第45話 グーテンベルク改革

 ルナ達に加え、ディアナとドリーもグーテンベルクへ行くことになった。しかしグーテンベルクにはまだ行ったことが無いので、瞬間移動は出来ない。なので先行して僕だけで行くことになった。


 移動時間は知れているのだが、皆んなを迎え入れる準備も必要なので、迎えにいくのは明日から3日程度の猶予をもらった。


 あの後、僕を除く皆は謎に意気投合し、それまでの間は王国で厄介になる予定だ。王国としても勇者を賓客として迎え入れる事が出来るのは、今後の政治的に良い効果をもたらすだろう。


 暫く飛ぶと、グーテンベルクの街が見えてきた。城壁に囲まれた大都市で、城は北西の山岳に面して築城されている天然の要塞だ。


 街の様子を見たかったので、少し手間で着陸し、徒歩で街に入ることにした。まだ早い時間と言う事もあり、人々が検問に並んでいた。


 僕も並んで様子を伺う事にした。暫くすると商人風の男が衛兵と揉めていた。


「幾ら何でも、100万ペイは高いですよ、もう少し何とかならないのでしょうか?」


「駄目だ、商人は一律で100万ペイと定められている」

 

 100万ペイ……関税として適当な金額かは分からないが、交通の要所でもあるこの地で、一律の税を掛けるのは、あまりにも足元を見た徴収法だ。


 そう言えば、本拠地移転の話が出た時に、税が高いとレヴィが言っていた事を思い出した。


 商人は諦めて、引き返そうとしていた。


「待ってくれ」


「何だね君は」


「今のやり取りを見ていた者だ、各地の検問でも関税は同じぐらい掛かるのか?」


「とんでもない、高くても10万程度だよ……ここは、他に道がないからね……ここまで高いとは思ってなかったよ」


「出直すのか?」


「そうするしか、ないからね」


「少しまっていろ」


 関税が100万とかありえない、そもそも関税自体ナンセンスだ。


「お前達に話がある」僕は検問に割り込んだ。


「何だ貴様は」


「僕はここの領主のハルトだ、責任者を呼んでくれ」


「ご領主様だと?」


「ああ、そうだ、お前が責任者か?」


「そうだ俺が責任者だ」


「では、申し伝える。今日より関税は撤廃だ、あの商人を通してやれ」


「は?イキナリ来て何言ってんだ?ご領主様は黒髪だぞ?貴様のような歌舞いた髪ではない」


「あ、そうだったな……ここはシュボードの管轄か?それともラグインか?どっちだ」


「シュボード様を呼び捨てにするとは貴様……」


「シュボードだな、少しまってろ」


 僕は瞬間移動でシュボードを連れて来た。


「シュボード、ハルトだ。この者に僕が領主であると証言してくれ」


「え……え、え、こ、ここは……」


「南門だ」


「ハルト様……随分雰囲気が変わられましたね……」

「色々あったんだ、ラグインが一緒の時に詳しく話そう」


「はい、承知しました」


「これで、証明出来たかな?」


「は、はい!ご領主、申し訳ございませんでした」


「いや、君の対処は適切だ、今後もその調子で頼む」


「ありがとうございます」


 シュボードを連れて帰り、僕だけ戻って来た。そして、商人の元へ。


「聞いての通りだ、今日からグーテンベルクでは関税を撤廃する。ゆっくりして行ってくれ」


「ご領主様だったのですね、ありがとうございます!」


 僕は門番に、他の門へも伝えるよう申し付けて、街に入った。


 交通の要所である大きな街にしては活気が無い。物価もマイオピの倍ほどある。そして、ホームレスが目につく。これは早急に対応する必要がある。


 僕は瞬間移動でラグインの元へ飛んだ。ラグインは僕の言付け通り検地を実施していた。ラグインは上手くやっているように見えるが、僕は判断を誤った。税率の見直しが最優先だ、恐らく今の税率は高い。そんな状況下で検地など行えば、更なる引き上げを警戒されてしまうだけだ。


「ラグイン」


「え……あ、あなたは……」


「ハルトだ、すまないが、差込みたい業務がある」


「は……ハルト様……更にイケメンになられましたね……」


「ありがとう、色々あったんだ、取り敢えず城に戻ろう」


「はっ」


 僕達は取り敢えず、城に戻った。


「早急に財務状況が知りたい。なにか資料はあるか」


「お持ちします」


 ラグインに資料を見せてもらって驚いた。全ての住民が一定の税率だったのだ。およそ45%程度徴収されている。45%と言えば、元の世界で言うと年収4000万超えの人を対象とした税率だ。そして領内の備蓄は潤沢にある。今の支出だと5年は税金を徴収しなくても領内が運営できる計算だ。


 税は徴収するが、領民への還元は無い、そんな感じだろう。


 ブロエディは私服を肥やしまくっていたのだろう。しかし、何故こんなことがまかり通るのだろうか……もしかするとブロエディのやつは、高い税率を払う代わりに魔族から守ってやるなんて交換条件を住民に強いていたのではないだろうか……


 世界の事情があるので、王政を廃止して民主主義にとは思わないが、一般の方が不利益を被るこの税制は早急に廃止しなければならない。


「ラグイン、早急に行って欲しいことがある」


「はっ」


「税率を引き下げる。年間で4000万ペイ以上を稼ぐものは40%、2000万ペイ以上から4000万未満は30%、1000万ペイ以上から2000万未満は20%、1000万ペイ以上から2000万未満は20%、100万ペイ以上から1000万未満は10%、100万ペイ未満は免税だ」


「へ……そんなに大胆に引き下げるのですか……」


「ああ、すぐに取り掛かって欲しい、人員が足りないなら雇ってくれ。とにかく早くだ」


「は……はい!」


「後、物価が高すぎる……関税を撤廃したことをアピールして、外部からもっと人を呼び込もう。きっとこれは税の高さが原因で価格を上げざるを得ない状況と関税が高くて競争相手が居ないことが原因だ」


「なるほど……」


「街にある僕所有の不動産については一般に解放する」


「え……」


「例えば書庫などは図書館として無料で一般に解放してやるんだ、この美術品を集めている館は、美術館として無料で一般に無料解放だ」


「よろしいのでしょうか……」


「構わない、管理する人員が必要なら雇ってくれ」


「はい」


「それと、これは極めて重要なミッションなのだが、ホームレスの為に開放できる施設は無いか?」


「街の中央にハルト様の屋敷がございます」


「よし、そこをホームレスに開放しよう、そして仕事を斡旋してやるんだ」


「承知致しました……しかし、幾ら人手が有っても足りなさそうですね」


「備蓄している資金で積極的に人を雇ってまかなってくれ……いいかラグイン、今備蓄している資金の半分は君の裁量で使ってくれて構わない。グーテンベルク領の領民の為に、少しでも早く、今挙げた施策を実行して欲しい。金に働かせるんだ」


「は……半分もですか……」


「ああ、もう半分はシュボードに託す。こんなに備蓄してても意味がないからな」


「しょ……承知しました!」


「それと……すまないが、この城の給仕を取り仕切っている者をここに呼んでほしい」


「はっ!」


 お金の管理も雑だし、使途不明金の多さに怯えてしまう。政府がこんなのでも、税金は領民の努力の結晶、つまり皆んなのお金だ。こんな使い方で良いはずがない。


「ハルト様、お連れしました」


「メイド長のロビーでございます」


「呼び立ててすまない……実は私的なお願いがあってな」


「私的な、お願い……ま、ま、まさか……夜の伽ですか!」


「ちげーよ!」


「ご領主様ならイケメンなので問題ありませんのに」


「僕に有るよ」


「実はな、この城の同居人が増えるんだ、部屋を用意して欲しい」


「承知しました。そんな事だったのですね」


「で、どちら様が?彼女様ですか?」


「えーとな……勇者ルナ、勇者ロラン、ドルイドのエイル、賢者レヴィ、ディアナ王女、マークアップ侯爵令嬢ドリー姫だ」


「「へ」」


 これにはラグインも戸惑っているようだ。


「な、な、な、な、何ですか!?何故、そんな世界のVIPの方々が、こちらに住まわれるのですか?」


「そうだな……僕は元々勇者パーティーの一員なんだ、自領を得た事だし、拠点をここに移そうと思ってね……王女と姫は成り行きだ」


「そ……そうだったのですね……王女と姫が成り行きとか意味がわかりませんが……」


「ハルト様は乱れた女性関係なのですね」


「いや、違うよ、僕は決して乱れてないからね!」


「ご主人様は世間の人とは違った感覚をお持ちのようなので、きっと、あっちも……」


「いや、本当に違うからね」


「承知いたしました。VIPの方々の名に恥じぬお部屋をご用意致します」


「よろしく頼むよ……それとラグイン、明日朝一はシュボードを含め、城で働く全ての者を集め朝礼を行う。皆んなに僕の方針を伝える」


「承知しました」


 ちなみにロビーの見た目はクールなお姉さんって印象だった。シュボードと雰囲気は似ているが、ロビーの方が少しゆるい感じだ。


 グーテンベルクでやる事は思った以上に沢山ある。まずは人材登用からだ。国の礎は人だ。適材適所に人を配置し、評価システムを構築すれば、今より劇的に人々の暮らしは良くなるはずだ。

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