第50話 改革の種まき
グーテンベルクの街はにわかに活気付いていた。関税の撤廃と減税が施行され、さらに勇者、マイオピアの英雄、王国の剣聖がグーテンベルクを拠点にしていると噂が広がったからだ。この噂がさらに広がり人口が増れば、改革の第一段階は終了だ。
今日僕はカルと街に視察に出かけている。
「凄いもんだねハルト……本当に街が元気になってきたね」
「皆んなが頑張ったおかげだ、もちろんカルの働きも大きい」
「マジかよ、あーし、今めっちゃ感動してる」
「感動するにはまだ早いぞ、これからもっと沢山の人を笑顔に変えるんだ」
「うん!あーし頑張るよ!」
「カル、今僕の頭の中にあるアイデアを君に全て伝える。僕は戦闘に出る身だから万が一のこともある。その時は君がラグインを動かしてくれ」
「え……今、ハルト凄いこと言わんかった?……それに、あーし平民だよ?」
「仕事に平民も貴族も関係ないだろ。グーテンベルクの運営、改革にカルは外せない。つまらない考えは捨ててしまえ」
「あはは、ハルトは簡単にそう言うけどさ……それでもね……」
「もしかして、妬みか?」
「うん……あーしも気にしないようにはしてるけど、全くないわけじゃなくてさぁ」
「すまない……配慮が足りなかった」
「いいんだよ!だって80万ペイも月々もらってるんだから、それぐらいは我慢するよ」
「いや、それはカルの働きに対する正当な報酬だ、対策は僕が考える……本当にすまなかった」
「いいって、ハルトにはいい思いさせてもらってるし、ハルトの考えにあーしも賛同してるし」
「世界には同じような話は山ほどある……ルナ達ですら他の冒険者に妨害工作を受けることもある……人の妬みは本当に恐ろしいものだよ」
「マジか……」
「そうだなあ……」
『聞こえるかカル』
『な、な、な、何これ?』
『これは、念話だ、万が一の時はこれで僕を呼び出してくれ』
「ど……どうやるんだ?」
「強く僕を思って念じるんだ、練習してみろ」
「お……おう」
『は、ハルト……聞こえる』
『ああ、バッチリだ』
『やった、これでハルトが誘いやすくなる!ハルトの周りは女が多過ぎなんだよなぁ……女好きなんかな……』
『確かに僕は女好きかも知れないが……』
『!!!ち、ちがっ、違うからね!!』
『念話と心の声は違うからな、気をつけるんだぞ……ま、僕にしか聞こえないから、ダダ漏れでも僕は構わないが』
『あ、あ、あーしが困る!』
___視察が終わり、ラグインを交え今後の施策について話し合う場を設けた。
「ラグイン、今から話す事は今後、僕が行なっていく施策のアイデアだ、他の内政官と吟味して取り組んでいって欲しい」
「はい」
「僕の考えは、カルに伝えている。ラグインが判断に迷ったらカルに尋ねてくれ」
「分かりました、しかし、カルの超記憶は凄いですね、カルのお陰で各所捗ってます」
「いや、あーしはそれしか取り柄無いし」
「その取り柄が、スゲー事なんだよ、これからも頼むな」
「うん!」
「でだな、ラグイン、君に頼みがある」
「はい、何なりと」
「あまり、多くの人がいる前で、カルに意見を求めないで欲しいんだ、僕の施策は成功する事も失敗する事もある……それにな……」
「なるほど……それは私も感じておりました。私の方でも気に掛けます」
「ありがとう、助かるよ……」
「ハルト、そこまで、気使ってくれなくても……」
「こら、ハルト様だ!」
「いや、ラグイン構わない」
「ダメですハルト様、あなたのそう言う所も、原因の1つなのですよ!」
「あ……確かに、そうだな……」
「火種は何処にあるか分かりません、くれぐれも自重してください」
「お……おう……ラグインの言う通りだな」
「カルも分かりましたか?」
「わ、分かりましたラグイン様!」
「それで、良いのです。たったそれだけの事で波風立てる必要はありません」
「いずれ敬称禁止の法を施行するか……」
「いいね!それ!」
「ダメです!」
「「はい……」」
「あはは、ハル……ハルト様はラグイン様が居て良かったね!」
「そうだな……ダメな僕を支えてくれる大切な人だ」
「た……大切な
ラグインが頬を赤らめてしまった。
『またフラグ立てたじゃん……本当に女好き?』
『えっ……今ので立っちゃうの?』
『ハルトはさぁ……一回冷静に自分の価値知った方がいいよ……』
『お……おう』
「さ、さて続けるか!」
取り敢えず、強引に施策の話しに戻し、微妙な空気を断ち切った。
まずは相場についてだ。人件費、販売価格、卸価格、下請け価格等、多岐にわたる。それぞれに下限、上限を決め基準値を定める。基準値を満たすことの出来ない、体力のない事業者には助成金をあてがうつもりだ。この手のことは後回しにすればするほど、大きな歪みが生じ、より多くの投資が必要になる。
試算してみないとわからないが、ブロエディが蓄えた領内の資産は、まだまだ余裕がある。今やるしかない。
色々狙いはあるが、最大の目的は公平な競争だ。文明レベルを引き上げるには、競争が1番だと考えたからだ。
「ハル……ハルト様、補助金怖いですね……」
「そうか、金策はしておいた方がいいな」
「何かいいアイデアがあるのですか?」
「ブルーオーシャンの魔物を全部狩る」
「「へ」」
「だ……誰をそのような任務に……もしや勇者様にご助力を願うのでしょうか?」
「いや、ルナ達を政治の事情に巻き込みたいくない、僕1人でやる」
「「え……」」
「流石にハルト様でもキツくね?」
「今の僕なら大丈夫だ」
「流石にそれは蛮勇では……」
「大丈夫だ、ちゃんと対策は考えている」
「ハルト様……流石にお一人で向かわせるのは、家臣としてどうかとお思います……私も付いて行ってよろしいでしょうか?」
「うーん、崖の上から見てるだけなら構わないぞ」
「崖の上からですか……(いざとなれば魔法で援護ぐらいは……)承知しました」
「ステル王子との約束で、彼も一緒に来るから万が一の時は守ってもらえ」
「ステル様が!……」
「ああ、あそこはステル王子の管轄だからな、それを条件に快諾してくれたよ」
「いつ、実行するんですか?」
「ステル王子の都合が良ければ、今からでも構わないが」
「い……今から……急な話ですね……」
「まあ、すぐ終わるし、取り敢えずステル王子に会ってくる、少し待っててくれ」
「は……はい」
瞬間移動でステル王子の元へ向かった。
「消えた……瞬間移動ですか……」
「ラグイン様、貴族って皆んな、あんなんですか?」
「とんでもない……ハルト様が特別なだけです」
「ですよね……」
「カル、貴女も大変ですね……次から次へと難題が」
「いえ、その分良い暮らしさせてもらってるし、ハルト様の仕事は楽しいです」
「楽しいですか……確かに楽しいです……この胃痛がなければ……」
「あはは……ラグイン様の方が大変そうですね……」
「でも、良い領主ですよ、私はバイルス王子より優れた君主は居ないと思っていましたが、ハルト様はそのバイルス王子が見込んだだけあって、素晴らしい方です」
「分け隔てなく、皆んなの事を考えてる……貴族が皆んなハルト様みたいだったら良いのに」
「ハルト様は、マイオピアの英雄、王国の剣聖と呼ばれる程、腕も立つと言われています……本当に凄い方です」
「でも、女にはからっきしですよね、勇者様達によくコテンパンにやられている所、見かけます」
「そうですね……ハルト様は女癖の悪さだけが、欠点ですね」
「……ラグインから見てもそうなのか……」
「ひゃ……はっ、ハルト様!そ……そんなつもりでは」
「気にするな、事実なんだろうしな」
「ラグイン、英雄色を好むってヤツだ、師匠程の男になれば、それもまた甲斐性なのだよ」
「ステル王子……ご無沙汰しております」
「うむ、久しいな、ラグイン、で、そちらのお嬢様は?」
「新しい仲間のカルだ、彼女は凄いぞ、バイルスに合わせたら、絶対引き抜かれる」
「え、そんな凄いのか……」
「ステル王子、はじめてカルです」
「おう、カルちゃん、よろしくな」
「あんまり威圧するなよ、うちの秘蔵っ子なんだからな」
「酷いな師匠……威圧なんてしてませんよ」
「お前は顔が怖いんだよ、もっと丁寧に話せ」
「お2人は、仲がよろしいのですね……」
「おう、俺が師匠の1番弟子だからな」
「こいつが、勝手に言ってるだけだ」
「そりゃないぜ、師匠」
「よし、取り敢えず行こう」
「あー……私もご一緒して、良いですか?」
「うーん、僕は構わないが……」
「俺が守ってやるよ」
「よし、じゃあ行こうか」
そんなわけで早速、僕達は4人でブルーオーシャンへ向かった。
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