第46話 超記憶力のカル

 ラグインとロビーに、ババっと指示を丸投げした僕はようやく考える時間を取る事が出来た。ラグインも言っていたが、人手が圧倒的に足りない。


 どのような人材が必要なのか、どれほどの人員が必要なのか、詳細に数値化する必要がある。計算の速い人間が一定数欲しいところだが、まずは秘書が必要かも知れない。


 執務室で籠もっていても仕方ないので街に出た。


 やはり今まで僕が見てきた、マイオピア、キャズム、ソリューション、ホルダーの街に比べると圧倒的に活気が足りない。この世界のシステムでは中央の意向を地方に伝えるのは、困難だ。もちろんインフラが整備されていないからだ。その為、地方に独立裁量権があるのは仕方ないが、こうも差があると、ある程度中央の役人が何とかするべきだろうとも思う。


 しかし、プロエディ卿のように、中央と反りが合わない場合はそれすら上手く機能しない。全ての貴族や政治家が、公平な政治を行うとも考えにくいし、才能があるとも考えらにくい。僕やバイルスが治政の礎を築いたとしても、その志を継ぐ者が必要だ。


 となると、目に見える問題を片付けるだけでは足りない。同じような志と知識を持った人材を常時育成していく必要がある。正しい教育を受ける為の機関が必要だ。魔法のような難しいシステムを受け継げているのだから、政治レベルでも同様の事が可能なはずだ。


 僕のような民主主義の世界で育っただけの専門家でない人間の目から見ても問題は浮き彫りなのだ。何処まで出来るかは分からないが、生半可なことでは成果が上がらないだろう。


 街の中央部まで、進むと、他の店より繁盛している露店があった。アクセサリーや小物を販売しているようだ、僕がこの店に興味をもったのは、決して皆んなの機嫌を取る為のアクセサリーを買う為ではない。


「お兄さんいらっしゃい」

 

 ワンオペでこの店を取り仕切っていたのは、20前後のボーイッシュなお姉さんだった。僕を含めて6人同時に接客してる。最初は彼女が可愛いから集客出来ているのだと思っていた。


 彼女は客からの質問にも的確に答え、愛想も良い。僕は暫く彼女の仕事っぷりを観察していた。何組かの客が、商品を購入して行ったのだが、計算が爆速だ。暗算の速さは僕も勝てないかも知れない。


「お兄さん、さっきから何難しい顔してるんだよ」


「いや、君の仕事っぷりに見惚れてしまってな、商品を選ぶどころじゃなくなったんだよ」


「何だ、兄さん新手のナンパか?」


「そうかもな、君に凄く興味がある」


「マジか」


「マジだ」


 丁度良いタイミングで、別の店員が露店に戻ってきた。


「ただいまカル、今日はありがとうね、上がっていいよ」


「あいよ、丁度いまイケメンの兄さんにナンパされてたんだ」


「おー、彼?」


「ども」


「本当にイケメンじゃん」


「兄さん、あーし今から飯行くけど一緒に行く?」


「勿論行く」


「あ、カルこれ今日の分ね」


「サンキュー!」


「また、お願いね!」


「あいよ!」


「じゃ、お兄さん行こう」


「ああ」


 僕はカルと一緒に食事に行く事になった。


「お兄さん、この辺で見かけない顔だね」


「ついさっき、マイオピアからここに来たばかりなんだよ」


「へー、そうなんだな、じゃあ折角だし、おすすめの店教えてあげようか?」


「ああ、頼むよ」


「そん代わり、お兄さんのおごりだから」


「それは任せてくれ、僕はハルトだ。君はカルでいいのか?」


「うん、カルでいいよ!つか……ハルトって、どこかで聞いた名前……」


「どこにでも居るありふれた名前だからな」


 カルに案内された店は、昔ながらの喫茶店って感じの雰囲気で、懐かしさを感じずにはいられなかった。僕は相変わらず何を注文していいのか分からなかったので、カルと同じ物を注文した。そう言えば、今日はじめての食事だ。


「趣のあるいい店だな。この雰囲気、落ち着くよ」


「でしょ!あーしは何かアンティークでゴチャッとした感じが好きなんだ」


「アンティークか……」僕にとっては見る物全てがアンティークだ。


「僕も温かみが好きだ」


「ハルトは、あーしをナンパする所といい、趣味がいいね」


「ああ、そうだろ」


「素直だね!」


「ところで、カルは今の仕事長いのか?」


「いや、今日、たまたま手伝っただけだよ」


「え……マジか」


「ん、何で?」


「いや、接客とか的確だったし、金勘定もやたら早かっただろ」


「つーか、何でそんなに見てたん、ちょっとキモいんだけど」


「な……何かすまん……」


「いーけどね、ハルトはイケメンだから」


「ありがとう、しかし驚いたな……」


「あーしはさあ、昔から記憶力がやたら良いんだよね、金勘定も半分は計算じゃなくて記憶かも知んない」


「マジか……凄いな」


「ふっふっふ、凄いだろ!だから、あーしの前では滅多な事言わない方がいいよ」


「う……うん……覚えとくよ」


「ハルトは冒険者なの?」


「そうだ」


「やっぱ、そうか!凄い身体してるなって思ってたんだ!かなり鍛えたんじゃね?」


「そうだな、結構修行したな」


「何か凄いクエストとかやったことあるん?」


「んークエストは一般的なのしか受けた事ないな」


「そっかー、ねえ、ハルト、冒険者って稼げる?」


「人による……じゃ答えにならないよな」


「そうだね」


「カルは稼ぎたいのか?」


「うん!稼ぎたい!……と思って、ここに来たんだけど………結局半分ぐらい国に持ってかれるし……」


「そうか……そうだよな」

 重税が有能な才能を埋れさせていた。


「なあ、カル冒険者じゃなくても、稼げる仕事はある、紹介しようか?」


「おーマジか!それは是非…………あ、……」


「どうした?」


「……体売るとかは嫌だから!」


「ちげーよ!……まあ確かにカルならそれでも稼げそうだけど」


「何処見てんだよ!変態!」


「悪い悪い、冗談だよ」


「なんかさーハルトってちょっと悪そうなイケメンじゃん、スカウトマンと思っちゃったよ」

 うそ、スカウトマンと被るのか。


「真剣な話、幾ら稼ぎたいんだ?」


「そうねー、今、頑張っても月17万ペイそこそこだから、倍は行かなくても25万ペイは稼ぎたい!」


「それなら、問題ない。……ただな、住み込みになるんだけど大丈夫か?」


「住み込みか……家賃は?」


「無料だ、食事も朝夕は保証する。昼は業務次第だな」


「マジか!すげー待遇じゃん!やるよ!やるやる!」


「そうか、助かるよ、早速今日からでもいいか?」


「いいよ!」


「交渉成立だな」


「で、何するん?」


「グーテンベルク領を立て直す仕事だ」


「へ……何言ってん?」


「僕はマイオピア、キャズム、ソリューション、ホルダーと見てきたけど、この街には活気が無い。カルにお願いするのは、それを何とかする為の仕事だ」


「そ……そんなこと出来るん?」


「違うぞカル、出来るのかじゃなくて、やるんだよ」


「おー、何か格好良い!」


「飯食ったら職場に案内するよ」


「オッケー!」


 カルに教えてもらった店で出た料理は、昔ながらの喫茶店で出る、ナポリタンだった。小さな鉄板に盛り付けられていて、オリジナル要素として、薄い玉子焼きが敷かれていた。


 絶品だった。懐かしさもあり、具とパスタとケチャップとのバランスも絶妙だった。満足度の高い食事だった。


 食後はセットのストレートティーを頂いた。


「美味かった……いい店だな」


「でしょ!しかも安いのよ!」


「いくらだ?」


「500ペイ!」


「この満足度で……安!」

 採算が取れているのか不安だ。


「ねーハルト、冒険者っていったじゃん」


「ああ」


「ランクは?」


「ああ、ランクか……一応ダイヤだ」


「へ……」


「冒険者証見るか?」


「うんうん!」


「ほら」カルに冒険者証を見せた。


「ま、マジか……」


「なかなか、やるだろ」


「なかなか、何てもんじゃないじゃん!ダイヤって世界に6人しかいないんだろ?」


「僕が7人目だ、つい先日なったばかりだがな」


「何やったらダイヤになんか、なれるんだよ……」


「それは、職場に着いたらおいおい話してやるよ」


「うん!何か楽しみになって来た!」


「じゃ、早速いくか」


「うん、よろしくハルト」


 僕達は、世間話をしながら、グーテンベルク城を目指した。カルは近くの村から出稼ぎに来ているらしい。生活はかなり苦しく、カルの仕送りが生命線との事だ。


 ますます頑張らなければと思った。


「ついたぞ、ここだ」


「え……ここって……グーテンベルク城?」


「そうだ、カルには今日からグーテンベルクの文官として働いてもらう」


「な、な、な、な、何言ってんだよ」


「僕は、グーテンベルクの新しい領主、ハルトだ。カルの力を貸して欲しい」


「えっ、えっ、えっ……」


「えええええええええええ」


 カルの叫びがグーテンベルク城にこだました。計算も記憶力も今の僕に必要なスキルだ。取り敢えず1人優秀な人材が確保出来てよかった。

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