第48話 風の四大精霊シルフィード

 グーテンベルクに拠点を移して1ヶ月が経とうとしていた。毎日バタバタしていてオーバーワーク気味だが、泣き言は言ってられない。僕のファインプレーはラグインにカルを付けた事だった。2人の働きのおかげで領内整備にも一旦の区切りが見えてきた。


「ハルト、税関系の計算終わってるから、いつでも減税の施行ができるよ」

「こら、カル、ハルト様と呼びなさい」

「いや、ラグイン構わない」

 2人とやりとりする時のテンプレ会話だ。


「2人とも大変だったな、いよいよだ」


「でもいいの?収支を試算してみたけど……結構な赤字になるよ」


「その試算は現状を元にだろ?」


「んーまあそうだけど」


「大丈夫だ、赤字なのは最初だけだ。すぐに今より税収は増えるよ」


「えーマジかよ……全然分かんないだけど」


「僕を信じろ」


「お……おう」


「では、ハルト様、各所に指示を出してまいります」


「よろしく頼む」


「では」


 そんなわけで、グーテンベルクの領内運営は、やっとスタートラインに立てた。


『ウンディーネ、今大丈夫?』


『ん、大丈夫だけど……何?』


『ほら、前に言ってたろ、付き合えって……時間が出来たからさ』


『おー!そうだったわね』


『どうすればいい?』


『アブハム湖で待ってて』


『了解だ』


 僕はアブハム湖に移動した。久しぶりのアブハム湖だ。と言うよりシーサーペントの件以来だ。


 明るい時間帯にアブハム湖を改めて見ると、美しいの一言だ。水の精霊であるウンディーネが、ここを住処に選んだのもうなずける。


 僕は念のために探知で周囲を調べた。が、特に異常は見受けられなかった。アブハム湖の水面と同じく、森全体に穏やかな空気が漂っていた。


「ハルト、お待たせ」


「ああ、そんなにまっ……」


 僕はウンディーネと連れ立っていた女性に目を奪われた。サラサラの緑の髪に透き通るような白い肌。物悲しさを宿した緑の瞳……吸い込まれそうだ。


 美しい……凄く儚げな美しさだ。


「また、見惚れてたんでしょ?このスケコマシ!」

 スケコマシって……


「ああ、悪い、ガチで見惚れてたよ」


「彼女はシルフィード、風の四大精霊よ」


「ど、どうも、はじめまして……ハルトです」


「違う……はじめましてじゃない……」


「え……」


「やっぱり、ハルトがそうだったのね」

 シルフィードが頷く。


「何の事だ……サッパリ分かんねーよ」


「そう……何か事情があるのね……」


「んー、アンタも僕の知らない僕を知っているクチか」


「うん……よく知ってる」


「で、秘密なんだろ?」


「うん、貴方との約束……」


「そうか……悪いな、思い出すのは、まだまだ掛かりそうだ、まだ何も手を付けていないからな」


 シルフィードがジッと僕を見つめた。


「な……何だ……」


「しっ」

 黙れとの事だ、更に暫く見つめられたかと思うと、突然シルフィードがキスをしてきた。熱いやつだ。


「あぁぁーっ!」

 ちょっと怒り気味に驚くウンディーネ。僕は普通に驚いた。


「契約完了、マスター」


「えっ……」


「今日からハルトはマイマスター、不束者ですがよろしくお願いします」


「あ、え、よ、よろしく……って、いいのかウンディーネ?」


「まあ、いいんじゃない!」


「何か……怒ってないか?」


「怒ってないわよ!本当に隙か多いのよ!」

 明らか怒ってるが、突っ込まないでおく。


「うん……」

 シルフィードと契約した事で、幾つかの魔法のイメージが頭に浮かんできた。その中で、今やっても問題のない魔法を1つ行使した。


「飛翔……」


 飛翔を唱えると、僕の身体が宙に浮いた。この感覚……凄く懐かしい。


「流石マイマスター、直ぐに魔法使えた」


「何か、色んな魔法のイメージが頭の中に入って来た……」


「あーっ、やっぱりね!」

 ウンディーネの機嫌が悪い……キスしたからだろうか。


 ウンディーネと契約した時は、様々な水のイメージが頭に浮かんだが、シルフィードからは風のイメージのような物は感じる事はなかった。


「ハルト、これから魔法の行使には気を付けてよ」


「ん、何故だ?」


「アンタ自分で自分の魔力が分からないの?」


「確かに、魔力は上がった気はするけど……」


「ねえ、ハルト軽く魔力を込めてみてよ」


「ああ、分かった」


 ウンディーネに言われるまま、僕は気合を入れる要領で、魔力を込めてみた。


 その刹那、僕を中心に風が吹き荒れた。


「ぎゃっ!」


「こ……これは……」


「こら、ハルト!はやく止めて!」


「ああ、すまない……」


「まさか、これ程迄とはね……」


「ウンディーネ、シルフィードこれは?」


「こんなの……はじめて……凄い」

 頬を赤らめて言うのはやめて欲しい。


「2人の四大精霊と契約した結果よ……私もこんなに凄い魔力は、経験した事無いわ……」


「ウンディーネの言う通り、気を付けないとな……」


「ハルト……アンタ魔法学園は諦めた方がいいかも知れないわね……いつか事故起こすわよ」


「そうかも知れないな……1度先生に相談してみるよ」


「マイマスター……学園?……」


「あー、ハルトは人間の魔法学園に通ってるのよ」


「……びっくり……何故?……」


「付与魔法で、平和な世界を作るためだ」


 シルフィードが、両手で僕の手を取った。


「応援する、マイマスター、頑張る!」

 子どもの様に目を輝かせるシルフィード、可愛い……


「今から行く、魔法学園行く」


「あー、今日は休みだよ」


「そう……残念……」

 本当に残念そうだ。


「また、今度な」


「うん、行く」

 また、目を輝かせいる。本当に可愛い。


「ん……」

 物凄い速さで、ここに近づいて来る強い力を感じる……この、感じは……

「ハルト、何か来る!」

「ああ……」

 


「おや、今の強い力は君だったんだね、ハルト」


「サマエル……」


「凄いね君は!あれからほんの少ししか時が経っていないと言うのに、別人になってるじゃないか!」


「そりゃどうも……」


「君の成長を待つつもりだったけど……もう良いよね?やろうよハルト!」


「本当に好きだな……」


「あははは、数少ない楽しみだからね」


「ウンディーネ、シルフィード力を貸してくれ!」


「了解よ」「承知、マイマスター」

 

 ウンディーネとシルフィードを取り込み、飛翔で空に移動した。


「あははは!空まで飛べるんだね!とことんやれるね!」


「ついさっきな、お前とは地上じゃ戦いにくいからな」


「いいね!いいね!じゃあ行かせてもらうよ!」


 サマエルは以前にも増して大量の剣を顕現させ、仕掛けてきた。


 空を飛べるようになった分、回避は楽になったが、その分奴の攻撃もオールレンジになり、難易度的には変わらない。


 僕は回避しつつ、拳銃で、サマエルの剣を撃ち落として行った。絶対魔力が上がった為一撃で、一本の剣を確実に撃ち落とす事ができるようになり、前よりも安定して戦える。迎撃の合間に、反撃を加える余裕も出来た。


「フレイ!」


 防衛は僕が担当し、攻撃はフレイに任せた。


「くっ……勝利の剣か!」


 サマエルはフレイの猛攻に、たまらず剣を当たらせる。まさに、サイ○ミュバトルだ。


 僕はレーヴァテイン、クレイヴソリッシュを手に取り、攻撃に加わった。


「ぐあっ!」


 サマエルは、耐え切れなくなり、強大な魔力でバリアーを張った。


「強いね……ここまでとはね」


「それでも、攻め切れてないがな……」


「もう少し付き合ってもらうよ!」


 サマエルの魔力が数倍に膨れ上がり、衣装も変わった。


「この姿になるなんて、いつ以来だろうね……」


『主様、不味いのじゃ神衣じゃ』


『神衣?』


『神の戦闘服だ、いよいよやつも本気だぞ、気を付けろ』


『分かった』


 サマエルが、有り得ない速さで突撃を掛けてきた。サマエルの盾も形状が変わり、スパイクが付いていた。まるでザ○のショルダーアタックの様だ。


 僕は避け切れないと判断し、サンダーボルトを放ち迎撃した。僕のサンダーボルトの威力はこれまでの威力を凌駕していた。恐らく普通の強敵であれば、この一撃で沈んだかも知れないが、それでもサマエルには、届かなかった。


 僕も少しダメージを食らったが、突撃の勢いを殺す事は出来た。


「楽しいねハルト!まだまだこれからだよね!」


「元気だな……」

 こっちは頭フル回転で、話している余裕なんてないのに、よく喋るやつだ。


 サマエルがまた剣を顕現させた。剣だけではなく、槍や盾も混ざっていた。どうやらサマエルは剣だけではなく、武器を自在に操れる様だ。


「倒させてもらうよ!」


 サマエルの号令で、それらの武器が一気に襲いかかっていた「殺られる」そう思った瞬間、頭の中に新たな魔法のイメージが浮かんだ。


「スパーク!」


 僕に近付く全ての武器に落雷し、サマエルの攻撃を無効化する事が出来た。


 僕はここぞとばかりに、双剣で連撃を加える。以前サマエルの盾を砕いた時と同じぐらいの力で斬り込んでいるつもりだが、ビクともしなかった。


「この姿の私と互角とはね……本当に楽しいよ!もっと、本気出していいよね!」


 はったりであって欲しかったが、サマエルの言葉に嘘は無かった。大気が震え、こうして対峙しているだけでも、精神力が削られてしまう圧倒的な存在感。


 これは、やばいかも知れない。

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