最強チートを手にしたヘタレの異世界充実ライフ？

第47話 真実と契り

　その夜、ロビーから皆んなを迎え入れる準備は、明日いっぱいは掛かると報告を受け、ルナと連絡を取った。

『ルナ、ハルトだ、今大丈夫か？』

『大丈夫よ』

『皆んなの部屋の事だけど、準備に明日いっぱいは掛かるそうなんだ』

『そう、分かったわ、皆んなに伝えておく。あっ、無理して急かせる必要はないからね』

『オーケーだ、こっちも、そう伝えておくよ……』

『こっちはこっちで楽しくやってるから気にしないで』

『え、何それ？』

『余計な詮索すると、眠れなくなるわよ？』

『お……おう』

　どんな意味が込められているか分からなかったが、詮索はやめにした。

『と……ところで、ルナ聞きたい事があるんだけど』

　別に話を逸らしたわけじゃない。

『何よ』

『ブルーオーシャンって、魔物全部狩ったらマズいかな？』

『……マズくはないでしょうけど……全部狩るって……何のために？』

『資金調達だよ、全部換金したら相当な金額になるだろ』

『そ……そうね、確か、あそこはステル王子の直轄のはずだから、本人に直接聞きてみれば？』

『そうだな、明日、王都に向かうよ』

『伝えておくわ』

『ありがとう……それとルナ…………』

　神になった件、話さないといけないが……

『いや、何でもない、また明日な』

　勇気が足りなかった。

『待ちなさいよ、ヘタレハルト！』

『ちょ……直球だな……』

『例の件、話してくれる気になったんじゃないの？』

『う、うん……ただ僕も全てを正しく理解出来てなくて……』

　違う、これは明らかな嘘だ。僕は真実を話すのが怖いだけだ。

『ごめん、ルナ……』

『ハルト、今からこっちに来なさい……会ってちゃんと話して』

　ルナは真実を知りたがっている、そして知る権利もある……なのに僕は……

　……もう、逃げるのはやめよう。

『分かった、すぐに向かう』

　瞬間移動でルナの元へ向かった。

「マイオピアの家に行くぞ」

「うん……」

　そして、ルナを抱き寄せマイオピアの僕の部屋へ移動した。

「……何か、今朝出たばかりだけど、バタバタし過ぎてて、そんな感じがしないな」

「誰のせいよ、誰の……」

　墓穴を掘った。

「て、手厳しいな」

「もう、散々前置きしたでしょ、さっさと話しなさいよ」

「分かってる……分かってるんだけど……ルナ……僕は、怖い……今も話すのが怖い……見てくれよ」

　僕は震える自分の手をルナに見せた。そんな僕をルナが、しっかりと抱きしめてくれた。

「大丈夫、大丈夫だからハルト……私、覚悟は出来てるつもりよ……」

「……ルナ……」

　ルナが優しく頭を撫でてくれた、妙に落ち着く……

「話すよ……でも、このまましてもらってても、いいかな？」

「いいわ……本当、ヘタレね……」

　全くだ。

「ルナ……あの時、君は死んだ……」

「……そう……やっぱりそうだったのね……」

　死に際に告白してくれたのだ、覚えていないわけがない。

「でも、今のルナは生きている。アンデット化したとか、何か変な術を施したわけじゃない」

「それは……つまり、生き返ったって事？」

「ああ、そうだ……」

「……ハルトが生き返らせてくれたの？」

「ああ、新たに命を与えたみたいだ」

「……与えたみたい？……」

「自分でも意識していなかったからな……」

「じゃぁ、スキルとかそんなのじゃないのね……」

「違うよ……僕は……僕は、ただルナの死を受け入れられなかっただけなんだ……頭でも、心でも、その事実を全力で拒否した」

「……ハルト……」

「何度も何度も、強く拒絶した……そうこうしている間に、今まで味わったことのない激痛が身体中を巡ってね……気がつけば、ルナは生き返って、僕はこんな感じになっていたんだ」

「……それが……真実……」

「ああ、それが真実だよ……ルナが生き返って、僕は神に感謝したよ……僕の人生で1番嬉しい出来事だったからな……でも……」

「でも……」

「でも、その神は僕だったんだ」

「えっ！……」

　ルナに突き放され、壁ドンされた。これは凄くドキドキする。

「なっ……何それ？」

「僕は、真実をねじ曲げる不条理、つまり奇跡を起こした事が引き金で、神になったんだ」

「か……神……ハルトが神……」

「ああ」

「フレイヤ様と同じ神様？」

「ああ、そうだ」

「ええええええええええええええええええええ」

　流石のルナも驚いたようだ。

「な……なんで……」

「フレイヤの話しによると、僕は生まれつき半神半人間のデミゴッドだったらしい、それが奇跡を起こした事で、神に振り切ったみたいなんだ」

「元々半分は神様だったのね……」

「青天の霹靂だよ……そんな事、全然知らなかったし、この世界に来るまでは、何の恩恵もなかった」

「かなり、ぶっ飛んだ真実だけど……」

「全くだ」

「ありがとうハルト」

「ルナ……」

「私あの時、本当に死にたくなかった……やり残した事も、後悔もたくさんあった」

　僕と同じだ……

「ハルトに与えて貰った命……大切にするわ」

「それは、是非、もうあんな気持ちにはなりたく無いからな」

「うん、それはハルトも、同じだから……アンタも自分を大切にしてよ！」

「分かってる……つもりなんだけどな」

「ふーん……そう……で、ハルトは何が怖かったの？……」

「え……何がって……今の話し……僕は人間じゃなくなったんだけど……」

「だから何？」

「え」

「じゃぁ、ハルトに聞くわ、もし私達が人間じゃなかったらハルトは私達から離れていくの？」

「あ……」

　そんなことは絶対にない、仮に皆んなが魔族だったとしても、皆んなの元から離れることはない。

「少し相手の立場になって考えれば分かることなのに……ハルトは本当に臆病……自分を大切にする事も同じだからね！」

「ごめんルナ……」

「違うわよ、こんな時はありがとうって言うの」

「ごめ……ありがとうルナ……」

　そして、ルナにまた唇を奪われた。熱いやつだった。

「今度は、ハルトからしてね」

「う……うん」

　僕はタジタジだ。神になってもやはり本質は変わらない。どこまでもオクテなのだ。しかし、こんな時間に密室で男女が2人っきり、雰囲気も良い感じ……これはどう考えても据え膳食わぬは男の恥とかいうやつだ。

　僕は意を決し、自分からルナにキスをした。熱いやつだ……素人はもちろんのこと、玄人でも初体験。この先どうすればいいのかは分からなかったが、流れというか、本能というか……なんとか無事、ルナと結ばれることが出来た。人間の時に卒業出来なかった魔法使いから卒業した。

「ハルト……私、アンタと出会えて本当によかった」

「僕もだ……」

「寧ろ、ルナに出会わなかったら、あの時点で僕は終わってたけどな」

「そんなことはないでしょ」

「いやいやいや……やっぱり1人では無理だったよ」

「ボッチだったっけ？」

「そうボッチだ」

「ボッチも完全に卒業ね」

　暫くはそうだろう……でも僕は永遠に……

「ハルト、私はずっとハルトと一緒に歩んでいく覚悟があるわ……だから遠慮しないでね」

　そんな僕の心の内すらルナは見透かしているようだ。

「ありがとうルナ、僕はもう迷わない」

「でも……皆んなのことも大事にしてあげてね、皆んなハルトに本気よ」

　この辺りの感覚は僕の世界の感覚とズレているところだ。世界というか文明レベル的なものなんだろうか、それともお国柄なのだろうか、寛容なのは助かるが、イマイチ罪悪感が拭えない。

「皆んなのこともちゃんと考えるよ……もう少し色々馴染む必要はあるけどな」

「なんでも相談して」

「うん、心強いよ」

　暗い部屋のベッドの中でルナと寄り添う、いつもなら気まずいはずの沈黙すら心地いい。

「ハルト……」

「うん？」

「愛してる……」

　意中の女性からこのセリフを聞くと、心臓が止まりそうなぐらいドキッとする。僕は今幸せだ。

「僕も愛してる……」

　肌から伝わるルナの温もり、これこそが天国なんじゃないかと思うぐらいに安らぐ。このまま2人で眠ってしまいたい所だが、僕にはまだ大事なミッションが残されている。

「ルナ……ひとつルナに謝らないといけないことがあるんだ」

「また、新しい女でも作ったの？……」

「い、いや……違う……」

「怪しいわね……」

　ナンパまがいの行為でカルを雇ったが、セーフのはずだ。

「もっと大事な事なんだ……」

「私、それなんとなく知ってる」

「そうか……ごめんルナ……僕は君をデミゴッドにしてしまった」

「謝る事じゃないわ、私、ハルトと一緒なら平気よ……だから……」

「ああ、離さない……僕が永遠にルナを守るよ」

「守る？……逆じゃない？」

「そうかもしれないな……ありがとうルナ、愛してるよ」

「私も」

　本当は朝までこうして居たかったが、僕もルナも居ないと色んな意味で騒ぎになるので、暫く余韻に浸り、ルナを送り届けて自室に戻った。明日への活力を半端なくいただいた夜だった。