第51話 ブルーオーシャンの主
僕達はブルーオーシャン掃討の前に、先ずブルーオーシャンの砦に向かった。砦の兵士達に事情を説明して、検問を強化してもらうのと、最近のブルーオーシャンの事情聴取のためだ。
「これは、ステル王子、ご無沙汰しております……今日は如何な御用向きで……」
「今日ここに来たのはな、ブルーオーシャン掃討の為だ」
「え……ブルーオーシャンの掃討……軍の侵攻が有るとは伺っていませんが……」
「馬鹿な事を言うな、ブルーオーシャンに軍を侵攻するような、愚行を誰がするものか、だからこうして、森を囲むように砦を配しているのではないか」
「作用でございますよね……では、どのようにして、掃討を?」
ステルが僕に目配せした。そう言えば詳細は伝えていない。
「魔法だ、大規模魔法で一掃する」
「こちらの方は?」
「俺の師匠、噂のグーテンベルク伯爵だ」
「で……では、こちらが、かのご高名な……王国の剣聖様……」
「ははは、そうだ!こちらの方こそが俺の師匠であり、数々の武功を立てられた、剣聖ハルト殿だ」
「お2人で、ブルーオーシャンに向かわれるのですか?」
「いや、俺は師匠の見学だ」
「え……ま、まさかお一人で?」
「ああ、大規模魔法を使うからな、人数がいると事故るかも知れない」
「師匠……俺はてっきり剣で斬りまくるものだとばかり思っていましたが、魔法ですか……」
「剣だと、時間がかかり過ぎるからな」
「そりゃそうですよね」
「で、最近森の様子で、変わった事はなかったか?」
「そう言えば、ここ2、3日森の方から凄く低い魔獣の唸り声のようなものが聞こえてきます」
「唸り声……」
「はい……」
「気になるな……」
僕は森全体を探知してみた……そして見つけた。明らかに1頭だけ、突出した魔力の存在を」
「何かいるな……今までに感じたことのない魔力だが……他の魔物どころか、魔族ですら凌駕している……魔力だけならベリアルクラスだな」
「ええ!そんなヤバいやつが?!」
「来て良かったな……こんなヤツ放置出来ないからな」
「剣聖様……大丈夫なんですか?応援を呼んだ方が……」
「大丈夫だ、師匠に任せておけ」
「簡単に言ってくれるな……」
「師匠なら大丈夫でしょ!」
「戦ってみなくては分からないが、万一の時はルナ達に協力を仰ぐよ」
「そんなにヤバいんですね……」
「そいつは、森の中央あたりにいる、戦闘になっても周囲に被害が及ぶ事はないと思うが、念のため周辺の警戒を頼む」
「了解だ」「承知しました」
「ハルト様……本当に戦われるのですか?」
「ああ、どちらにせよコイツは放置出来ない、遅かれ早かれだ」
「気をつけてね!」
「ああ、ありがとう」
僕達はルナと出会った例の崖の上に移動した。
「皆んなはここで、見ていてくれ万一の時は帰還アイテムで逃げるんだ」
「「はい」」「おう」
僕は飛翔で森の上空に移動し、探知で魔物をロックオンした。勿論、例のヤツを除いてだ。
森全体を探知して改めて思う。この狭いエリアにひしめく魔物の数……やっぱりクレイジーな場所だ。フレイヤがそんな場所に僕を送り込んだのは、もしかしてヤツと僕を引き合わせる為ではないのか……
考えすぎかも知れないが、考えずにはいられない。
「な、なあ……あれ……空に浮かんでるよな……」
「浮かんでますね……」
「貴族の方は皆さん空を飛べるのですか……」
「「飛べません……」」
ヤツを除く全ての魔物のロックオンが完了した。
僕はロックオンした全ての魔物にスパークを放った。
「な、な、な、な、なんだーーーっ!」
「眩しっ……」
「すっ凄い音!」
ブルーオーシャンは各所で発動した、スパークの光と轟音で、大爆発が起こったようになっていた。
スパークの光と轟音は1分ほど続いた。
探知で、ブルーオーシャンを調べた。残った魔物は例のヤツのみ、ブルーオーシャンの掃討に成功したと言ってもいいだろう。魔物を直接攻撃したので、自然破壊の影響も少ない筈だ。
そして僕はその足で、ヤツの元へ向かった。
ヤツの正体は……
ドラゴンだった……
ちょっと怖い……けど、格好イイ!
しかも寝ている……あれほどの光と轟音を発していたのにも関わらずだ。ドラゴンは最強の生物ってイメージがある。これほどの魔力だ、こちらの世界でもきっとそうなんだろう。こんな状況でも寝ていられるのは、最強故の図太さと傲慢さだと思った。
(さて、どうしたものか……このまま放置はできないし……かと言って寝ているこいつをこのまま始末するのも気が引ける……話せるかも知れないし、取り敢えず起こすか……)
「おい、起きろ」
「…………」
何の反応もない。
ドラゴンの顔をペチペチしてみた。
「…………」
何の反応もない。
仕方ないので、大量の水をぶっ掛けてみた。
「…………」
何の反応もない。
流石ドラゴンだ、もう面倒だから、このまま放置しようかと思ったが、最後に一つだけ試してみた。
「ンヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥババババババ!!!」
ドラゴンの顔にウォータープリズン掛けた。流石のドラゴンもたまらず飛び起きた。寝起きに溺れるとか、流石に可哀想なので解除した。
「な、な、な、何やねんワレ!!!」
……甲高い声の関西弁だ……ミスマッチ過ぎる……
「……や……やっと目覚めたか」
「なんやワレ、何かワシに用あるんか!……」
「大した用は無い、何でドラゴンのアンタがこんな所に居るんだ?」
「て言うか、ワレが何でここに居るねん……人間は来られへん場所やないか……」
「何故って……巨大な魔力を感知したから、調べに来たんだよ、アンタは人類の敵か?」
「はっ、人類なんか、ワシの敵ちゃうわ」
鼻で笑われた。
「そうか、じゃ、いいや、見逃してやるよ、またな」
もう何か面倒くさくなってきたので帰りたい。
「待ていぃぃぃぃぃぃ!」
「何だよ?」
「さっきからお前、えらい上からやんけ!「見逃してやるよ、またな」とか、澄まし顔でぬかしやがって……ワシに勝てるっちゅーんか!」
「あーそうだよ、勝てるぞ」
「はん、ワシが寝てる間に、人間も冗談、上手なったな」
「冗談か……確かに上手くなったかも知れない、だが、アンタを倒すのは冗談じゃない。んで、アンタはどれほど寝てたんだ?」
「知るかボケ!今がいつか分からんのに、分かるかアホ!」
ボケ……アホって……
「た……確かに」
「ちゃうちゃう、そんなん話してる場合ちゃうで、ワシを倒すっちゅう軽口についてや!」
「なぁ、もう面倒だからかかってこいよ」
「むかーっ!せっかく人が話し合いでケリつけたろうか思てたけど、ワレはあかんわ」
ドラゴンだが……
「御託はいいから早くこいよ……」
「後でヒイヒイ言うても知らんからな!」
ドラゴンは炎のブレスを放ってきた。
木々が燃える、森の火事とか絶対ヤバいので水魔法で消化した。
「なあ、アンタ……森で火はダメだ、火事になったら大変だ。飛べるんだろ?空でやろう」
「む、言われてみたらそうやな……ついてこんかい人間!」
口は悪いが、話の分かるヤツだ。僕たちは空中戦を行うことになった。
___「あっ……あれは……まさか……」
「ド、ドラゴン……」
「ど、ど、ど、ど……ドラゴン」
「ステル王子……流石にアレはマズいのでは……」
「し、師匠を信じるんだ……」
「ドラゴンですよ!魔王よりも厄介だと言われている、地上最強の生物ですよ!」
「は……初めて見ました……」
「俺もだ……デカいな……」
「そんな呑気な事言っている場合ですか!加勢しないと!」
「……どうやってだラグイン……」
「やっぱり飛べるんですか!」
「飛べません!」
「この距離じゃ魔法も届かねー……見てるしか無いだろ」
___皆んながそんなやり取りをしているとはつゆ知らず、僕はドラゴンとの対戦に心を躍らせていた。ファンタジー好きの人間なら誰もが夢見るドラゴンとの対峙。力がなければ、ダッシュで逃げるが、今の僕なら大丈夫だ。
僕は拳銃、魔法を中心にドラゴンと戦っていた。巨体の割に素早いドラゴンの懐に入りにくいのもあるが、この関西弁のドラゴン……どうにも憎めないからだ。
「ワレぇ、大口叩くだけあってやるやんけ!」
「アンタもな」
ドラゴンの攻撃はブレスが中心だが、環境に気遣ってか、さっきから可燃性のブレスは撃ってて来ない。僕はそんな所も気に入った。
とは言え、拳銃も魔法もあまり効いている感じがしない。勝つためには打撃や斬撃による直接攻撃がマストかも知れない。
僕は四肢に魔力を込め、肉弾戦を行う事にした。殴り合いのケンカすらした事なかった僕が、ドラゴンと殴り合いをするなんて、世の中何が起こるか分からない。
「な、なあ……あれ何やってんだ……」
「殴り合いですね……」
「すっ……凄いですね、ハルト様って」
「しかし、何故剣を使わないんだろう……」
「本当ですね、何かお考えがあるのでしょうか」
「剣聖様なのに……」
巨体の割に素早いのはわかっていたが、肉弾戦に持ち込むと、その素早さがより強調された。ブレスで戦われるより、全然手強かった。ぶっちゃけサマエルクラスの難敵だ。もしかしたら僕は無謀な戦いを仕掛けたのかも知れない。
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