第49話 邪神サマエル

 四大精霊2人と契約した僕の魔力は圧倒的なものだった。自分で言うのもなんだが、これ程の魔力を発せられる存在は、そうはいないだろうと思っていた。しかしそれも束の間、あっさりと僕を凌ぐ魔力を持つ存在が現れた。


 今僕と対峙している邪神サマエルがまさにそれだ。


「デタラメな存在感だな……」


「存在感か……君は相変わらず、独特な言い回しだね」


 サマエルは圧倒的物量の武器に加え、四方八方から魔力弾を放ってきた。アレイスター先生の使っていた、発動点コントロールだ。


 武器はスパークだけでは完全に無効化出来ず、魔力弾はスパークの影響は一切受けなかった。武器の攻撃は、スパークと拳銃でなんとか凌げたが、魔力弾は防ぎきれず、かなりのダメージを負ってしまった。


 このままでは勝てないどころか、殺られてしまう。どうしよう……


 そんな、僕にお構いなしで、サマエルはガンガン攻撃を仕掛けてくる。瞬間移動、フレイ、スパークで騙し騙し凌いでいるが、本当にジリ貧だ。


「おや、この辺が限界なのかな?だとしたら期待外れだな……ハルト、もっと楽しませてくれよ!」


 サマエルはまだまだ余裕のようだ。


 僕に残された、手段はアレしかない……もし、通用しなかったら完全にアウトだ。


「インヴィンシブル!」


 僕の切り札、インヴィンシブルを発動させ、双剣でサマエルに斬り込んだ、だが、この静止空間でも、サマエルは動ずる事がなかった。


「凄い!凄い!超加速まで使えるんだね!今まで隠しているなんて、君も人が悪いね!」


 ある程度想定はしていたが、万策尽きたって感じだ。しかし、諦める訳にはいかない、僕には守るべき人が沢山いるのだから。


「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 僕は柄にも無く、雄叫びをあげ、双剣を無我夢中で振るった。サマエルは超加速の中でも普通に動けているように見えたが、僕の方が、速さは上回っていた。徐々にサマエルを追い詰める。


 サマエルの表情から余裕が無くなり、着実にダメージを与えるも、決定打に欠ける。このまま考えなしに攻撃を加えていても、タイムリミットまで凌がれて終わるだろう。


 その時、更なる魔法のイメージが、頭に浮かんだ。風魔法による超加速の中での更なる加速だ。どんな反動があるか分からないが、どの道待っているのは死だ。僕は躊躇う事なく、加速魔法を使った。


「ぐっ……こっこんな……」

 この戦いで、はじめて余裕の笑みが消えたサマエル。僕は更に回転を上げた。サマエルにダメージは与えるものの、盾により致命傷は避けられている。どうやら速いだけでは通用しない。


「まいったな……」


 思わず心情を吐露してしまった。本当に万策尽きたが、最後にひとつ悪足掻きをする事にした。僕は瞬間移動でサマエルから距離を取り、全力で、サマエルに特攻をかけた。


 避けられても、防がれても終わりだ。この世界に来てからリスクを背負いっぱなしだが、不思議とリスクを避けて生きていた前世より、不安が少ない。


 頼れる仲間が居るからなのか、やり切った感があるからかは分からないが、僕に迷いはない。


「サマエル!!!」


 僕の攻撃と、サマエルの盾が衝突する。辺り一面に大爆発が起きたかのような、衝撃波が走る。


 衝撃波の中で僕は力を振り絞りゴリ押す。サマエルも盾に魔力を込め対抗する。


 そして遂にサマエルの盾を破壊した。


 だが、そこまでだった、肝心のサマエルに致命傷を与えるには至らなかった。もう飛翔を維持するのがやっとだ。


 流石に終わったと思ったが…………


「凄いねハルト……私も死ぬかと思ったよ……」


「何だ……止めを刺さないのか……」


「そうしたい所なんだけどね……魔力切れだよ、もう私に攻撃手段は無い」


 九死に一生を得たとは、まさにこの事だ。


「ハルト、私は君を侮っていたよ……次は最初から全力でやらせてもらうよ」


 どうやら次回に持ち越しのようだ。サマエルはそう告げると、姿を消した。


 僕はインヴィンシブルの反動で、身体中に激痛が走り、そのまま気を失ってしまった。落ちた先は運良くアブハム湖だった。



 ___目が覚めると天女のような女性と口付けしていた。よく見ると天女と思っていた女性はアレイスター先生だった。前にも言ったが、アレイスター先生の濡れ髪は破壊力が高い。


「せ……先生……」


「気が付いたか!」

 先生のマウストゥマウスだった。ボロボロになってしまったが、役得だ。ほんの少しだけ報われた気持ちになった。


「どうして先生がここに?」


「どうしてではない、この世の物とは思えぬ魔力の衝突を感知して来てみたら、空から君が降ってきたのだ……街中大騒ぎだぞ」


「あはは、この世の物とは思えないか……」


「笑い事ではないぞ」


「ちょうどよかった、先生に相談があったんだ」


「いやいやいや……相談より先に、何が起こったのか教えてくれ」


「あーそうだな……強敵が現れて戦った、力の限り戦った、そして敗れた、それだけだ……」


「な……敗れた……君ほどの力を持ってしてもか……」


「ああ、結果は引き分けだが、内容的には負けていた……もっと強くならないと勝てない相手だった」


「何者なのだ……そいつは」


「よくわからない奴だよ……強い力に惹かれてやって来るみたいだ」


「……強い魔力か……もう私の理解の範疇を超える魔力だったぞ……」


「そうだ、それで相談があったんだよ……痛っ」


「無理するな、もう少し横になっていろ」

 先生は膝枕で僕にヒールを掛けてくれていた。


「ありがとう、先生」


「で、相談とは何だ」


「実はさ、シルフィールドと契約したんだ」


「は…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?」


「シルフィールド、出てきてくれ」


「はい、マイマスター」


「シルフィールド、先生に自己紹介を」


「先生殿、風の四大精霊、シルフィールド、です」


「あ……ああ……私は、アレイスターです」


「これが、この世の物とは思えぬ魔力の正体だ、2人目の四大精霊と契約した」


「…………」


「先生?アレイスター先生?」


「……あ、ああ……すまん、何と答えれば良いのか分からなかった……」


「先生の気持ちも分かるよ、僕も正直、この力に戸惑ってるんだ」


「本人でもなのか……」


「ああ、そこで相談なんだよ、実習免除とか出来ないものかと……」


「そういう事か、確かにその魔力は危険かも知れないな」


「細かい魔力コントロールの修練はするが、せめてその間だけでも」


「分かった、その件は学園長に相談するよ」


「ありがとう先生」


「しかし、君は凄い勢いで、遠い世界の人間になって行くなぁ」


「そう言わないでくれよ……僕は変わらず皆んなを尊敬してるし、先生は変わらず僕の先生だよ」


「確かにそう言うところは変わらないな、謙虚なのは君の長所だ」


「ありがとう、でも……先生の濡れ髪の色っぽさには敵わないよ」


「な、な、な、な、何を言っている!」


「先生とはじめて会った時も思ってたよ」


「こら、やめんか!」


「ありがとう先生、すっかり回復したよ」


「もう!」


「よし、城に戻るけど先生はどうする?一緒に来るか?」


「私は、レビット殿と情報を共有するよ、誘ってくれてありがとう」


「じゃ学園で」

 僕は執務室に戻り、人心地ついた。


『なあ皆んな、サマエルって……どうやったら勝てるんだろう……』


『多分、アンタ以外は皆んな答え分かってるけど、って言えば察してくれるからしら?』


『うん、察したよ』


『我が主、ワシとクレイヴとウンディーネは奴になかったアドバンテージだ』


『そうなのか………』


『そう言えば、主様がどれほどのものを眠らせておるのか分かるじゃろ?』


『そうだな』


『マイマスター、頑張る』『我が君、頑張ってください』


『こうなっては何時サマエルが仕掛けてくるか分かんないもんな……急ぐ必要があるよな』


 僕の知らない僕のことを探ることを僕は避けていた。僕が僕で無くなる気がしたからだ。皆んなの話を聞いている限り、大きな力を得ることは間違いないのだろうが、代償も大きなものになるだろうと考えている。


 キーパーソンであるディアナとフレイもまだ対面させていない。


 そして僕にはもう1人僕がいる。


 僕でない僕が、もう1人の僕に目覚めたらと思うと……よからぬ考えがよぎってしまう。


 僕は相変わらず臆病なままだ。真実と向き合うメリットよりも真実と向き合うリスクを考えてしまう。誰かの歌詞にある、愛すべき存在が僕を臆病者に変えたのではなく、僕は最初から臆病者だ。


 しかし、サマエルに対して名乗りをあげるのは僕しかいない。僕は本当の意味でヒーローになる必要がある。

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