攻撃に牽制の魔法を絡めた。
僕と戦った時よりも数段に数が多い。
優勢に戦いを進めていたロランだったが、流石にこの攻撃は厄介だったようで、ダメージを受けはじめた。
奇を
魔法を絡めならが攻撃してくるベリアルに、ロランも魔法を絡め対抗したが、魔力量が桁違いのベリアル相手には、上策と言えなかった。
そして遂に、ベリアルの攻撃がロランを捉えた。
「ぐあっ……」
ベリアルのレイピアがロランの左肩に突き刺さる。
「あなたもよく頑張ったけど、ここが限界のようね」
「フッ、……これしきのダメージを与えて勝ったつもりか?片腹痛いぞ」
「可愛くないわね、あなた」
ベリアルはロランの肩からレイピアを抜き、左の太ももに突き刺した。
「うぐっ……」
「どう?、これでご自慢の機動力も使えないわ?
んーあれ?
出血も酷そうね」
ロランはなりふり構わず、ベリアルを振り払った。
「そんな攻撃当たりやしないわよ」
「ロラン!!!」
様子を伺っていたファフが今にもベリアルに襲い掛かりそうだ。
「大丈夫だ、ファフ……私はまだ負けていない……」
ロランはファフを制止した。
(……レヴィやファフと力を合わせれば、確かにベリアルに勝てるだろう。
だが、それではダメだ……
1人で戦う事、これは私の我儘だ……
これによって仲間が窮地に陥るかも知れない。
それでも……
それでも私は聖剣デュランダルに選ばれた勇者だ!
魔王を倒す義務がある!)
「デュランダルよ! 私に力を貸せ!」
デュランダルがレイラの叫びに呼応する。
今までとは違った輝きを放ち、エナジーが溢れ出る。
「こ、これは……力が……」
デュランダルが覚醒した。
「何なのよ、あの忌々しい光は!」
ベリアルがロランとの距離を詰め、トドメを急ぐ。
「キィーン」金属音が鳴り響き、ベリアルのレイピアが宙を舞う。
「勝たせてもらうぞ!ベリアル!」
「グフッ……」
デュランダルがベリアルの心臓を貫いた。
「ロラン! 遂にやりよった!」
様子を見守っていた帝国民からも大歓声が上がった。
「ま……まさか、私が、あなたみたいな小娘に負けるとはね……」
「聖剣のおかげだ」
「ううん……実力よ……」
「ベリアル……」
「ねえ……あの彼と、ウンディーネは一緒なんでしょ……」
「ああ」
「ウンディーネに伝えて……ごめんね……って……」
「分かった伝えておくよ」
それがベリアル最期の言葉であり、
3大魔王を倒した歴史的な瞬間であった。
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